東京電力の刑事告発

東京電力が福島第一原発事故を起こして7ヶ月以上が過ぎましたが、「法治国会」であるはずの日本で、この事故は「刑事事件」として家宅捜査もされず、依然、放置されています。異常な事態です。この間、作家の広瀬隆さんとルポライターの明石昇二郎さんは、7月8日、東京電力の勝俣恒久会長らを東京地方検察庁特捜部に刑事告発しました。

責任の所在を明確にするため、告発状は2通作成されました。
ひとつは、放射能汚染事故を引き起こした責任そのものを問うもので、罪状は刑法第211条の業務上過失致死傷罪です。これには東京電力の勝俣会長や班目春樹原子力安全委員会委員長をはじめとした責任者らを刑事事件の容疑者とすべき者、被告発人としました。
ふたつめが、放射能汚染が広範囲に及んでいる事実を早くから知りながら、子供たちへの防御策を積極的に取らず逆に放置した「放射線専門家」らの責任を問うものでした。

この刑事告発の件で、8月の天竜川・川下り船の転覆事故で会社が家宅捜索際に、広瀬隆さんが寄せた文章と東京地方検察庁特捜部直告班に提出された、ひとつめの東京電力等の告発状を転載します。
また、7月15日におこなわれた広瀬さんと明石さんの記者会見は Youtube の次の url でダ
イジェストを見ることができます。
http://www.youtube.com/watch?v=b_mddLgBU38&hd=1

          刑事告発について               広瀬 隆

○ 明石昇二郎さんと広瀬による刑事告発に対して、みなさんからの支援がいただけるとのこと、そのお気持に心からの感謝を申し上げます。
 ただし私は、みなさんからの支援を期待しているのではありません。私たちがすべての日本人に期待しているのは、みなさんが、私たちのやり方に倣って刑事告発をしてくださることだからです。

○ 8月17日に浜松市の天竜川で川下り船「第11天竜丸」が転覆する事故が起こり、5人の死者を出しましたが、その翌日の18日に、静岡県警捜査一課と天竜署は、業務上過失致死容疑で、運航会社の天竜浜名湖鉄道など3ヶ所を家宅捜索し、段ボールに資料を詰めて運び出しました。しかしその5ヶ月以上前の3月11日に、福島第一原発メルトダウン事故を起こした東京電力に対しては、9月に至っても、いまだに本社に対する家宅捜索がおこなわれていません。おかしいと思いませんか? いずれの事故のほうが深刻か、という問題ではありません。すべての事故は深刻です。しかし、原発事故に限っては、なぜ捜査の対象にならないのか、という日本の根幹となる司法問題の矛盾と疑問を抱いて、経過を観察してみれば分ることがあります。もし東京地方検察庁特捜部が、明石昇二郎・広瀬隆の名で刑事告発した告発状を受け取りながら、被告発者の東京電力本社を家宅捜索しないならば、そこに巨大な国家的不正が存在することは明らかです。

○ では、私たちがみなさんに期待する「刑事告発」は、どのようにすればできるのでしょうか。これは簡単なことなので、その手順を知っていただくだけでご理解いただけます。
 実は、私は過去の原発裁判に関わった経験があるので、時間・労力・費用を費やした上に、最後には最高裁判所で、住民側の訴えが百パーセント棄却されることが慣例になっている制度の中で、裁判のように面倒で実りのないことは、したくなかったのです。ところが、刑事告発では裁判をする必要がありません。必要なのは「告発状」と新聞記事などの「証拠」、そして告発する本人の「陳述書」を書いて、それを最寄りの地方検察庁か警察に、配達証明付きで郵送するか、直接提出するだけでよいのだということを、明石昇二郎さんに教えていただいて、それなら私でもできるからと、刑事告発したのです。
 したがってこの刑事告発では、告発人である私たちは、面倒な裁判には何も関与しません。今後は、私たちが提出した告発状に基づいて、告発された人間たちを、東京地方検察庁特捜部が捜査して、特捜部が刑事告訴するかどうかにかかっています。

○ 特捜部が告訴するには、明石さんと私の考えを支持する世論の声が大きくなるほど、検事たちの心が動いて、有利になります。東京電力幹部や原子力安全委員会、原子力安全・保安院、山下俊一らの行為を、人道的犯罪であると認定する根拠が、大量に東京地方検察庁特捜部に寄せられることによって、検事たちがこれを無視できないと考えて、動きやすくなります。したがって、私たちに対する支援というより、私たちと同じく、福島第一原発メルトダウン事故およびその後の被曝放置は犯罪であると考える人は、できるだけたくさんの人が、同じように刑事告発してくださることが一番です。

○ 警察署で尋ねれば、やり方を教えてくれますが、告発状のひな型は、明石さん主宰のルポルタージュ研究所の下記サイトで、私たちが書いた告発状と陳述書がPDFで入手できます。これをそっくり真似て書けばよいのです。あるいはそれに、ご自分の考えを足して、何が人道的な犯罪であるかという証拠(たびたびの被曝報道などの新聞コピー)を加えていただければ、多数の意見が反映されます。ご自分が怒りを覚える被告発人を、さらに加えていただいても結構です。
 みなさんが黙っているということは、放置しておけば、ますます原子力マフィアが生き延びて、次の大事故、大被曝を引き起こします。一刻も早く、その行動を起こしてほしいのです。
ごく簡単なことですから、まず、やってみてください。明石昇二郎さんのルポルタージュ研究所のサイトは、下記です。
http://www.rupoken.jp/

●告発状「東電用」 

告 発 状

東京地方検察庁 特捜部直告班
ご担当者 殿
                          平成23年7月8日
                         告発人 明石 昇二郎 印
                          同  広瀬 隆   印
当事者の表示

別紙「当事者目録」記載のとおり

第1 告発の趣旨
 被告発人らの下記所為は、刑法第211条(業務上過失致死傷罪)に該当すると思料されるので、徹底捜査の上、厳重に処罰されたい。

第2 告発の原因
 1. 当事者
(1) 東京電力株式会社(被告発人1、2及び15)
 被告発人1である東京電力株式会社(以下「東電」という)を代表する代表取締役会長は、勝俣恒久(以下「勝俣」という)である。
 また、以下に記す「福島第1原子力発電所事故」発生時、勝俣とともに東電を代表する立場にあったのが被告発人2の前代表取締役社長 清水正孝である。
 加えて、以下に記す「福島第1原子力発電所事故」発生時、東電の代表取締役副社長であり原子力・立地本部長の職にあったのが被告発人15の武藤栄である。
 東電は、東京都千代田区内幸町1丁目1番3号に本店を置き、電気事業等を営む株式会社であり、昭和46年3月より福島第1原子力発電所1号機を稼働させている事業者である。
(2) 国(原子力安全委員会、被告発人3ないし7及び13)
 被告発人3である原子力安全委員会(以下「安全委」という)を代表する委員長は、班目春樹(以下「班目」という)である。安全委は、原子力安全・保安院による安全審査等を精査・検証し、専門家の立場から、科学的合理性に基づ いて、安全確保のための基本的考え方を示し、改善・是正すべき点については提言や勧告を行なうことによって、行政機関や事業者を指導する国の機関である。
 被告発人4である久木田豊は、原子力熱工学を専門とする科学者である。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、日本原子力研究所東海研究所安全 性試験研究センター原子炉安全工学部熱水力安全研究室長、名古屋大学大学院 工学研究科教授などを経て、平成21年4月より原子力安全委員会委員の職にある(常勤)。
 被告発人5である久住静代は、放射線影響学を専門とする医学者である。広島大学医学部医学科を卒業後、日米共同研究機関・放射線影響研究所臨床研究部副部長、広島大学原爆放射能医学研究所非常勤講師、(財)放射線影響協会放射線疫学調査センター審議役などを経て、平成16年4月より原子力安全委員 会委員の職にある(常勤)。
 被告発人6である小山田修は、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、 (株)日立製作所技師長、(独)日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門長、(独)日本原子力研究開発機構原子力科学研究所所長などを経て、平成2 1年4月より原子力安全委員会委員の職にある(常勤)。
 被告発人7である代谷誠治は、京都大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学後、京都大学原子炉実験所教授、京都大学大学院エネルギー科学研究科教授(兼任)、 京都大学原子炉実験所長などを経て、平成22年4月より原子力 安全委員会委員の職にある(常勤)。
 被告発人4ないし7は、班目とともに安全委において提言や勧告を行なう職務に就いている。
 また、被告発人13である鈴木篤之は前原子力安全委員会委員長であり、現在は日本原子力研究開発機構理事長の職にある。被告発人3ないし7及び13 はともに科学者として、東電が保有する福島第1原子力発電所の耐震設計等の 安全審査に当たってきた。
(3) 国(原子力安全・保安院、被告発人8)
 被告発人8である原子力安全・保安院(以下「保安院」という)を代表する院長は、寺坂信昭である。保安院は、原子力をはじめとする各分野のエネルギー施設や産業活動の安全確保を使命とする国の機関である。
(4) 国(原子力安全・保安院専門委員、被告発人9ないし11)
 被告発人9である纐纈一起・東京大学地震研究所教授は、国の原子力安全・ 保安院の所管の下に設置される総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部 会耐震・構造設計小委員会地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ (以下「WG」という)の主査である。
 また、被告発人10である衣笠善博・東京工業大学名誉教授(以下「衣笠」 という)と被告発人11である岡村行信・産業技術総合研究所活断層・地震研 究センター長(以下「岡村」という)は、ともに同WGの委員である。被告発人9ないし11はともに科学者として、東電が保有する福島第1原子力発電所の耐震設計等の安全審査に当たってきた。
(5) 国(原子力委員会、被告発人12)
 被告発人12である原子力委員会(以下「原子力委」という)を代表する委員長は、近藤駿介である。原子力委は、1)原子力研究、開発及び利用の基本 方針を策定すること、2)原子力関係経費の配分計画を策定すること、3)原 子炉等規制法に規定する許可基準の適用について所管大臣に意見を述べること、 4)関係行政機関の原子力の研究、開発及び利用に関する事務を調整すること等について企画し、審議し、決定することを所掌する国の機関である。
(6) 東京電力監査役
 被告発人14である東京電力監査役は、小宮山宏(以下「小宮山」という)である。元東京大学総長の小宮山は、東電が進める原子力発電を擁護する立場 を取り、以下に述べる福島第1原子力発電所1号機~4号機の事故に際しても、 東電を監査する立場にありながら「関係者の刑事責任を問わない、という免責制度を新たに導入してもいい」(『朝日新聞』2011年4月1日付朝刊、書証 7参照)等の、自らが置かれている立場を忘れたかのような発言をしてきた。

2. 事故の発生
 被告発人らは、平成23年3月11日、東電が保有する福島第1原子力発電所1号機~4号機で、安全対策の不備から多量の放射性物質の放出を伴う重大 事故(以下「本件事故」という)を発生させた。
 本件事故によって福島第1原子力発電所の1号機~3号機が炉心溶融(メル トダウン)し、1号機と3号機、4号機では原子炉建屋の屋根を破損する水素 爆発が発生し、これまでに77京(77×10の16乗)ベクレルに及ぶ大量 の放射性物質を環境中に放出させた。また、この「77京ベクレルの放射性物 質の環境への漏洩」という事実は、本件事故発生から約3カ月後の同年6月6 日まで公表されなかった。
 本件事故は、告発時の平成23年7月8日現在もなお、収束しておらず、環 境中に放射性物質を放出し続けている。

3. 被害の発生
 77京ベクレルという大量の放射性物質を放出させて、10万人以上に上る原子力発電所近隣の福島県民を被曝させ、避難民にし、かつ原子力発電所から半径30キロメートル圏外の飯舘村、福島市、郡山市等に暮らす多数の人たち までを大量の被曝に晒した。今後、こうした被曝者の中から、甲状腺がん等の健康被害が発生する可能性が極めて大きい。
 さらに、直接的かつ既に発生している被害としては、福島第1原子力発電所の南西約4キロにある双葉病院(福島県大熊町)の入院患者らを重度の被曝に晒し、さらなる被曝を避けるべく実施された緊急避難等により、患者ら約440人中45人以上を死亡させている。 また、被告発人らが本件大事故さえ発生させなければ、東日本大震災による津波被害に襲われた岩手県や宮城県などの他地域と同様に、福島第1原子力発電所の近隣でも命を救われた被災者も多かったと思われ、原子力発電所の重大 事故が大震災直後の救援活動を事実上阻み、被害を拡大させたものである。
 同原子力発電所の半径20キロメートル圏内を多量の放射性物質で汚染し、 4月22日午前0時をもって同20キロメートル圏内の立ち入りが禁止された ため、膨大な数の住民が安全に暮らすことのできない地域にしてしまったこと に加え、同圏内にあった企業や、農業、酪農業、漁業などの地元産業全般の経 済活動を停止に追い込み、事業を廃業させ、または存亡の危機に陥れたもので ある。

4. 被告発人らの過失
 今回福島第1原発で発生した全電源喪失(ステーションブラックアウト)事故や炉心溶融(メルトダウン)事故の危険性とそれへの対策の重要性は、20 07年2月に静岡地方裁判所で行なわれた「浜岡原発運転差し止め裁判」の機会等で研究者などにより再三指摘されてきた。日本でも原子力発電所の重大事 故は起こりうるので、そのための対策が重要だとの指摘は裁判やマスコミ報道 などを通じて繰り返されてきたのが事実である。
 被告発人である保安院は、原子力施設の安全確保を使命とする国の機関であり、原子力発電所を安全に運転させるために発電所の運転停止命令等、多大な権限を持つ機関であることから、適切に権限を行使し、十分な安全策を備えて いない原子力発電所については運転を一時停止させ、必要な措置を講じさせる義務と責任を負っていた。にもかかわらず、保安院の所管するWG等で福島第 1原子力発電所を襲う津波の危険が委員から指摘されていながら(証拠書証3 『原発崩壊 想定されていた福島原発事故』25ページ以降参照のこと)、その 対策を講じさせなかった。また、被告発人11である岡村は、福島第1原子力 発電所を襲う津波の危険を知りながら保安院や東電を説得できずにそのまま未対策状態を放置し、WG委員の任務を放棄した。加えて、被告発人10である 衣笠もまた、「海底活断層研究の権威」を自任しながら未対策状態を放置し、W G委員の任務を放棄した。
 被告発人である安全委は、保安院の安全審査をさらにチェック(ダブルチェ ック)し、適切に権限を行使し、十分な安全策を備えていない原子力発電所については必要な措置を講じさせる義務と責任を負っていた。しかしながら、先に掲げた「浜岡原発運転差し止め裁判」の際、現在安全委委員長の重職にある被告発人3である班目春樹は、「東海地震のときに、再循環系が複数同時に破断する、ほかの緊急炉心冷却系が同時破断するとか、考えるべきでは?」との質問に対し、「地震が起こった時に破断することまで考える必要はないと思います」と証言し、事故防止のために万全な措置を講じるよう安全委として指示し なければならないにもかかわらず、この任務を放棄した。
 被告発人1、2及び15である東電は、原子力発電所を運営する電気事業者として、重大な原子力発電所事故が一旦発生すれば全く制御不能に陥り、多数の一般住民を被曝の危険に晒すことを承知しているにもかかわらず、そうした事態を避けるために万全の措置を講じなければならなかったところ、これを怠った。東電に至っては、科学的根拠の全くない「安全神話」「5重の壁」等を論拠に原子力発電所の安全性をことあるごとに触れ回り、あろうことかその危険 性を指摘する学者やジャーナリスト、市民らに対して不当な攻撃をし続けてきた。その結果、今回の「東日本大震災」による地震と津波によって全電源喪失に至り、我が国史上類を見ないほどの甚大な被害をもたらし、極めて悪質であ る。
第3 告発に至る事情
 これまで述べてきたような甚大な本件事故と被害を引き起こしていながら、被告発人である保安院も安全委も東電も、保安院の所管するWG等で福島第1 原子力発電所を襲う津波の危険が委員から事前に指摘されていた事実や、その上でこの指摘を無視し、対策を講じなかった事実が、告発人明石の著書『原発 崩壊 想定されていた福島原発事故』(証拠書証3)等ですでに指摘されている。 福島第1原子力発電所が津波で被災する可能性は、実際に津波等で被災する3 年前の2007年までには科学者の研究結果等によって指摘されていたのである。
 にもかかわらず、被告発人らは、地震と津波は「想定外」だったとして全く反省もしていない。
 しかも、加害者である被告発人らがすべての情報を独占しつつ、本件事故の収束作業に当たっているため、被告発人らが証拠隠滅を図る恐れが大である。 以上の次第で、東京地検においては、いまだ事故が収束していない最中では あるが、必要な証拠を保全し、公正な処罰が行なわれるよう、直ちに捜査に着手するよう促すために、敢えて本告発をするに至った。

                             以上
立証方法

1 告発人明石昇二郎、同広瀬隆の共著書『原発の闇を暴く』(集英社刊。20 11年7月発行)
2 原子力発電所で発生する過酷事故の危険性を指摘してきた告発人明石昇二郎の著書『原発崩壊 誰も想定したくないその日』(金曜日刊。2007年11月発行)
3 告発人明石昇二郎の著書『原発崩壊 想定されていた福島原発事故』(金曜日刊。2011年4月発行。証拠書証2の増補版)
4 大地震によって原発で大事故が発生する危険性を論証した告発人広瀬隆の著書『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社刊。2010年8月発行)
5 福島第1原発事故が起こった原因とその経過を記した告発人広瀬隆の著書『福島原発メルトダウン』(朝日新聞出版朝日新書。2011年5月発行)
6 被曝を避けるべく実施された緊急避難等により、病院の入院患者ら多数が死亡した事実を報じた5月7日付『朝日新聞』及び4月26日付『毎日新聞』記事
7 被告発人14である東京電力監査役・小宮山宏の発言を報じた4月1日付
『朝日新聞』記事
8 告発人 明石昇二郎 陳述書
9 告発人広瀬隆陳述書
10 別冊宝島『原発の深い闇』(2011年7月14日発売号)

添付書類 前記書証各1通

当事者目録 (略)
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by kazu1206k | 2011-10-23 17:31 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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