原子力損害賠償紛争審査会の委員に意見書

自主避難者の賠償について、市民団体が原子力損害賠償紛争審査会の各委員に送付した意見書『「自主」避難者への賠償について 中間指針に盛り込む必要性とその根拠』が、国際環境NGO FoE Japanから届きましたので、ご紹介します。
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原子力損害賠償紛争審査会
委員各位

「自主」避難者への賠償について 中間指針に盛り込む必要性とその根拠

 先日は、避難区域外からのいわゆる「自主」避難者が、避難せざるをえなかっ
た状況、補償が不透明で仮払い金や義援金も受けられない中で困難に陥っている
実状、また避難せざるをえない状況にありながら、補償が不透明な中で避難でき
ずに苦しんでいる実状について、住民の声として寄せていただいたものを送付さ
せていただきました。また、自主避難者への賠償を求める要請書およびアンケー
トを送付させていただきました。
 水素爆発の恐怖から…、高線量が続く中で…、子どもたちだけでも避難を実行
したが、二重生活でかさむ生活費、交通費…。区域外避難者・「自主」避難者が、
決して自分勝手に避難したわけではないこと、また補償が必要な実状について、
ご理解いただけたものと思います。
 第12回の審査会において、この問題を取り上げていただいたことに感謝いたし
ます。委員のみなさまから「ものには出荷制限、ひとには避難指示、ものついて
は風評被害も賠償の対象、ひとについては、広げていない。回避行動が合理的で
あれば(「自主」避難は)予防原則でいう懸命なる回避」「避難区域のすぐそば
の方お子さんとかいれば気持ちわかる」といった発言がありました。
 ここに改めて、避難区域外避難者・「自主」避難者に対する補償の原則を、中
間指針に明記していただくよう要請します。以下に理由をあげさせていただきま
す。ご検討のほどよろしくお願いいたします。

1.行政の対応が遅れる中、避難を余儀なくされるケースがある

(1)線量が高いのに行政が対応しない

 福島市は、6月17日と20日の2日間で、市内1045箇所の空間線量を測定しまし
た。その結果、伊達市で特定避難勧奨地点の目安とされた3.2マイクロシーベル
ト/時を超える線量が10箇所以上で観測されました。福島市渡利平ヶ森地区では、
3.2~3.8マイクロシーベルトの線量が4箇所で観測され、高い線量が面的に広がっ
ていることが明らかになりました。住民らは、避難をせずに住み続けた場合、積
算線量が20ミリシーベルトに達する恐れがあります。その後、渡利地区において、
同様に線量が高い福島市大波、小倉寺などとともに、特定避難勧奨地点について
の説明会が開かれるとの報道がありました。しかし説明会はいつまで経っても開
催されず、住民らは高い線量の中で放置された状態にあります。こうした住民が
避難を考えた場合、補償を受けるのは当然のことと考えます。

(2)避難先の整備が遅れている

 福島市は7月16日に、福島市西部地域に公営住宅を建設し、線量が高い福島市
東部地域から移転させる計画を公表しました。これは、福島市が、福島市東部地
域が移転が必要なほど線量が高い状態にあることを一定認めた措置だと思われま
す。しかし、西部地域での公営住宅建設の目処は全く立っておらず、いつ移住で
きるのかわからない状況にあります。こうした住民が、公営住宅建設を待たずに
避難を考えた場合、補償を受けるのは当然のことと考えます。

(3)水素爆発直後の避難の判断の合理性

 福島第一原発で水素爆発が発生した後、3月15日から福島市や郡山市など、中
通り地域の線量は急上昇し、福島市では20マイクロシーベルト/時を観測してい
ます。この数値は、年20ミリシーベルトに達する目安である3.8マイクロシーベ
ルト/時(屋外8時間、屋内16時間)を大きく上回ります。その後線量は下がっ
ていきましたが、20マイクロシーベルト/時の時点で積算線量を算出すると、年
100ミリシーベルトを大きく上回ります。いつ次の爆発が起きてもおかしくなかっ
たこの時点で、その後の線量の推移を正確に推測することは不可能です。政府は
3月12日に決めた避難区域を変更しませんでした。この時期に、自主的に避難を
決断し、実行した住民が多くいますが、この判断の合理性を疑う余地は全くあり
ません。

2.避難の基準とされている20ミリシーベルトは高すぎる

(1)国際的な避難基準

 フランスの原子力安全委員会(IRSN)は、日本政府に対し、避難基準として、
10ミリシーベルトを採用し、7万人余りの追加の避難を行うよう勧告しています。
チェルノブイリ原発の周辺国は、チェルノブイリ原発事故による避難基準につい
て、年5ミリシーベルト(セシウムによる土壌汚染555キロベクレル/平方メート
ル)以上を移住の義務ゾーン、年1~5ミリシーベルト(セシウムによる土壌汚染
185~555キロベクレル/平方メートル)を移住の権利ゾーンに定めています。文
部科学省及び米国DOEによる航空機モニタリングによると、伊達市や福島市の一
部で移住の義務ゾーン、福島市から郡山市に続く中通り地域で移住の権利ゾーン
に相当する土壌汚染となっています。

(2)放射線管理区域は年5.2ミリシーベルト

 法令により、3ヶ月1.3ミリシーベルトを越える区域は、放射線管理区域に相当
します。放射性管理区域では、労働法規により、18才未満の労働は禁じられてい
ます。放射能マークを掲示し、子どもを含む一般人の立ち入りは禁じられ、厳格
な放射線管理が行われ、事前に訓練を受けた者だけが立ち入ることのできる区域
です。3ヶ月1.3ミリシーベルトは年5.2ミリシーベルト、空間線量は0.6マイクロ
シーベルト/時にあたります。学校や通学路、公園、場合によっては家の中でも
放射性管理区域のレベルを超える場合がありますが、母親が、もう逃げ場はない、
とても子どもを育てる環境ではないと判断し、避難を実行したような場合に、補
償を受けるのは当然のことと考えます。
 日本弁護士連合会は、7月13日に出した会長声明で、「損害賠償の範囲を検討
するに当たっては、予防原則に照らし、放射線の影響を危惧しこれを回避するこ
とが社会通念上相当と考えられる場合、最低でも、福島第一原子力発電所事故発
生直後に相当量の放射線を被ばくした住民、更に」放射線管理区域とされる線量
「を超える放射線が検出された地域から避難した住民及び現にこのような地域に
居住又は避難している住民に対しては、合理的な範囲内として、避難費用・精神
的損害について、賠償がなされなければならない」としています。

(3)白血病の労災認定基準は年5ミリシーベルト

 原子力発電所等の労働者がガンや白血病で亡くなった場合の労災認定基準は、
年5ミリシーベルトからと定められています。過去35年で10人が累積被ばく線量
などに基づき労災が認定されており、累積被ばく線量5.2ミリシーベルトで認定
された事例もあります。

(4)公衆の被ばく限度は1ミリシーベルト

 法令による公衆の年間の線量限度は1ミリシーベルトです。福島県民にも、他
の県民と同様に、余分な被ばくを避ける権利があるはずです。その意味では、年
1ミリシーベルトを超える被ばくを避けるために住民がとる措置に対し、補償を
受けるのは当然のことではないでしょうか。

(5)すでに「緊急時被ばくの参考レベル」ではない

 20ミリシーベルトの基準は、ICRPによる緊急時被ばくの参考レベルである20~
100ミリシーベルトの下限値をとったものです。しかし緊急時の参考レベルは、
「被ばく低減に係る対策が崩壊している状況に適用」(ICRP 2007年、Pub.103)
とされており、事故後、せいぜい数週間を想定したものと考えられます。「緊急
時被ばくの結果生じる長期にわたる汚染の管理は、現存被ばくとして扱う」
(ICRP 2007年、Pub.103)こととされており、事故終息時の現存時被ばくの参考
レベル1~20ミリシーベルトが用いられます。ICRPは、福島事故に際して発した
声明において、1~20ミリシーベルトの現存時被ばくの参考レベルの適用につい
て、「当局があらゆる必要な防護策を行う」ことを前提に、「長期目標として参
考レベルを年間1 mSv とすることを引き続き勧告する」としています。

3.避難区域外・「自主」避難者への賠償を中間指針に明記してください

 低線量被ばくが健康に影響をもたらすことについては、それを明確に否定する
こともできませんし、立証することは困難です。日本の現行法令は、低線量であっ
ても、線量が増えればそれに比例してリスクが増すとのICRPが採用する考え方を
採用しています。
 また、前述のように、「自主」避難が、政府の対応の不備や避難基準の設定に
問題があることから生じている側面があります。避難した方々の判断は、多くの
場合、自らおよび子どもを含む家族を守るのには、合理的であり、やむをえない
判断です。避難をされた方々の中には、経済的に切迫した状況にある方も多々い
ます。また、経済的な理由で避難に踏み切れない方もたくさんいます。
 こうした点をご考慮いただき、是非とも原子力損害賠償紛争審査会において、
避難区域外・「自主」避難者への賠償を認める原則を中間指針に明記するよう、
改めてお願いいたします。

また、今後、審査会において避難区域外の賠償について審議されるにあたっては、
避難をせざるを得なかった住民等からの聞き取りをしていただけますよう併せて
お願いいたします。

なお、ご承知のように、福島県知事は、5月14日に国に対し緊急要望を提出し、
「避難等指示区域外の住民が安心を求めて避難することは妊婦や子どもを持つ親
はもとより、すべての県民にとってやむにやまれない行動であることから、政府
による非難等の指示区域外の住民の自主的な避難経費についても、確実に賠償等
の対象とすること」と述べています。福島県知事、市町村長、商工会連合会、J
Aグループで構成する福島県原子力災害対策協議会も「自主」避難者への補償を
求める意見を出しています。また、前述のように、日本弁護士連合会も7月13日
付会長声明で「自主」避難者への補償を求めている点を、付記させていただきま
す。

子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
福島老朽原発を考える会(フクロウの会)
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO グリーンピース・ジャパン
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by kazu1206k | 2011-08-02 19:46 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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