強制起訴議決の意義1

福島原発告訴団弁護団の海渡雄一弁護士が、「市民の正義が東電・政府が隠蔽した福島原発事故の真実を明らかにする途を開いた!」と題して、東京第五検察審査会の強制起訴議決の意義を解説しています。2回にわけて掲載します。

2015.8.3

市民の正義が東電・政府が隠蔽した福島原発事故の真実を明らかにする途を開いた!

                 海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団)

1 やっとここまで来た

 東京第5検察審査会は2015年7月31日福島原発事故について東京電力の勝俣恒久元会長(75)と武藤栄(65)、武黒一郎(69)の両元副社長に対する業務上過失致死傷容疑に基づいて起訴議決を行った。今後は、裁判所が弁護士会の推薦を受けて検察官役として指定する弁護士によって強制起訴がされる。福島原発事故の原因とその対策を巡る刑事責任の有無について刑事公判における審理を通じて法廷で明らかにされることとなった。
 告訴団の武藤類子代表は、会見で「『やっとここまで来た』という思いです。原発事故は終わったという雰囲気がありますが、何も終わっていません。今後、開かれる刑事裁判の中で、事故の真実が明らかにされ、正当な裁きが下されると信じています」とコメントした。
 弁護団の河合弘之弁護士は、「これだけ重大な事故が起きて、誰も罪に問われないのはおかしいという市民の正義感が検察の判断を覆した。原発事故の真実が永久に闇に葬られそうになっていたところ、再びドアを開かせた意味は非常に大きい。裁判で当時の状況が明らかになれば、東電役員の責任を問う株主代表訴訟や原発事故の賠償を求めている裁判などにも影響を与えるだろう」とコメントした。
 以下、この議決の詳しい内容を説明し、この議決の持つ意義を明らかにし、告訴団の今後の活動の課題を明らかにしたい。

2 電力会社役員の高い注意義務を認めた

 今回の議決の一つの焦点は原発を運転する電力会社役員の注意義務をどのようなレベルに設定するかであった。議決は、「推本の長期評価の信頼度がどうであれ,それが科学的知見に基づいて,大規模な津波地震が発生する一定程度の可能性があることを示している以上,それを考慮しなければならないことはもとより当然のことというべきである。東電設計の算出した,福島第一原発の敷地南側のO.P.+15.7メートルという津波の試算結果は,原子力発電に関わる者としては絶対に無視することができないものというべきである。そもそもこの試算結果は,推本の長期評価に基づいており,少なくとも福島第一原発の建屋が設置された10m盤を超えて浸水する巨大な津波が発生する可能性が一定程度あることを示している。そして,東京電力自体が過去に2回の浸水,水没事故を起こしており,土木調査グループの者らが参加していた溢水勉強会を通じて,福島第一原発の10m盤を大きく超える巨大津波が発生すると,浸水事故を発生させ,全電源喪失,炉心損傷,建屋の爆発等を経て,放射性物質の大量排出という事態を招く可能性があることも示している。
 したがって,当時の東京電力において,推本の長期評価,東電設計の試算結果を認識する者にとっては,津波地震が発生し,福島第一原発の10m盤を大きく超える巨大な津波が発生することについては具体的な予見可能性があったというべきであり,それが最悪の場合,浸水事故による炉心損傷等を経て,放射性物質の大量排出を招く重大で過酷な事故につながることについても具体的な予見可能性があったというべきである。」
 「注意義務に違反したといえるためには,当該結果に対する具体的な予見可能性に基づく予見義務,結果回避可能性に基づく結果回避義務が認められなければならない。」としながら、原発を運営する電力会社役員の注意義務について、次のように高いレベルの注意義務を求めた。
 「検察官は,推本の長期評価の信頼度等によれば,当時,福島第一原発の10m盤を大きく超えるような巨大津波が発生すると予見する者はなく,「行為者と同じ立場に置かれた一般通常人」を基準に考えると具体的な予見可能性を認めることができないと考えているようである。
 しかしながら,ここでいう「行為者と同じ立場に置かれた一般通常人」とは,本件に関していえば,原子力発電所の安全対策に関わる者一般を指していることになる。すなわち,原子力発電という非常に危険性の高い,極めて特殊な技術に関わる,高度な知識を有する者たち一般を意味していると考えられる。前記のとおり,原子力発電に関わる責任ある地位にある者であれば,一般的には,万がーにも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず,本件事故当時においても,重大事故を発生させる可能性のある津波が「万が一」にも,「まれではあるが」発生する場合があるということまで考慮して,備えておかなければならない高度な注意義務を負っていたというべきである。当時の東京電力は,原子力発電所の安全対策よりもコストを優先する判断を行っていた感が否めないが,ここでの原子力発電に関わる責任ある地位にある者のあるべき姿勢としては,コストよりも安全対策を第一とする考え方に基づくべきである。したがって,ここでの「行為者と同じ立場に置かれた一般通常人」というのも,コストよりも安全対策を第一とする,あるべき姿に基づいて判断すべきものであり,当時の東京電力の考え方自体を一般化するべきではない。」とした。検察官の判断には原発を通常の技術と同列に論ずる致命的欠陥があったが、議決はこれを根底から批判している。
 「検察官は,本件地震は,推本の長期評価をも上回る想定外のものであり,ここまでの津波について具体的な予見可能性はなかったのではないかと考えているようである。しかしながら,過失を認定するための結果の予見可能性とは,当該予見に基づいて結果回避のための対策を講じる動機付けとなるものであれば足りると考える。ここでは,少なくとも10m盤を大きく超える,当時の状況においては何らかの津波対策を講じる必要のあるような津波の発生についての予見可能性があればよいと考える。」
 この議決は、我々が主張してきた高い注意義務を、通説の「具体的危険の予見可能説」を維持しながら、正確な事実認定と、無理のない理論的な根拠をもとに認めたものであり、裁判所にも強い説得力を持つものと確信する

3 まれな自然現象も考慮しなければならない。

 本件の最大の争点は政府の地震調査研究推進本部の長期評価にもとづいて津波対策を講ずるべきであったかどうかであるが、議決は、「推本の長期評価は権威ある国の機関によって公表されたものであり,科学的根拠に基づくものであることは否定できない。」「大規模地震の発生について推本の長期評価は一定程度の可能性を示していることは極めて重く,決して無視することができないと考える。」とした。
 原発事故は,放射性物質を大量に排出させ,その周辺地域を広範囲に汚染し、長い期間そこには何人も出入りすることができなくなってしまう。加えて,放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は,人類の種の保存にも危険を及ぼすと事故の重大性を明確にした。
 そして、法的にも「このような原発事故の恐ろしさは,我が国でも認識されるところとなっている。伊方原発訴訟最高裁判決(最判平成4年10月29日)では,原子炉設置許可の基準の趣旨について,「原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,・・・(中略)・・・原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,右災害が万がーにも起こらないようにするため」であると判示されている」とした。また、「平成18年9月19日,安全委員会が旧指針を改定して策定された新指針では,津波について,原子力発電所の設計においては,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」とまで明記されるようになった。」
 「これらに共通して言えるのは,原発事故が深刻な重大事故,過酷事故に発展する危険性があることに鑑み,その設計においては,当初の想定を大きく上回る災害が発生する可能性があることまで考えて,「万が一にも」,「まれではあるが」津波,災害が発生する場合までを考慮して,備えておかなければならないということである。」としたのである。
 ここでは、原発事故の甚大性と非可逆性から出発し、行政訴訟における最高裁の判示や、安全審査指針の文言に基づいて、まれな自然現象も考慮しなければならないことを明らかにしている。

4 原子炉が浸水すれば致命的であることはわかっていた

 東京電力では,1991年10月30日,福島第一原発において海水の漏えい事故が発生し,タービン建屋の地下1階にある非常用ディーゼル発電機等が水没したという事故を経験し,2007年7月に発生した新潟県中越沖地震では,柏崎刈羽原発1号機の消火用配管の破裂による建屋内への浸水事故を経験していた。海外では,1999年12月のフランスのルブレイエ原子力発電所の浸水事故,2004年12月のスマトラ島沖地震の津波によるマドラス原子力発電所2号機の非常用海水ポンプが水没する事故が発生していた。これらの事象は2015年6月のIAEA総会に提案された、福島原発事故に関する最終レポートにおいて、東電の責任を基礎付ける事実として引用されていたものであり、告訴団がレポートを翻訳して提出していたものが議決に活かされている。
 「スマトラ島沖地震の津波によるマドラス原子力発電所の事故や2005年8月に発生した宮城県沖地震を受け,保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構は,2006年1月以降,設計上の想定津波水位を超える津波が襲来した場合の原子力発電所の設備・機器等に与える影響等を把握すること等を目的として,内部溢水・外部溢水勉強会(以下「溢水勉強会」という。)を継続的に開催した。東京電力の土木調査グループの担当者らも溢水勉強会に参加した。」
 「2006年5月11日に開催された第3回溢水勉強会では,福島第一原発5号機において敷地高を1メートル超える高さ(0.P.+14メートル)の津波が無制限に襲来した場合には,非常用電源設備や各種非常用冷却設備が水没して機能喪失し,全電源喪失に至る危険性があることが明らかとなった。」
 このような経過を総括して、議決は、「当時の知見として,推本の長期評価やそれに基づく想定津波水位の試算結果,貞観津波やそれに基づく想定津波水位の試算結果が重要であったといえる。ただし,これらはその信頼度等が必ずしも高いとはいえず,その取扱いについては意見が分かれていたことは否定できない。
 もっとも福島第一原発に10メートルの敷地高を超える津波がひとたび襲来した場合には電源喪失による重大事故が発生する可能性があることはその時すでに明らかになっていた。」と述べている。


5 東電役員被疑者らには具体的な予見可能性があった

 このような認識のもとで、議決は、勝俣、武藤、武黒の三名について具体的な予見可能性があると判断した。
 「東京電力では,2009年6月には耐震バックチェックの最終報告を行い,それを終了させる予定であったところ,2007年11月ころ,土木調査グループにおいて,耐震バックチェックの最終報告における津波評価につき,推本の長期評価の取扱いに関する検討を開始し,関係者の間では,少なくとも2007年12月には,耐震バックチェックにおいて,長期評価を取り込む方針が決定されていた。」
 この点は、これまでの政府事故調の報告では、曖昧にされていた部分である。
 政府事故調中間報告では、「武藤副本部長及び吉田部長は、前記想定波高につき、試算の前提とされた推本の長期評価が震源の場所や地震の大きさを示さずに、「地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性がある。」としているだけのものである上、津波評価技術で設定されている三陸沖の波源モデルを福島第一原発に最も厳しくなる場所に仮に置いて試算した結果にすぎないものであり、ここで示されるような津波は実際には来ないと考えていた。
 さらに、武藤副本部長及び吉田部長は、このように考えていた他の理由として、前記説明がなされた頃、東京電力が2007年7 月の新潟県中越沖地震に見舞われた柏崎刈羽原発の運転再開に向けた対応に追われており、地震動対策への意識は高かったが、津波を始めとする地震随伴事象に対する意識は低かった旨を挙げている。」としている。そして、「武藤副本部長及び吉田部長は、念のために、推本の長期評価が、津波評価技術に基づく福島第一原発及び福島第二原発の安全性評価を覆すものかどうかを判断するため、電力共通研究として土木学会に検討を依頼しようと考えた。ただし、あくまで「念のため」の依頼であって、その検討の結果がかかる安全性評価を覆すものであるとされない限りは考慮に値しないものと考えていたとのことであり、武藤副本部長らと共に説明を受けた新潟県中越沖地震対策センター長(以下「センター長」という。)も、おおむね同様の考えであった。」とされている。
 しかし、この間に明らかになっている事実は、このような報告書内容とは全く異なる。
 福島第1の耐震バックチェックにおいては、津波対策がもっとも重要な焦点となっており、しかもこれに関する情報に厳重な情報官制が敷かれていたことは次項で明らかにする。そして保安院も、このことを認識しつつ、耐震バックチェックの表の会議では津波の議論はしないと言うことを規範化していたのである。
 「また,平成20年2月16日に実施された地震対応打合せでは,被疑者らに,東電設計のO.P.+7.7メートル以上に上昇する可能性があるという試算結果が報告され,それに関する資料も配付されていた。この打合せには,被疑者ら3名が出席していた」
 「平成20年3月18日には,東電設計から,推本の長期評価を用いた最大値O.P.+15.7メートルの試算結果が出されたが,その後も被疑者らの出席する地震対応打合せは回を重ねて実施されていることからすれば,被疑者ら3名は,平成20年3月18日以降のいずれかの時点において,推本の長期評価とそれに基づく試算結果について報告を受けていることが強く推認される。」
 「特に,被疑者武藤は,平成20年6月には,この報告を受けていることは前記のとおりであり,被疑者武藤はこれを認める供述をしている。」
 「被疑者武黒についても,平成20年6月に被疑者武藤が報告を受けていることからすれば,それと近い時期には同様の情報を認識するようになったと考えられるが(被疑者武藤は平成20年8月に被疑者武黒に報告した旨供述している。),被疑者武黒は,平成21年4月か5月にはこの事実について報告を受けた旨供述している。」
 とりわけ、長期評価と東電のシミュレーションを知らなかったとしていた勝俣氏についても、地震対応打合せは,被疑者勝俣への説明を行う「御前会議」とも言われていたこと、津波対策は数百億円以上の規模の費用がかかる可能性があり,最高責任者である被疑者勝俣に説明しないことは考えられないこと、2009年6月開催の株主総会の資料には,「巨大津波に関する新知見」が記載されていたこと等を根拠に強制起訴の結論を導いている。

6 予見可能性を補強した新証拠の数々

 検察審査会は、第1回の起訴相当の議決においても、東電の役員たちは、対策が必要であることはわかっていて、途中まではその検討や準備もしたのに、改良工事のために原発が長期停止になることをおそれ、時間稼ぎのために土木学会に検討を依頼して、問題の先送りをしたと認定した。
 検察審査会の審理中に、このことを裏付ける証拠が、東電役員の民事責任を問う株主代表訴訟を通じて入手された。それは、平成20年9月10日「耐震バックチェック説明会(福島第一)議事メモ」 である。この1枚目議事概要の中に,「津波に対する検討状況(機微情報のため資料は回収,議事メモには記載しない)」とある。福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推進本部の知見の取扱) が回収された資料である。その2枚目の下段右側に,「今後の予定」として,以下の記載がある。
「○ 推本がどこでもおきるとした領域に設定する波源モデルについて,今後2~3年間かけて電共研で検討することとし,「原子力発電所の津波評価技術」の改訂予定。」「○ 改訂された「原子力発電所の津波評価技術」によりバックチェックを実施。」「○ ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策は不可避。」
 この「耐震バックチェック説明会(福島第一)」には、東京電力の福島第一の小森所長と本店の氏名不詳の幹部らしか出席していなかった。しかし、会議後に機微情報として回収された最重要情報に示された認識は、会社の最高幹部に直ちに知らされ、共有されたであろう。このことは、勝俣社長以下の幹部が出席した2009年2月の中越沖地震対応打ち合わせの記述からも裏付けられる。それは「
平成21年2月11日中越沖地震対応打ち合わせメモ」である。ここに、吉田原子力設備管理部長の発言として,「土木学会評価でかさ上げが必要となるのは,1F5,6のRHRSポンプのみであるが,土木学会評価手法の使い方を良く考えて説明しなければならない。もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて,前提条件となる津波をどう考えるかそこから整理する必要がある」そして、武黒本部長が「女川や東海はどうなっているのか」と聞いたのに対して,「女川はもともと高い位置に設置されており,東海は改造を検討中である。浜岡は以前改造しており,当社と東海の問題になっている」と担当者は答えている。また、清水社長の発言として「バックチェックと耐震強化工事を並行でやっているという姿は見せなければならないのではないか」という発言も記録されている。これらは、バックチェックの完了時までに耐震補強を完了できないことがはっきりとしてくる中で,ポーズだけを取って,耐震補強が完了しなくても,最終報告を行い,運転を再開できるように求めるという意味に受け取れる。
 また、平成21年2月11日付の「福島サイト耐震安全性評価に関する状況」という資料6頁〈参考〉耐震安全性評価報告書の構成(一般的構成)の表の枠外に,手書きのメモがあり、「地震随伴事象(津波)」の部分について「「問題あり」「出せない」「(注目されている)」と記載されている。
この会議では,福島第一原発,第二原発の耐震バックチェックに関して,津波問題を主に議論がなされていた。このメモによると,当時福島原発に関しては津波について「問題あり」「出せない」「(注目されている)」という状況であったこと、津波対策をとらなければならない状況となっていることを東京電力が会社を挙げて必死に隠蔽しようとしていたことがわかる。
 このように、福島第一のバックチェックの最高の難問は、津波対策であった。東電幹部らは、いずれ推本の見解に基づく対策が不可避であることを完全に認識していたのである。しかし、被告らは老朽化し、まもなく寿命を迎える原子炉の対策のために多額の費用の掛かる工事を決断することができなかった。被疑者らは不可避の対策を遅らせることを目的に身内の土木学会へ検討依頼を行ったのである。このことが外部に漏れることを警戒し、所内の会議でも、津波対策に関する書類は会議後に回収するという徹底した情報の隠蔽工作がなされていたのである。東京電力幹部の刑事・民事責任は明白であるといえるだろう。

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by kazu1206k | 2015-08-03 23:39 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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