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立憲主義・民主主義を回復するための宣言

 日本弁護士連合会は、10月6・7日に福井市で開いた「2016年 第59回人権擁護大会・シンポジウム」で「憲法の恒久平和主義を堅持し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言」を採択しました。
 日本弁護士連合会は、『平和国家の在り方について、今、日本は大きな岐路に立っている。
 アジア・太平洋戦争の惨禍に対する痛切な反省に立ち、立憲主義・民主主義に基づいて平和国家を建設しようとした憲法体制が、根本から覆されようとしている。今ほど、立憲主義、民主主義、平和主義の憲法的価値の真価が問われているときはない。
 この憲法体制の危機に当たって、当連合会は、憲法の恒久平和主義を堅持し、損なわれた立憲主義と民主主義を回復することを通じて、国民・市民の自由と人権を守るべき重大な責務を有する。当連合会は、新たな国民・市民の民主主義再生への動きと連携しつつ、また、憲法秩序と法の支配を確保すべき司法の役割を追求しつつ、その責務を全うするために全力を挙げることを、ここに宣言するものである。』と提案理由で述べています。

憲法の恒久平和主義を堅持し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言

今、この国の在り方すなわち憲法体制が、大きく変えられようとしている。

憲法9条に違反する平和安全法制整備法及び国際平和支援法(以下「安保法制」という。)が2015年9月19日に国会で採決され、2016年3月29日に施行された。これによって日本は、集団的自衛権を行使して他国の戦争に参加し、あるいは海外での他国の武力の行使と一体化する危険を免れないこととなった。

1945年、日本は、アジア・太平洋戦争の惨禍に対する痛切な反省に立ち、その惨禍をもたらした国家主義と軍国主義を排し、個人の尊厳に立脚して、主権が存する国民による全く新たな憲法体制を構築することとなった。そして制定された日本国憲法は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」、世界に先駆ける徹底した恒久平和主義を高らかに謳った。

戦後70年の日本の歴史において、憲法9条は、現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、集団的自衛権の行使の禁止、海外における武力行使の禁止などの基本的な原則を内容とする法規範として、平和主義の基本原理を確保するための現実的な機能を果たしてきた。これによって日本は、国際社会の中で、平和国家としての一定の評価を得てきた。

ところが、この間、日本を取り巻く安全保障の環境が一層厳しさを増していることを理由に、特定秘密保護法の制定、国家安全保障戦略の策定、武器輸出禁止原則の転換などが進められた上、解釈で憲法を改変し安保法制を整備するための閣議決定がなされ、これを受けて憲法に違反する安保法制が制定されるに至った。ここに、内閣及び国会によって立憲主義が踏みにじられ、同時に、憲法9条の上記法規範としての機能も損なわれることとなった。

しかも政府は、安保法制法案を国会に提出するよりも前に内容を先取りする新たな日米防衛協力のための指針を合意し、法案の国会審議においても、多くの専門家の違憲性の指摘や法案成立反対の多数世論にもかかわらず、また集団的自衛権の行使等を必要とする立法事実すらあいまいなまま、審議を十分に尽くすことなく、採決を強行した。その過程は、言論の府としての国会による代表民主制の機能を阻害するものであった。

そして安保法制が施行された今、この国は、政府の判断と行為によって、集団的自衛権が行使されることなどが、現実の問題として危惧される状況にある。しかも特定秘密保護法の下では、市民は、政府の判断の是非を検討するため必要な情報を十分に知らされず、事後的な検証すら保障されない。政府に対する監視にとって表現の自由の保障が不可欠であるが、政府・与党関係者がメディアの政治的公平性を問題視し、放送局の電波停止にまで言及する等、表現の自由への介入の動きも際立ってきている。

このような状況は、日本が戦後70年間にわたって憲法9条の下で培ってきたかけがえのない平和国家としての理念と実績を損ない、海外においても武力の行使ができる国となり、個人の尊厳と人権の尊重を基本とする憲法の価値体系が影響を受けて、国の基本的な在り方が変容させられてしまいかねないものである。

今ほど、立憲主義、民主主義、恒久平和主義という憲法的価値の真価が問われているときはない。そして、この憲法的価値の回復と実現は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士からなる当連合会としての責務である。また、安保法制が制定・施行された現在、立憲主義の理念に基づいて権力の恣意的行使を制限し、法の支配を確保すべき司法の役割は大きく、その一翼を担う当連合会の果たすべき役割もまた重大である。

安保法制の立法化の過程においては、これに反対する広汎な世論が形成され、若者、母親、学者・文化人その他の各界各層が、自発的かつ主体的に言論、集会等の行動を通じて政治過程に参加する民主主義の大きな発露があった。このような新たな政治参加の動きは、安保法制が成立した後も途絶えることなく継続している。

今、この国の歴史の大きな岐路に立って、当連合会は、民主主義を担う市民とともに、立憲主義国家が破壊され、この国が再び戦争の破局へと向かうことの決してないよう、憲法の恒久平和主義を堅持し、損なわれた立憲主義と民主主義を回復するために、全力を挙げることをここに表明するものである。

以上のとおり宣言する。

2016年(平成28年)10月7日
日本弁護士連合会
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by kazu1206k | 2016-10-18 23:01 | 平和 | Comments(0)

佐藤かずよし


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