汚染水告発で新上申書を地検に提出

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 12月17日午前、福島原発告訴団は、汚染水海洋放出事件について、 東京電力の汚染水対応の経緯を具体的に述べた新たな上申書を福島地方検察庁に提出した。(末尾に掲載)
 午後からは、福島市市民会館で県内集会が開かれ、甫守弁護士が汚染水放出事件の上申書の解説を行い、3人の告発人から福島地方検察庁による事情聴取の内容や1月30日の「福島原発刑事訴訟支援団の発足の集い」への結集などが報告された。
 福島原発告訴団は、2013年9月3日、福島県警察本部に対して、広瀬直己東電社長や勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長ら新旧経営陣32名と法人としての東京電力株式会社を「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(公害罪法)」の被疑事実で刑事告発。福島県警察本部は、本年10月2日に、新旧経営陣32人と法人としての東京電力を福島地方検察庁に同法違反容疑で書類送検し、現在、福島地方検察庁が捜査している。
 捜査は年を越す模様で、泥沼化した汚染水問題の解決に向けて、福島地方検察庁が厳正公正な捜査を完遂して、東京電力の責任を明らかにし幹部らを起訴するよう、福島県民、国民の声をあげて行くことが求められている。


上 申 書 (6)

平成27年(2015年)12月17日

福島地方検察庁 御担当検察官 殿

告発人武藤類子ほか代理人  

弁護士 河合 弘之 
 
 同  保田 行雄 

 同  海渡 雄一 

 同  甫守 一樹 

上申の趣旨

告発人らが平成25年(2013年)9月3日に提出した,人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(以下,「公害罪法」という。)違反の罪による告発について,告発人らは以下のとおり,主張を補充する。

上申の理由

第1 日弁連人権大会でのシンポジウム
日本弁護士連合会は,本年10月1日,第58回人権擁護大会シンポジウム第3分科会において,「放射能とたたかう~健康被害・汚染水・汚染廃棄物~」と題し,本件告発事実(被疑事実)に関わる福島第一原発事故における汚染水問題についてのシンポジウムを開いた。
本上申書は,主にこのシンポジウムの基調報告書(以下「基調報告書」という。)(甲31)及び同シンポジウムの別冊資料集(以下「資料集」という。)(甲32)等に基づいて,上申書(5)までの告訴人らの主張を補充するものである。

第2 混迷が続く汚染水対策
基調報告書第2章(75頁以下)では,「福島第一原発事故に由来する汚染水対策等及び労働者被ばくについて」と題し,本件告発に係る問題点が詳細に記載されている。
基調報告書90頁に,福島第一原発の汚染水の漏えいに関し法令に基づいて原子力規制委員会に報告のあった11件の事象が記載されており,規制委員会の発足から平成27年(2015年)5月までの間,2,3か月に1回の頻度で報告事項に該当するトラブルが発生していることが分かる(なお現在は,これに2015年9月15日の汚染水タンクエリア堰内水漏えいが加わり全部で12件となっている)。
基調報告書100頁には,平成23年(2011年)3月11日以来の汚染水問題の一連経緯が記載されているので参照されたい。福島第一原発の汚染水問題とは,数々の不手際・不祥事の積み重ねであることが分かる。

第3 凍土壁工法の問題点
基調報告書105頁には,現在東京電力と経済産業省が進めている凍土壁工法の問題点がまとめられている。
凍土壁とは,地下水が建屋に流入することを防止するために,建屋の周りを1.5キロにわたって,1メートル間隔で約1500本の凍結管を埋め込むなどして周囲の土を凍結させ,地下水が建屋に流入することを防ぐ,いわゆる陸側遮水壁を構築するための工法として採用されたものである。凍土壁工法は,汚染源を水に「近づけない」対策の柱とされている。
しかし,凍土壁工法には以下の問題点があり,その意義は乏しい。
なお,凍土壁工法の問題点については,資料集34頁以下の浅岡顕名古屋大学名誉教授(元地盤工学会会長)のプレゼンテーション資料「福島イチエフでの凍土壁の有効性を問う―恒久的遮水壁の構築が急務―」も参照されたい。

1  実現可能性に疑問
   凍土壁工法は小規模な実験が行われたのみで,福島第一原発で予定されているような大規模・長期に及ぶ工事は前例も実証もない。熱源となっている多数の埋設管の存在や地下水流の影響等で凍結が困難な可能性がある。地中のがれきや埋設管の影響により鉛直埋設精度が低く,凍土壁が隙間だらけとなり止水できない可能性もある。

2  仮設構造物であることによる問題
   凍土壁は本来仮設の構造物であり,将来的には解凍することを予定している。凍土壁には維持メンテナンス費用や冷却液の循環のための電気代など,膨大なランニングコストがかかることもあり,長期の使用には向かない。
   本件で凍土壁が採用されたのは,当初,建屋内部のドライアップと止水工事が完了し,建屋内部への地下水の流入を止めることを前提に,7年後には凍土壁を解凍することが計画されていたからである。
   しかし,建屋内部から水を抜いてしまえば水による遮蔽効果が失われ,空気中での放射線環境は急激に悪化する。現段階ではドライアップも止水工事も目途が立っていない。
  
以上のように凍土壁工法の採用は不適切であり,無用なコストと作業員の被ばくを伴うものである。

第4 ロードマップ改訂―建屋内への流水量の抑制計画に変更
平成27年(2015年)6月改訂のロードマップでは,ドライアップは放射線被ばくのリスクを高めることであり,止水工事は不可能であることから,「止水」ではなく,凍土壁によって建屋内への流入量を100t/日まで抑制するとし,廃炉まで解凍しない計画に変更されつつある。
しかし,凍土壁の維持継続の困難さと,作業員の被ばく問題や凍土壁の維持管理費用等の人的,コスト的負担の大きさを考えれば,地下水の流入量をいくばくか抑制することを目的とし,廃炉が完了するまで凍土壁の維持と地下水位の管理をし続けるというのであれば,無策という他ない。

第5 凍土壁工法には莫大な税金が注ぎ込まれている
資料集54頁に記載されている通り,スラリーウォールやECウォールなど,従来の工法によって,凍土壁工法より低費用で高い止水効果を実現することが出来る。日本弁護士連合会は,凍土壁のような仮設の構造物ではなく,コンクリート地中連壁などの既存技術による恒久的遮水壁へ切り替えるよう求めている(基調報告書98,110頁)。
凍土壁工法という明らかに不合理な選択がされた理由は,東京電力が自らの費用負担における陸側遮水壁を建設しないでいたところ,大量の汚染水漏れが発覚し,東京オリンピックへ向けて事態の収拾を図りたい国が乗り出して国費を支出するため,従来技術ではない「チャレンジング」な新技術の研究開発支援名目が必要だったからである(基調報告書102,105,110頁)。東京電力の尻拭いのために,血税が極めて非効率な形で投入されている。怒りを通り越して呆れるような話である。

第6 止まらない海洋汚染
陸側遮水壁が現在に至っても完成していないことにより,海洋汚染は現在も続いている。
基調報告書89頁記載の通り,福島第一原発付近での沿岸では,セシウム137の放射能濃度は,事故前の100倍程度で高止まりしている。
また資料集17頁に記載された原子力コンサルタント佐藤暁氏の試算によると,福島第一原発事故によって放出された放射能量は,平成25年(2013年)10月までで,汚染水によるものが大気放出量の約10倍に上り,チェルノブイリ原発事故の放出量をはるかに上回っている。福島漁業者への打撃は測り知れず,補償を行えば済む問題ではない。
今後,大規模な地震や津波等が福島第一原発を襲えば,サイトに蓄えられた大量の汚染水が流出し,さらに汚染が拡大するおそれもある。

第7 速やかに恒久的遮水壁を建設しないことが現在の迷走を招いた
これまでも繰り返し述べてきたとおり,被告発人らが当初予定した通り陸側遮水壁を建設していれば,汚染水の流出は回避ないし相当程度軽減することが出来た。既存の技術による陸側遮水壁の計画は平成23年(2011年)4月段階から存在し(基調報告書98頁,101頁),同年6月14日に公表することが予定され,想定問答集まで作成されていた。東京電力自らが行うのであれば,凍土壁工法のような「チャレンジ」をする理由がないので,従来工法により,凍土壁よりもはるかに低費用で高い止水効果を実現することが出来たはずである(資料集54頁参照)。
東電の平成23年(2011年)6月13日付内部資料「福島第一原子力発電所地下バウンダリの基本仕様について」に別紙として添付された「地下バウンダリの基本仕様について」という資料(甲16の1)には,以下のような記載がある。

 2.地下バウンダリを設置する目的
  ○地下を通じた放射性物質の拡大による海洋汚染を防止すること。
  ○高濃度の滞留水がこれ以上海洋に流出させないために,「後追いにならない備え」とすること。

つまり東京電力は,平成23年(2011年)6月の時点で,後手に回った汚染水対策を反省し,早期に陸側遮水壁を建設しない場合,将来大量の汚染水が海洋に流出することを当時から予見していたのである(甲33 木野龍逸著「難航する汚染水対策―問題の先送りが事態を深刻にしていく」『科学』2014年8月号848頁)。そうでありながらこの計画を撤回した理由は,遮水壁の費用が1000億円レベルとなる可能性があり,これを公表して市場から債務超過に近づいたという評価を受けることをおそれたからである(基調報告書101頁)。対策工事費用が多額に上ることから財政状態の悪化をおそれて計画を撤回,問題を先送りし,徒に被害を発生・拡大させる構図は,福島第一原発事故前の被告発人らの津波対策とまったく同じである。

第8 結語
本告発事実は,その態様の悪質さや被害の深刻さからすれば,被告発人らの刑事責任は重く,起訴をしないという選択はあり得ない。
速やかに然るべき捜査を行った後,被告発人らに対し正義に則った厳正な処分を行われたい。
                              以上
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by kazu1206k | 2015-12-17 19:15 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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