解除されていない原子力緊急事態宣言

●解除されていない原子力緊急事態宣言

 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故(福島第一原発事故)から5年になろうとしています。
 復興の加速化が叫ばれ、福島第一原発事故の風化が進む中で、福島第一原発事故による原子力災害を含む東日本大震災の集中復興期間は平成27年度で終了し、28年度からは復興・創生期間となります。
 復興庁の設置期間は2021年3月末までですが、未だ復興は道半ばです。原子力災害の原因者の一翼である国は、モノの復旧から人間の復興が成し遂げられるまでは、被災者に寄り添い十分な保障をしていく責務があります。
 現在、いわき市は、2万4千人の原発事故避難者を受け入れ、長期避難者との共生をめざしながら、福島第一原発事故の収束と廃炉工程の拠点的役割を担い、浜通りの復興再生を進める拠点都市としての役割を担っています。
 市制施行50周年となる今年、人間の復興と将来を見据えたまちづくりを着実に進めて、いわきの明るい未来を切り開いていく大前提は、何よりも市民の安全・安心が確保されることです。
 その点で、見落としがちなことは、2011年3月11日午後7時過ぎに出された政府の原子力緊急事態宣言は、事故から4年11ヶ月過ぎても未だに解除されていない、という事実です。
 福島第一原発は、現在も事故収束の見通しが立たず、毎日大量の放射性物質を大気中に放出しており、汚染水も海洋に流出し続けています。過酷事故によって未曾有の放射能汚染と低線量長期被曝をもたらした福島第一原発は、原子炉等規制法が改正されて、国が30~40年の長期にわたって特別に管理が必要な施設として、特定原子力施設に指定しています。
 特定原子力施設である福島第一原発は、原子力規制委員会によって、原子炉等の監視、燃料の貯蔵、汚染水の処理、作業員の被曝線量管理などの実施計画の認可をうけた上で、同委員会の「特定原子力施設監視・評価検討会」により、作業の進捗状況や汚染水処理などが監視・評価されています。
 汚染水の処理については、昨年12月18日に開催された「第38回特定原子力施設監視・評価検討会」で、「海側遮水壁」の閉合により、せき止められた地下水をくみ上げ、トリチウムを除く62種類の放射性物質を取り除いて海洋に放出する東京電力の計画が頓挫して、逆に1日約400トンの汚染水が増加していることが明らかになりました。
 それは、「海側遮水壁」周辺の5つの地下水ドレンのうち4つから汲み上げた地下水のトリチウム濃度が東京電力の放出基準値(1500ベクレル/ℓ)を超え、浄化設備で処理せずタービン建屋内に1日約400トン移送しているというものでした。
 東京電力は、前日の12月17日、サブドレンからの地下水くみ上げによって、1~4号機建屋内への地下水流入量が1日400トンから160~170トンへと、従来に比べ大幅に減少したと報告していました。しかし、地下水ドレンからくみ上げた地下水を建屋内に流すことで、逆に汚染水は増加し、1~4号機建屋内への地下水流入量160~170トンと合わせ1日約560~570トンの汚染水発生量となり、サブドレン運用前の汚染水発生量約300トンの2倍近くも増加してしまいました。
 東京電力は、サブドレンのくみ上げ量を増やし、「凍土遮水壁」の運用で地下水ドレンからのくみ上げ量を減らす方針としています。しかし、原子力規制委員会が凍土壁の運用を認めていない現状では、サブドレンなどから汲み上げた汚染水を処理して海に流すことを容認した漁業者の苦渋の選択を裏切る結果となり、サブドレン・地下水ドレン計画は不透明感をましています。
 翻って、昨年1月、原子力規制委員会は、福島第一原発の「貯蔵液体放射性廃棄物」の削減策として、処理水の海洋放出等を明文化しました。水素の放射性同位体であるトリチウム(三重水素)の放出は、東京電力の試算で、サブドレン等の汚染水だけで一日9.65億ベクレルとされ、総量規制のないまま放出されれば、貯蔵タンクを含め総量1,000兆ベクレルのトリチウムが全量投棄されることになります。しかし、カナダ・ピッカリング原発周辺では人体への影響も指摘されています。潮目の海の恩恵に支えられてきたいわき市民としては、トリチウムの全量投棄を容認するわけにはいきません。国と東京電力に対して、汚染水からトリチウムを分離、隔離するよう求めています。
 また、作業員の被曝線量管理については、連日8千人の労働者が事故収束作業に従事していますが、多重下請け構造の下で、昨年も労災死亡事故が相次ぎ、賃金や被曝補償としての危険手当のピンハネが横行しています。適切な労務管理と安全管理がないがしろにされ、熟練労働者の離職を招いており、これまでも東京電力に対して、作業の安全確保、被ばく低減、健康管理・生活保障、雇用条件の是正を求めてきましたが、労働災害の増加、労働法令違反が沈静化していません。

・長期避難と早期帰還政策のはざまで

 昨年秋で、約11万人の被災者が避難生活を強いられ、その約4割の約4万5千人が県外避難を続けています。福島県の発表によると、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故による避難が原因で亡くなった震災(原発事故)関連死として、県内市町村が認定した死者数は、昨年12月25日で2006人となり2千人を超えました。ふるさと喪失と長期避難は、被災者の困難と疲弊、未来への絶望へと結果しています。
 国の原子力災害対策本部は、事故の収束にはほど遠い廃炉・汚染水対策の状況にもかかわらず、昨年6月「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂して、「年間積算線量20ミリシ–ベルト以下・日常インフラの復旧・住民との協議」を避難指示解除の3要件として、早期帰還を促進しています。2017年3月に避難指示区域指定の解除・区域外避難者の住宅支援を打ち切り、2018年3月には損害賠償を打ち切るとの方針を明確にしました。
 母子避難など二重生活の精神的経済的困難、避難生活の疲弊、被災者間の分断などが深まり、被災者は声をあげにくい状況になってきました。こうした中での打ち切り方針は、それぞれの生活事情を抱える原発事故被災者の救済に、大きな打撃を与えるものとなりかねず、被災当事者との意見交換や協議などを通じて、真に被災者に寄り添った支援策を形成していくことが求められています。

・遂に東電元幹部の起訴

 福島原発告訴団が2012年に「福島原発事故の刑事責任を糾す」として1万4716人で行った告訴・告発事件は、検察庁が二度にわたり不起訴処分としましたが、東京第五検察審査会が市民の正義を発揮して二度とも起訴相当を議決し、被疑者・勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄が「強制起訴」となり、今年3月11日までに起訴されることとなりました。
 また、「2015年告訴」は、「東電と旧経産省保安院の津波対策担当者計5名」に対して東京第一検察審査会で、現在審査中です。さらに、2013年「汚染水告発」事件は、広瀬直己東電社長や勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長ら新旧経営陣32人と法人としての東京電力を「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(公害罪法)」で福島県警に告発したもので、福島県警が新旧経営陣32人と法人としての東京電力を福島地検に公害罪法違反容疑で書類送検し、福島地検が捜査中です。
 福島第一原発事故の真実と責任の所在を明らかにする、この刑事訴訟は、原発依存社会に終止符を打つため重要な意義を持っていることから、訴訟の行方を見守り支える「支援団」が1月30日東京で立ちあがります。
 さらに、昨年は、福島第一原発事故による損害賠償や責任の明確化を求めて訴訟などを起こしている団体の全国組織「原発事故被害者団体連絡会」(略称:ひだんれん、21団体・約2万5千人)や強制避難と自主避難の壁を越えた全国の避難者のネットワーク「『避難の権利』を求める全国避難者の会」が相次いで結成され、被災当事者の連帯も進みました。
 解除されない原子力緊急事態宣言のもとで、市民の安全・安心の確保を求めて活動していくことが、「明日のいわき」を創ることにつながっていきます。

「3.11から4年11ヶ月ー『明日のいわき』のためにー46ー」(月刊りぃ~ど2016年2月号)のための原稿より
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by kazu1206k | 2016-02-12 22:48 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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