東京第一検察審査会に上申書提出1

 福島原発告訴団弁護団は、8月14日、東京電力の津波対策担当者並びに経産省原子力安全・保安院の津波対策担当者及び原子力安全委員会と電事連の関係者など9名を業務上過失致死傷罪の被疑事実で告訴・告発した2015年告訴事件に関して、東京第一検察審査会に上申書を提出した。
 内容は、東京第五検察審査会により、7月17日に強制起訴議決がなされた東京電力元取締役らに対する業務上過失致死傷事件で提出した上申書等を資料として提出したもの。これは、東京電力福島第一原発事故という同一の事件で相互に密接に関連した被疑者に関する申立のためだ。
 2015年告訴事件は、去年11月刊行の添田孝史さんの「原発と大津波 警告を葬った人々」(岩波新書)や同年12月25日に公開された政府事故調査委員会の調書で、東電と保安院などが事前に把握していた津波対策を講じなかった事実と被疑者が特定されたことから、本年1月告訴・告発に踏み切ったが、本年4月、東京地検が全員不起訴としたため、告訴団は東京検察審査会に審査を申立、現在、東京第一検察審査会で審査されている。
 上申書を2回にわけて掲載する。

東京第一検察審査会
平成27年(申立)第7号審査事件

上申書(2)
                               
平成27年(2015年)8月14日
東京第一検察審査会御中
              申立人ら代理人 弁護士 河合 弘之
                  同   弁護士 保田 行雄
                  同   弁護士 海渡 雄一
上申の趣旨

申立人らは貴検察審査会の第五検察審査会に係属し,去る7月17日に強制起訴を求める議決がなされた東京電力株式会社(以下「東京電力」という)元取締役らに対する業務上過失致死傷事件について,すでに提出している上申書等を,本件における疎明資料として提出します。東京電力元取締役らに対する業務上過失致死傷事件は,福島原発事故という本件と同一の事件に関する,相互に密接に関連した被疑者に関する申立ですので,貴検察審査会における審査のご参考までに提出いたします。
また,同様に上記事件の議決の要旨,起訴議決に関する新聞社説を提出いたします。
これらの上申書と証拠を検討し,東京電力役員ら3名だけでなく,東京電力の津波対策責任者2名と経産省原子力安全・保安院(以下「保安院」という)の津波対策審査担当と責任者合計3名を起訴し,8名を被告人とする裁判を行い,福島原発事故の真相を明らかにし,その刑事責任を厳しく追及することを求めます。

上申の理由

1 東京電力役員らの刑事責任を問うべき根拠事実
平成7年(1997年)には福島沖の津波地震の想定が政府から指示されていました。7つの省庁がまとめた津波想定方法「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」では,日本海溝の津波地震が予測されていました。
このことは,平成26年(2014年)9月に添田孝史氏(岩波新書『原発と大津波 警告を葬った人々』の著者)の情報公開によって明らかになりました。平成12年(2000年)電事連報告では福島第一は日本一津波に脆弱であることが示されていました。電事連の「津波に関するプラント概略影響評価」は国会事故調参考資料編に掲載されています。全国の原発の中で,想定値の1.2倍で影響があるとされているのは福島第一と島根1,2号の二原発だけでした。平成14年(2002年)には,東京電力は福島第一原発に10mを超える津波が襲う危険性があることを政府の地震調査研究推進本部によって指摘されました。平成16年(2004年)末にはスマトラ島沖地震による大津波でインド南部のカルパカムにある原発が大津波に襲われました。平成18年(2006年)9月13日に,保安院の青山伸,佐藤均,阿部清治の3人の審議官らが出席して開かれた安全情報検討会(保安院と電事連とJNESの間で開かれていた秘密会)では,津波問題の緊急度及び重要度について「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうでないと「不作為」を問われる可能性がある。」と報告されていました(甲16 傍線は代理人,以下同じ)。しかし,対策はとられず,東京電力など電事連の圧力に保安院が屈している状態でした。
平成19年(2007年)には中越沖地震に見舞われた柏崎原発では想定を大幅に上回る地震動により,3000カ所の故障が生じました。想定を超える地震・津波にも備えなければならないことを教訓にすべきでした。しかし,東京電力は,想定を超えても,大事にならなかったと慢心していました。
東京電力は,平成14年(2002年)の地震調査研究推進本部の長期評価に対応し,明治三陸地震が福島沖で発生した場合,13.7m~15.7mの津波が襲うというシミュレーション結果を得ました。この結果は,土木調査グループから,平成20年(2008年)6月,武藤副社長(当時)らに報告され,副社長は非常用海水ポンプが設置されている4m盤(O.P.+4メートルの地盤)への津波の遡上高を低減する方法,沖合防波堤設置のための許認可など,機器の対策の検討を指示しました。しかし,翌7月には,武藤副社長は土木調査グループに対し,耐震バックチェックには推本の見解を取り入れず,従来の土木学会の津波評価技術に基づいて実施することとしました。東京電力の役員はこのシミュレーション結果を政府に提出せず隠し,平成23年(2011年)3月7日に至ってはじめて東京電力は,15.7メートルシミュレーション結果を国に報告しました。
保安院の安全審査課耐震安全審査室で平成21年(2009年)6月30日以降,室長を務めていた小林勝氏は,平成23年(2011年)3月7日に,このシミュレーションの報告が東京電力から保安院に対してなされた際に,土木学会の津波評価技術の改訂に合わせるという東京電力の方針に対して「それでは遅いのではないか。土木学会による津波評価技術の改訂に合わせるのではなく,もっと早く対策工事をやらないとだめだ」「このままだと,推進本部が地震長期評価を改訂した際に,対外的に説明を求められる状況になってしまう。」とコメントしたといいます(甲23の2の12頁)。しかし,遅すぎた警告でした。東京電力は3月13日の清水社長会見以来事故は「想定外の津波」を原因とするものであり,東京電力には法的責任がないとの主張を繰り返してきました。
東電株主代表訴訟で,平成27年(2015年)5月に,平成20年(2008年)9月10日付の「耐震バックチェック説明会(福島第一)議事メモ」が提出されました。この議事概要の中には,「津波に対する検討状況(機微情報のため資料は回収,議事メモには記載しない)」とありました。ここで回収された資料が「福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推進本部の知見の取扱)」というA3二枚の資料です。その2枚目の下段右側に,「今後の予定」として,以下の記載があります。
○ 推本がどこでもおきるとした領域に設定する波源モデルについて,今後2~3年間かけて電共研で検討することとし,「原子力発電所の津波評価技術」の改訂予定。
○ 電共研の実施について各社了解後,速やかに学識経験者への推本の知見の取扱について説明・折衝を行う。
○ 改訂された「原子力発電所の津波評価技術」によりバックチェック を実施。ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策は不可避。
土木学会への検討依頼は不可避の対策を先送りするものでしかないことをこの文書は自白しているといえます。東京地検は平成27年(2015年)1月に再度不起訴としましたが,去る7月17日には第五検察審査会による強制起訴を求める議決がなされ,同31日に公表されました。

2 第二次告訴事件の検審での解明が待たれる保安院と東京電力の歪んだ「共犯」関係
(1)スマトラ津波直後の保安院の意気込み
東京電力役員らの強制起訴が決まった後に,福島原発事故に関連して,次に解明しなければならないのは保安院と東京電力との歪んだ「共犯」関係の実態です。平成18年(2006)年9月13日に,保安院の青山伸,佐藤均,阿部清治の3人の審議官らが出席して開かれた安全情報検討会では,津波問題の緊急度及び重要度について「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうでないと「不作為」を問われる可能性がある。」と報告されていたことは,前に述べたとおりです(甲16)。このような意気込みは一体どのようにして雲散霧消してしまったのでしょうか。
平成18年(2006年)1月の勉強会立ち上げ時点の資料では,保安院は平成18年度に想定外津波による全プラントの影響調査結果をまとめ,それに対するAM対策(過酷事故対策)を平成21年度から平成22年度に実施する予定としていました(甲13の132頁)。このような決意は,スマトラ島沖の地震による津波のすさまじい被害を目の当たりにした反省から発せられたものだと考えられます。これらの資料によれば,福島第一を含む全原発についてきちんとした津波対策をとる方針であったことがわかります。

(2)保安院への抵抗の拠点 土木学会
それに対して,東京電力を含む電事連は強く抵抗し,自らの配下にあるといえる土木学会を動員して,このような保安院の方針を骨抜きにしました。災害を忘れることから,次の災害が生み出されることがわかります。福島を忘れ,再稼働に突き進めば,次の原発事故を引き起こすことは必至です。
土木学会「津波評価部会」の実態はその組織構成からも,電力事業者の統制下にあったことが明確となっています(甲15)。告訴団の第二次告訴の被告訴人である東京電力の津波対策の責任者である酒井は土木学会の津波評価部会の委員であり,同じく東京電力の津波対策のサブ責任者である被告訴人である高尾は同部会の幹事でした。この両名は,東電の津波対策の根幹部分を担いながら,土木学会での役職を通じて,東電の対策先送り方針を追認させようとしていた,重要被疑者です。両名については,確実に政府事故調の調書が作成されているはずであり,検察審査会においても,その内容をつぶさに検討されるよう求めます。

(3)耐震バックチェックにおいて推本の見解を取り込む方針が決定されていた
 さる7月17日の第五検察審査会の強制起訴を求める議決には次のように記載されています。
東京電力では,2009年6月には耐震バックチェックの最終報告を行い,それを終了させる予定であったところ,2007年11月ころ,土木調査グループにおいて,耐震バックチェックの最終報告における津波評価につき,推本の長期評価の取扱いに関する検討を開始し,関係者の間では,少なくとも2007年12月には,耐震バックチェックにおいて,長期評価を取り込む方針が決定されていた。
この点は,これまでの政府事故調の報告では,曖昧にされていた部分です。政府事故調中間報告では,この部分は次のように判断されていました。
武藤副本部長及び吉田部長は,三陸沖の波源モデルを福島第一原発に最も厳しくなる場所に仮に置いて試算した結果にすぎないものであり,ここで示されるような津波は実際には来ないと考えていた。東京電力が2007年7月の新潟県中越沖地震に見舞われた柏崎刈羽原発の運転再開に向けた対応に追われており,地震動対策への意識は高かったが,津波を始めとする地震随伴事象に対する意識は低かったと判断していた。そして,武藤副本部長と吉田部長は,念のために,推本の長期評価が,津波評価技術に基づく福島第一原発及び福島第二原発の安全性評価を覆すものかどうかを判断するため,電力共通研究として土木学会に検討を依頼しようと考えた。しかし,あくまで「念のため」の依頼であって,その検討の結果がかかる安全性評価を覆すものであるとされない限りは考慮に値しないものと考えていた。
しかし,前記の議決は,このような報告書の内容とは全く異なるといえます。政府事故調は,重大な証拠を隠し,真実の隠蔽に手を貸してきたと言わざるを得ません。
被疑者武藤と武黒は長期評価に基づくシミュレーションとこれに基づく対策を先送りしたこと自体は認めていましたが,このことを知らなかったとして容疑の前提を否認していた勝俣氏についての判断も注目されていました。議決は,地震対応打合せは,被疑者勝俣への説明を行う「御前会議」とも言われていたこと,津波対策は数百億円以上の規模の費用がかかる可能性があり,最高責任者である被疑者勝俣に説明しないことは考えられないこと,平成21年(2009年)6月開催の株主総会の資料には,「巨大津波に関する新知見」が記載されていたこと等を根拠に強制起訴の結論を導いたのです。

(4)貞観の津波をめぐる保安院内の暗闘1
小林勝耐震安全審査室長は,津波対策について極めて重要な証言を行っています。平成20-21年(2008-2009年)には,貞観津波規模の地震想定によって,被告訴人らは福島第一原発に9m程度(土木学会手法1によれば,この高さは3割程度高くなるとされており,約12m程度となる)の津波が襲う危険を予見することが可能でした。平成20年(2008年)10月頃に東京電力は,佐竹健治氏らによる貞観津波の波源モデルに関する論文案(佐竹健二・行谷佑一・山木滋「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」 以下「佐竹論文」という。)を公表前に入手しました。
平成20年(2008年)12月には,東京電力は,宮城・福島県沖で貞観地震規模のマグニチュード8.4の地震が発生したことを想定した津波高さの試算を行っています。その結果,福島第一原発の取水口付近O.P.+8.7mから9.2mの津波(土木学会手法によれば,約12m程度)が襲来するとの試算を得ています。これはこれまで論じてきた同年5月の15.7メートルの試算とは別のものです。この情報は,平成20年(2008年)の時点で役員であった被告訴人勝俣恒久,皷紀男,武黒一郎らに周知されました。
総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会,耐震・構造設計小委員会・地震・津波,地質・地盤合同ワーキンググループの平成21年(2009年)6月24日開催された会議において,委員である岡村行信センター長は,貞観地震による津波の規模が極めて大きかったことや,貞観地震による津波について,産業技術総合研究所や東北大学の調査報告が出ていたにもかかわらず,福島第一原発の新耐震指針のバックチェックの中間報告で,東京電力がこの津波の原因となった貞観地震について全く触れていないのは問題であると指摘しました。
そして岡村行信委員が,産総研などの津波堆積物の調査結果を踏まえて,津波審査のやり直しを強く主張していました。この場で東京電力の立場を説明していたのは,第二次告訴の対象にした東京電力土木グループの被疑者高尾です。
しかし,保安院の被疑者名倉審査官は異常なほど冷淡に議論を切り捨てて問題を先送りしようとしていました。この部分を平成21年(2009年)7月13日の議事録から引用してみることにします。
岡村 実際問題として,この貞観の時期の地震動を幾ら研究したって,私は,これ以上精度よく推定する方法はほとんどないと思うんですね。残っているのは津波堆積物ですから,津波の波源域をある程度拘束する情報はもう少し精度が上がるかもしれないですが,どのぐらいの地震動だったかというのは,古文書か何かが出てこないと推定しようがないとは思うんですね。そういう意味では,先延ばしにしても余り進歩はないのかとは思うんですが。
○名倉安全審査官 今回,先ほど東京電力から紹介した資料にもありましたけれども,佐竹ほか(2008)の中で,当然,今後の津波堆積物の評価,それは三陸の方もありましたが,それから,多分,南の方(代理人注:福島のこと)も今後やられる必要があると思いますが,そういったものによって,位置的なものにつきましては大分動く可能性があるということもありますので,そこら辺の関係を議論するためのデータとして,今後得られる部分がいろいろありますので,そういった意味では,今,知見として調査している部分も含めた形でやられた方が信頼性としては上がると私は思っていますので,そういう意味では,その時々に応じた知見ということで,今後,適切な対応がなされることが必要だと思います。その旨,評価書の方に記載させていただきたいと思います。(甲20の13頁)
ここで,名倉安全審査官はこの問題は中間報告では取り扱わず,最終報告に記載しますといって,話をうやむやにしています。最終報告は,委員には半年,1年内に出すと行っておきながら,東京電力の土木学会への検討依頼方針を受け入れたため,最終報告の時期は土木学会の検討後に引き延ばされたのです。この点は,明らかに東京電力と保安院との共謀関係を示す事実です。

2回目に続く。
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by kazu1206k | 2015-08-18 22:42 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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