徹底解説 検察審査会決定2

福島原発告訴団弁護団の海渡雄一弁護士から「徹底解説 検察審査会決定 なぜ検察審査会は東京電力役員の起訴を求めることができたのか 検察再捜査と今後の展望」という、検察審査会決定の徹底解説が寄せられましたので、二つにわけて転載します。これは2回目です。

徹底解説 検察審査会決定
なぜ検察審査会は東京電力役員の起訴を求めることができたのか
検察再捜査と今後の展望

                海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団)

1 3名の役員に起訴相当、1名に不起訴不当の決定
2 今回の議決は福島人々の被害の重みを理解して出された画期的なものである
3 原子力事業者に課せられた高度の注意義務を確認
4 予見可能性の判断方法
5 審査会が認定した津波想定に関する事実関係
6 津波の可能性についての議決の検討とその意味
7 浸水したら、過酷事故になることはわかっていた
8 必要な対策を講じていれば、結果の回避、軽減はできた
9 規制当局や他の電力事業者も十分な対応をしていないということは、東電の言い逃れの理由とはならない
  (以上、第1回に掲載)
10 各被疑者らの責任 (第2回に掲載)
11 検察審査会の思いと今後の展開 (第2回に掲載)

10 各被疑者らの責任
以上を踏まえ、議決書は各被疑者個人について、責任を問うことができるかどうかについて、次のように具体的に検討している。重要な認定事実については、下線を施した。
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(左から被疑者勝俣恒久、武藤栄、武黒一郎)
(1)被疑者勝俣恒久
①  被疑者勝俣恒久(以下「勝俣」という。)は平成14年10月からは社長、平成20年7月からは会長として各種経営判断を下せる立場にあった。社長在任中、平成19年7月に新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の事故を経験し、想定外の事態が生じることの認識も持っていた。
②  中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の運転停止の問題を受け、迅速・適正な経営判断を行うべく「中越沖地震対応打合せ」を開催し、出席していた。勝俣も参加していた平成20年2月の打ち合わせにおいて、福島第一原発の津波高の想定について、0.P.+7.7m以上に変更され、さらに大きくなる可能性が記載された資料が配付され、参加者から「14m程度の津波が来る可能性があるという人もいて、前提条件となる津波をどう考えるが、そこから整理する必要がある」との発言もあった。
その後に開催された会議の資料には、津波の部分について手書き(誰が書いたか不明)の書込みがあるメモが残っており、津波に関して実際に議論ないし報告がなされていたものと考えられる。

③  勝俣によれば、耐震バックチェックを通すことが重要な課題であり、津波に対する安全性は、最終報告において行うこととしたため、その間の時間があったので、喫緊の課題と考えていなかったとのことであり、また、全電源喪失に対応するシビアアクシデント対策については、既に講じられていると思いこんでいたという。巨大企業の最高経営責任者として、日々膨大な情報に接し、また、多くの事項については部下である担当者に任せているため、報告を受けた事項について記憶してないこともあり得る。
 しかし、耐震バックチェックは通すことが目的なのではなく、安全性の確保こそが目的であり、安全性の確保に関わる事項については、特に関心を持って対応をすることが必要であったし、部下に任せるのであれば、部下に対しても安全確保を第一とする適切な指示・指導が必要であった。勝俣は、株主総会において「緊急事態発生時の体制を絶えず検証・改善するとともに、平常時のリスク管理活動の充実に取り組んで参ります」と自ら述べているが、不十分なものであったといわざるを得ない。
④  以上述べたように、勝俣は、福島第一原発において、従来の想定を大きく超える津波が襲来する可能性に関する報告に接していると考えられ、推本の長期評価に基づく具体的な試算結果や、津波が襲来した場合の影響についても知りうる立場・状況にあったといえる。また、当時の東京電力の最高責任者として、各部署に適切な対応策を取らせることも可能な地位にあった。勝俣は、重要な点については知らなかったと供述しているが、資料を見る限り、そのまま信用することはできない。よって、当審査会は、審査の結果、起訴相当との決議に至った。

(2)被疑者鼓紀男
被疑者鼓紀男は、平成16年6月から本店原子力・立地本部副本部長であったが、事務系社員であり、主に地元の活性化への協力や公園作りといった地元自治体や住民との意思疎通に関する業務を行っており、原子力発電所の運営や安全管理には携わっていなかった。
中越沖地震対応打合せに参加し、津波の情報に接していたことは認められるが技術面での知識や理解が乏しかったため、議論に対して影響を与えたり、判断を行える立場にはなかったと考えられる。よって、不起訴相当とした。

(3)被疑者小森明生
①  被疑者小森明生は、平成20年6月から福島第一原発所長、平成22年6月26日から原子力・立地副本部長の地位にあった者であり、長年にわたり原子力に関わる部署に属し、原子力発電所に関する知識と情報を有する者である。
②  小森は、平成20年2月、3月の「中越沖地震対応打合せ」で津波に関する報告を受けたものと考えられる。その後、福島第一原発所長に就任し、平成20年9月に行われた福島第一原発に関する耐震バックチェック説明会でO.P.+15.7mの試算結果や、現状よりも大きな津波水位を評価せざるを得ないので津波対策は不可避である旨の報告を受けた。
小森は、福島第一原発の所長ではあったが、耐震バックチェックに対してどのように対応するかは、上司である被疑者武藤らに決定権があったものと考えられる。
③  以上のとおり、小森は、O.P.+15.7mの試算結果や津波対策をとる必要があること自体についての認識はあったといえるが、どのような対策をとるかについての決定権を有していなかったと考えられる上、詳細な情報を共有していなかったのではないかとも思われる。
 小森については、当時の具体的な立場や権限、どの程度の情報を得ていたのかについて再度捜査を行った上で適正に判断されるべきと考え、不起訴不当とした。

(4)被疑者武藤栄
①  被疑者武藤栄は、平成17年6月に執行役員原子力・立地本部副本部長に就任し、平成20年6月には常務取締役原子力・立地本部副本部長、平成22年6月には取締役副社長原子力・立地本部長を務め、原子力発電所に関する知識、情報を持ち、技術的事項に関して実質的な判断を下すことができる立場にあった。
③  武藤は、平成20年6月、推本の長期予測に基づくO.P.+15.7mの試算結果の報告を受けている。当初、東京電力としては、耐震バックチェックに推本の長期予測を取り入れる方向で動いていたが、武藤自らの提案により、土木学会に検証を依頼する方針に転換した。
耐震バックチェックでの推本採用を見送るにあたって学者への根回しを指示したり、保安院への試算結果の報告を遅らせたこともうかがわれる。
 試算結果の報告を受けた当初は、水密化等機器の対策についての検討も指示していたが土木学会に委ねることに方針転換して以降、後に貞観津波の報告を受けても何らの対策をとることなく、本件地震を迎えることとなった。
④  武藤は、推本の長期評価に基づく0、P.+15.7mの試算の報告を受けており、その時点で、適切な措置をとるべきことを指示し、結果を回避することができたものと考えられるので、起訴が相当であるとの決議に至った。

(5)被疑者武黒一郎
①  被疑者武黒一郎は、平成17年6月に常務取締役、原子力・立地本部長、平成19年6月に代表取締役副社長、原子力・立地本部長となり、原子力担当の中ではトップの地位にあった。原子力発電所に関する知識、情報を持つとともに、原子力関係の経営判断を行える立場であった。
②  武黒は、平成20年2月の「中越沖地震対応打合せ」で、福島第一原子力発電所の想定津波高が上昇する旨の資料を確認するとともに、参加者から「14m程度の津波が来る可能性あるという人もいる」という発言を受け、「女川や東海はどうなっている」という質問をしている。
 平成20年8月には、武藤からO.P.+15.7mの試算結果の報告を受けたが、直ちに対策をとることをせず、土木学会に検証を依頼する方針を了承した。
 平成21年4、5月ころには、0.P.+15.7mの試算とともに、貞観津波についても土木学会に検証を委ねることの報告を受けている。
④  以上のとおり、武黒は、推本の長期評価に基づく0.P.+15.7mの試算の報告を受けており、その時点で、適切な措置をとるべきことを指示し、結果を回避することができたものと考えられるので、起訴相当であるとの決議に至った。

(6)被疑者榎本聰明
被疑者榎本聰明は、平成14年6月に取締役副社長原子力本部長に就任し、平成14年9月に退任している。在任中は、原子力技術全般を所管する立場であった。
平成14年7月に推本の長期評価が公表され、福島県沖海溝寄り領域内のどこでもマグニチュード8.2前後の津波地震が発生する可能性があるとされたが、これに基づき具体的な津波高が算出されたのは平成20年になってからであり、榎本が今回の津波を予測することはできなかったし、これに基づく対策をとることもできなったといえるから、検察官の不起訴処分は相当であると考える。

11 検察審査会の思いと今後の展開
(1)議決のむすびに示された審査会委員の思い
 議決は「むすび」の中で、次のような審査会の思いを明らかにしている。
「当検察審査会は、様々な意見を元に、度重なる議論を経た上で、以上のとおり決議するに至った。本件は事案解明という点からも非常に困難な事件であり、未だ明らかとなっていない点も多く存在すると思われる。検察官においては、一般市民から選ばれた検察審査員によって構成された当検察審査会の議決の趣旨に沿って、再度、捜査を行った上、適正に判断がなされることを期待するものである。」
多数回にわたる真剣な議論の結果、この審査結果として結実したことがわかる。

(2)ऀ今後の手続
 今後は、地検が再び捜査し、起訴するかどうか判断する。ただし、検察があらためて不起訴にしても、検察審査会が再度、「起訴すべきだ」との判断をすれば、強制起訴され、裁判が始まる。
 今後の手続について毎日新聞がわかりやすいチャートを示しているので、引用する。
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(毎日新聞より)
 起訴相当の議決は11人中8人以上の賛同がなければ出せない。勝俣、武黒、武藤の三名の被疑者については、起訴することに、11人中8人以上の賛同が得られたということである。
 裁判員制度のもとでは、死刑判決ですら裁判員と裁判官の単純多数決で決することとなっている。この起訴相当の議決の持つ意味は極めて重い。

(3)ऀ注目される検察再捜査のゆくえ
 今後の予測については確たることは言えない。しかし、私は検察が自ら再捜査し、起訴する可能性も十分あると考えている。
 昨年9月の不起訴のあとの杉山検察官の説明でも、「東電役員は白ではない。灰色だ。」という説明であった。
 高橋哲哉東大教授は、「民意が脱原発に向かっているという背景があって出された議決とも言える。」「検察は東電への強制捜査すらせずに不起訴の判断をしていたが、本当はすべきだった。今からでも遅くはない。政府の顔色をうかがって結論を出すのではなく、厳正な再捜査をすべきである。」と述べている。
 また、NHKの報道によると、「東京地方検察庁の中原亮一次席検事は『議決の内容を十分に検討し適切に対処したい』というコメントを出しました。捜査に関わった法務・検察の幹部の1人は『東日本大震災と同じ規模の巨大地震や津波を具体的に予測するのは難しく、捜査は尽くしていただけに今回の議決には驚いた。起訴相当の議決が出ることは想定しておらず見通しが甘かった。今回の議決は重い判断であり冷静に受け入れて再捜査する必要がある』と話しています。」とされている。
 31日付東京新聞によれば、「当時の捜査にかかわった検察幹部は、『不起訴処分事実を広く集め、組織として判断した。集めた事実をどう評価するかの問題だから、見方によっては違う結論もあり得る』と、努めて冷静に受け止めた」とされる。
 このように、議決は、東京電力とその役員たちだけでなく、捜査を指揮した検察官をも震撼させている。検察自らの中に、このような反省の声があることには大いに勇気づけられる。
 仮に、検察が再度不起訴としても、この議決の内容からすれば、次に開かれる検察審査会で覆される可能性はないであろう。だとすれば、強制起訴は必至である。検察には、この重大事件を指定弁護士の手に委ねるようなやり方をして欲しくない。
 検察は、直ちに再捜査に着手し、東京電力の捜索をすみやかに実施し、被疑者勝俣、武黒、武藤、小森の4人について、再度の集中した取調を実施するべきである。そして、再捜査の結果を踏まえて検察自らの手で少なくとも、この4名の被疑者について起訴をし、責任を持って公判を遂行するべきである。多くの市民が、これだけの事故を起こし、事前に対策をとるべき時点がこれだけ明確に指摘され、いったんは対策をとろうとしたにもかかわらず、発電の中断を怖れて対策を先送りした被疑者勝俣、武黒、武藤、小森の刑事責任の解明を公開の法廷で行うことを求めている。検察審査会の議決に示された市民の声に耳を傾け、メンツを捨てて不起訴の判断について勇気を持って見直し、起訴の決断を下すことこそが、検察が正義の味方として市民からの信頼を取り戻す途であると信ずる。





 
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by kazu1206k | 2014-08-03 09:32 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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