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対談録「検察は起訴すべきである」2

12月12日、福島原発告訴団の「起訴を!東京地検包囲行動&院内集会」で、海渡雄一弁護士の司会により「検察は、起訴すべきである」と題して、古川元晴さん(元京都地検検事正、元内閣法制局参事官)と船山泰範さん(日大法学部教授)が対談しました。その記録を、3回にわけて掲載します。その2。

検察は起訴すべきである
古川元晴×船山泰範×海渡雄一


12月12日、参議院議院会館会議室

*その1から続く。

海渡雄一 有難うございます。前回、検察審査会で出ている議決の重要部分をちょっと読んでみたいんですけれども、「原発のように一度事故が起きると被害は甚大でその影響は極めて長期に及ぶため、原子力発電を事業とする会社の取締り役等は安全性確保のため極めて高度な注意義務を負っている」これが伊方の判決の災害が万が一にも起こらないようにするために安全審査をしているということと繋っているんじゃないかということをおっしゃっていて、そして、「根拠のある予測結果に関しては常に謙虚に対応すべきであるし、想定外の事態も起こりうることを前提として対策を検討しておくべき」なんだということを言っているんですが、これは正しく古川先生、船山先生がおっしゃっている危惧感説的な立場を表明したものだというふうにぼくらも受け止めるんですが、それでよろしいんでしょうか。

古川元晴 危惧感説に対して、世の中の刑法学界の学者先生がたはどういう批判をしているかと言いますと、漠然とした不安感、危惧感で人を処罰しちゃうんだと。どんな場合でも、こんなことで処罰しちゃうとんでもない道具だということが、有名な刑法学者の本にみんなそう書かれているわけです。それで一般の方が、そんないい加減な説だというふうに信じ込まされているわけです。学者の先生がたの中にも;今、船山先生からご紹介がありましたように、判例とか、東大教授もやられて当時、新進系の、まあ、45歳でその方は亡くなっちゃったんですけれども、そのためにうまくないというのもあるんでしょうけれども、ああいう立派な方が先駆的に社会の安全を護る爲に、出した理論です。それに基いて判例も出ていて、最高裁でもそれは認められているんです。それで差し戻しになって、第一審できちんとした結論も出ているんですけれども、それについては。そういう判例をきちんとお読みいただければそんないい加減なものでないことが分かるはずなんです。
そこで私どもは、そこのところはきちんと整理する必要があるということです。そういうことが足りなかったんじゃないかと私も実務家の観点から、実務としてはそんないい加減なものじゃない、そうすると、いい加減じゃない、「一抹の不安」って何だ、誰でも皆、一抹の不安を感ずる、と。それは当たり前だな、と。何か根拠があるんだろう、と。常識的に見てですね。皆さんが同じように危惧感を覚える、と。だから、じゃあ、それをまとめれば、先程の森永砒素ミルク事件も言ってるんですけれども、合理的な根拠が必要だということです。合理的な根拠があれば、皆さんが同じように感じられるこの一抹の不安感、そういうものが必要だというわけです。
これはそういうもの必要だということで、そういうものを称するに「合理的な根拠のある危険」というふうに言えばいいんじゃないかということです。しかも、最高裁の判例では、こういう解釈はどうやってやるのかというと、普通は色んな取締りの行政法規があります。例えばクルマなら道路交通法があります。同じように、いっぱいあるわけです。ところが、それでは足りない場合がいっぱいあるわけです。色んな事象がありますから。そういう場合には条理に基いて、決めていくんだと。そこは補充していく、穴埋めしていくんだということで、それは確立した判例としてあるわけですよね。
そういう意味からすれば、そういう合理的な根拠があって、誰でも感じるような危険というもの、当然それは条理として、当然、法律的に注意義務として構成できるんだという、そういうことになるわけです。まさにそれを森永砒素ミルク事件が言っているであろうということで、私は実務的な観点から、そういう合理的なことについて考えているわけです。
で、津波については、あれは科学で判明し、科学が色々な根拠を出しているわけですから、それは科学的な根拠があるということで、要するに誰でも通ずる根拠があって「おかしいな!」「不安だな!」という場合には、それはやらなければならない、万が一に備えて万全の措置を昂じなければならない、ということは、これはもう原発については当たり前のこととして世の中で通用していたわけですから、そうすると、その程度のことは当たり前でやらなければならないだろうということになるわけです。
そういうわけで高度な注意義務が課せられている危険業務の場合には、万全の措置を講じるということで、一抹の不安でも合理的な根拠があり、科学的な根拠のある場合には当然、予測し、回避すべきであると。こういう注意義務の構成が法律的にできるということです。少なくともこれまでの実務でできあがってきた危惧感説っていうのは、そこまで完成していると。で、危惧感説自体がこれからどんどん変わっていきますから、世の中に応じまして。ドイツなんか、もっとずっと先に行っていますけれども。日本では、まあ、ここまでは完成しているし、最高裁の判例でも、ジョウモクされて認められているという実績があるわけでして、それは未だに破られてないわけですよね。
ですから法律的に実務家の観点から言っても使えるということで、私はこういう考え方を示したわけです。で、それは「世界」の6月号に書かせていただいたわけですが、それがその通りにこの議決で、反映してやられています。ところが残念なことに東京地検の不起訴採決書を見ますと、まだ依然として漠然とした不安感なんだから駄目だということでありまして、どうも当時の検察は残念ながら危惧感説を正確に理解していなかったのではないかと思われる節が、この不起訴採決書を読むと、窺えるわけです。そういう意味で真剣に今、そこのところは今、理解を深めるようにしていかなければいけない、と思います。

船山泰範 今、古川先生が一般の常識という言葉を使われたので、最高裁判所が、そういう言葉を使っているということをご紹介させていただきましょう。先程もお話があったんですが、刑法の学界ではどうかということとか、判例はどうかと良く言われまして、判例は「具体的予見可能説」であるということを書いている人がいるんですが、私に言わせれば、それは実は間違いです。
彌彦(いやひこ)神社事件(新潟県西蒲原郡弥彦村・越後国一宮)というのをご紹介しましょう。これもやはり昭和30年のことです。昭和30年12月31日から翌年の元旦にかけて、いわゆる二年参り(2年にまたがる形で、午前0時前後に参詣する初詣)と言われる行事がございまして、その時に花火を合図に拝殿前の庭で餅撒きを行なったわけです。この時に、群衆が石段付近で接触して、124名が亡くなったという、こういう事案でございます。
この時に、実は前の年に、人が死ぬまでには至っていないけれども、怪我をした人がいたんですよね。それからこの彌彦神社のほうでは「二年参り」と言って、 餅撒きをするとたくさん参拝客がやって来るというので、毎年、人が増えているのも知っていました。ところが、その30年の時にも何ら対策を取らずにいました。例えば、神社に来る人と帰っていく人とを仕切りで区分けすれば済みます。簡単に結界を作る措置ができたのに、敢えてやらなかったのです。いわゆるたくさんの善男善女が来ているように見せかけようとしたところがあるんですね。そういう点では私はこの場合については具体的予見可能性さえあったと思いますが、実は判例は次のような言い方をしていますので、読ませていただきます。
「参拝の爲の多数の群衆の参集と、これを放置した場合の発生とを予測することは、一般の常識として可能なことである」
これは、最高裁判所が言っているんですよ。最高裁判所が一般の常識で分かることだと、こう言っているんです。その意味では、「判例が...」という言い方をするんであれば、判例は危惧感説なんです、むしろ。この点を言っておきたいと思いますね。さらに、ちょっと長くなりますが、読ませていただきますと、結果回避こそ大事だと言っています。ですから、原発の場合で言えば、水密化を図る、あるいは堤防を嵩上げする、色んな方法があったはずですよね。そういうことと結び付くと思いますので、読ませていただきます。
「予め相当数の警備員を配置し、参拝者の一方通行を行う等、雑踏整理の手段を講ずるとともに、右餅撒きを実施するに当たっては、その時刻、場所、方法等について配慮し、その終了後参拝者を安全に分散退避させるべく、誘導する等、事故の発生を未然に防止するための措置を取るべき注意義務がある」
これは、そんなに難しいことじゃないですよね。往きと帰りを整理する、そして場合によっては人数を制限して、「ここまでだよ」ってやればいいです。難しいことですか? 難しいことじゃないです。私たちがすぐ思い付くこと、そういう点で最高裁判所が一般の常識としてそういうことは分かるんだと言っていることを付け足させていただきました。

海渡雄一 具体的な事件との関係で引き付けて考えますと、今の古川さんの言われた合理的根拠があるかどうかという点に関して、まず、東京電力、特に吉田所長などは「この地域でマグニチュード9の地震が発生することを想定した人は誰もいないじゃないか」みたいなことを「吉田調書」の中で言っているんですね。これはぼくは非常に誤った議論だろ思っていて、福島沖でマグニチュード8の地震が起きるということを予見していた人はいっぱいいるわけです。それが政府の見解にもなっていたし、政府の地震調査推進本部だけじゃなくて、7省庁の具体的な手引きにまでそういうことが書いてありました。そしてマグニチュード8で15,7mになるんです。福島沖で発生していればですね。9を想定する必要まではなかったんです。
それと、実際には土木学会と15,7mみたいな津波予測とどこが違っているかと言いますと、そこに余裕を見込むかどうかという問題があるんですね。自然現象ですから、それを余裕を倍半分(予測値の2倍)は必ず見込みなさいということは、実際、土木学会の中でもそういうことを唱えていた人がいた、しかし、それを完全に無視して、1,0、まったく何の余裕も見込まない形で想定していたんです。むしろ、私に言わせると福島沖ではマグニチュード8を想定する、で、余裕として倍半分を想定する、というようにしていれば15,7mだったんです。そういうことがされなかったんです。そういう見地に立つということは、危惧感という、具体的な危険性が予見できていて、だからこそ彼等はいったんは対策を取るためにどんなことが必要か、予算まで立てているわけです。
予算まで立てていたのに、それを結局、「お金がかかり過ぎる」「柏崎で原発が止まって赤字になっている、だからこの対策を先延ばしするしかない」っていうんで、自分たちの子飼いで固めている土木学会に問題を丸投げして、何の対策も取らないという方途を取ったということです。この事態からして、これが起訴できないわけがない、ていうふうにぼくは思うんですけれども、いかがでしょうか。

古川元晴 この点も実は世の中の人から非常に充分、理解されていないんです。いったい、推進本部の予測、推進本部は2002年の7月に地震の長期予測を発表するわけですね。しかしそれが出ていながら東電は放ったらかしにしていて、ようやく2008年になって、まあそれを元にして津波の計算をしたと。それが15,7mだったということなんですけれども、その元になっている推進本部の地震の予測の、どこに科学的な根拠があったかについて、非常に誤解があるんです。今、海渡先生がおっしゃられましたように、あの巨大な津波地震があんな形で発生するなんて誰も予測できませんでした。それは政府の推進本部だって、予測できなかったんです。当時の責任者だった柴崎先生さえも予測できなかったんです。あんなものが予測できないのは当たり前なんですね。検察の不起訴理由の中にもそれは書いてあります。ですから、推進本部の予測を遥かに超えるようなものが起きたんで、誰も予測はできてなかったわけです。それが一つの不起訴理由であると書かれているわけです。
どうも物事が混乱していまして、こういうことなんです。具体的予見可能性説から言いますと、危険性を回避しなければならない地震津波をどうやって選び出すかと言いますと、例えば福島第一原発の場合にはその敷地に実際に影響を及ぼした地震津波、それは過去に起きたことのある地震津波、これは文献を調査したならば400年くらいしか分からないです、これは。で、貞観津波など文献にはあるけれども良くは分からないです。結局、その後も色んな調査をやって、まだ実態は分からないです。
そうすると、そういうものはなかなか入ってこないわけですよ。この具体的予見可能性説の、具体的に起きたことがあるかどうかということで、選んじゃいますとね。しかし日本は地震大国でいっぱい起きてるわけですけれども、本当は日本で起きたことは同じプレート上であれば何所でも起きると。太平洋沖のプレートが大陸のプレートの下に沈み込んで、大きなプレートの中で動いているわけですから。本当から言えばどこで起きてもおかしくないんじゃないかというふうに思われるんですけれども、そうではなくてですね、実際、そうじゃなくて、そういう形で絞り込んじゃったわけです。
だから他の原発で起きたって「ここでは起きてないよ」というふうに全部、分断しちゃったわけですね。そういう形で安全審査は行なわれていて、地震津波の選別もそれで行なわれてきたということです。ですから土木学会が出した15,7mの地震の根拠は福島県沖で実際に起きたことの、文献上確実に分かっていることを根拠にしたらああなったということなんです。これは....

海渡雄一ただ先生、間違いがないように補足させていただきます。貞観の津波は文献で裏付けられていて、彼等は、約10m足らずですけれども、それくらいの津波が来るっていうことは予測してたわけです。そのこと自体は保安院と東電との間で共通理解になっていて、しかしそのことを社会に公表してなかったんですよ。そういう意味では既往最大、文献に残っている貞観地震ですよね、それに応じても対策が必須なのは明かで、そのことは保安院もはっきり言ってたんです。この部分はまさしく古川先生のおっしゃっている「具体的予見可能性説に立っても対策は必要だ」っていうことの根拠になるんじゃないかと思います。推進本部が言っていた「マグニチュード8の地震が、福島県沖で起きる」ということが、現に起きたという過去の例は、少なくとも文献的には裏付けられっていない、だからそこは危惧感説で証明するしかない、と、こうなるんじゃないでしょうか。

古川元晴 そこはですね、私等の実際の実務をやっている感覚はですね、当時の電力会社の、国の審査ですとか、実際の審査の運用の実態というのは、例えば貞観の津波でも間違いなく福島第一原発まで来ていたのだと、この根拠を示しなさい、被害者に対して科学的な根拠を示しなさいということです。それは、ひしひしと段々分かってくるに連れて証拠が段々積ってきてはいるんだけれど、実際にこの福島第一原発まで、じゃあ来たんですか、と。そこまで科学的根拠はあるんですか、と、こういう形でクロクしちゃったわけですね。

海渡雄一ただ、古川先生、福島第一原発は貞観の津波が起きた時は高台で30mあったわけです。だからそこまで来るわけはないんですよ。そしてさらに7km先の請戸には現実に津波の跡が、もう発見されていたんですよ。本当にすぐ近くのところまでは来ているということの文献調査はできていたんです。そして高台30mのものを、20m掘り下げてしまっているわけです。そこに今回、津波が来てしまったというわけなんです。

古川元晴 ですから、おっしゃるように、本当はもう、具体的なんですよ。しかしそれが明かになっちゃうと基準に嵌っちゃうわけですよ。選ばなくちゃならない基準に(場内爆笑)。ですから、できるだけ「調べたけれど、無い」という形に持っていくわけです、何だって。それが今の大きな動きなんですよ。だから、そこに問題があるわけで、それをもう、認めたら、具体的に動くことになっちゃうから、選ばざるを得なくなっちゃうんです。そうすると、原発が止まっちゃうということになるので、何とかして、そうはならないようにならないものかということで、色々、動いているということが、今回の大きな事故原因なんですよ、これがね。
ですから、そういう実態で、土木学会が出した当時の予測の15,7mは作られたということで、何としてもそれを向うは守らなくちゃいけないわけです、東電からしますと。それが嵩上げになっちゃうとたいへんなやり直しになるわけですから。それに対して、危惧感説から言った、「科学的な根拠がある」と言った推進本部の予測の根拠は何かと言いますと、ここもちゃんと報道されてないんです。そうじゃないんです。今回起きた太平洋沖のあの広いプレートのことろは、本当は1枚なんですけれども、それを色んな地震を分析していった結果、地震の最先端の知見を踏まえると、さらにあそこは8つの領域に分かれるというんです。その領域毎に動くだろうと、だから領域毎に考えなさい、というんですね。全体を考えると、そこで一つの分断が起きたわけです。8つの領域に分断できたということになります。
推進本部が出した地震の場所はどこだったのかというと、一番、海溝寄りです。日本海溝がありますけれど、まさにプレートのズレ込んでいる場所です。そこのところの、三陸沖から房総沖まで長い境界地帯がバーッと入って、ここは長い一つの領域ですということになっているわけです。ここをそれぞれの領域毎に調べていくんですが、ここにも過去に3回大きな地震が起きています。三陸の方は2回、房総の方は1回です。これは同じ領域だから特殊な事情がない限りどこで起きてもおかしくないですよということは、当時の科学的な知見だったんです。もちろんこれは仮説ですけどね。
でも、まさにそう言ったからこそ、これは大変なことになったわけです。もし全然、そこで起きていなくて、他の領域だったら関係ないんですよ。でも、同じ領域だったから、さすがに推進本部も、「これは起きる」と。30年以内にと、こう言ったわけです。ですから、これは相当に科学的根拠があった話なんです。そうすると他では起きたんだけれども、同じように起こるというふうに評価されればですね、具体的予見可能説であっても一般常識で理解すれば、同じように見なければおかしいではないか、という意味ではスレスレの事案でもあるわけなんです。
でも、そういう根拠があって、そして実際に起きたのはまさにそこのところで起きたわけです。ただ、そこ単独ではなくて、6つ連動して起きたというだけの話です。予測通りに津波も起きたわけです。ですから、まさに予測をしていたわけですね。そういう点がどうも充分に理解されていないというように思っています。

(文字起し: 雅)
*その3に続く。
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by kazu1206k | 2014-12-19 20:28 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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