『原発訴訟』海渡雄一著
2012年 01月 11日
海渡さんには、2000年に福島第一原発3号機でのプルサーマル反対運動で、MOX燃料装荷差し止め仮処分裁判の弁護をして頂き、2002年の東京電力の原発検査データ不正事件発覚の中、当時の佐藤栄佐久知事が福島県エネルギー政策検討会を設置した際、市民側の代表の参加を求めたものの受け入れられなかったために、自主的に県民レベルで立ち上げたエネルギー政策市民検討会の講師も引きうけて頂くなど、福島原発をめぐる福島の脱原発市民運動にも積極的に係って頂いてきました。
今回、海渡さんは、30年以上、脱原発の立場から数々の原発訴訟に取り組み、原告勝利のもんじゅ控訴審や係争中の浜岡原発訴訟なども担当しきた弁護士の立場から、新著『原発訴訟』では、代表的な原発訴訟の歴史を振り返り、原発の安全性・耐震性の問題、法的な課題などについて詳しく説明しています。福島原発震災、福島第一原発事故に伴う損害賠償の仕組みとあり方、原発被曝労働と労働災害の実態についても紹介し、これから法制度をどう変えていかなければならないのか、展望を示しています。本書には、私たちがはじめた「福島原発被曝者援護法」の制定を目指す運動、福島原発震災連絡情報センターも紹介されています。
福島原発震災の渦中で、停止中の原発再稼働を許さず、脱原発を目指す、新たな「原発訴訟」の準備や提訴が始まっています。原発の建設と運転を止めるため、国や電力会社と闘ってきた海渡さんの新著『原発訴訟』をぜひお読み下さい。
■著者紹介
海渡雄一(かいど・ゆういち)1955年生まれ。弁護士。81年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。日弁連事務総長(2010年4月-)。
著書―『監獄と人権』(明石書店、1995年)、『監獄と人権2』(同、2004年)、『共謀罪とは何か』(共著、岩波ブックレット、2006年)、『憲法の危機をこえて』(共著、明石書店、2007年)、『刑務所改革─刑務所システム再構築への指針』(共編著、日本評論社、2007年)ほか。
主な論文―「もんじゅ訴訟」(日本弁護士連合会行政訴訟センター編『最新重要行政関係事件実務研究』、青林書院、2006年)、「原子力問題と環境」(吉村良一ほか編『新・環境法入門』、法律文化社、2007年)、「原子力発電所をめぐる訴訟」(日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会編『公害・環境訴訟と弁護士の挑戦』、法律文化社、2010年)。
■目次
はじめに―「原発訴訟」とはなにか
第1章
原発の安全性を問う
1 行政訴訟の枠組み―伊方最高裁判決の意義
2 矛盾に気づき始めた裁判官たち
3 初の原告勝利判決―もんじゅ控訴審判決
4 逆転敗訴のもんじゅ最高裁判決
5 もう一つの勝利判決―志賀原発2号炉金沢地裁判決
第2章
原発は大地震に耐えられるか
1 浜岡原発訴訟―静岡地裁判決までの経緯
2 最高裁のダブルスタンダード―柏崎原発訴訟
3 核燃料サイクル施設の危険性―青森県六ヶ所村
4 地震・活断層と各地の原発
a 北海道・泊原発/b 青森・大間原発/c 東北太平洋沿岸/d 福井・敦賀湾一帯/e 島根原発/f 山口・上関原発(建設計画中)/g 愛媛・伊方原発/h 佐賀・玄海原発/i 鹿児島・川内原発
第3章
福島原発事故と東京電力
1 東京電力の危険な“体質”
a 再循環ポンプ損傷事故/b プルサーマルをめぐる闘い/c 東電トラブル隠しと刑事告発
2 本当に「想定外」だったのか
3 被災者のための損害賠償―ADRの積極活用を
第4章
被曝した労働者、住民たち
1 原発と労災
a 浜岡原発作業員の労災認定/b 考慮されなかった内部被曝/c 労災認定でも損害賠償は認められず
2 東海村JCO臨界事故・健康被害裁判
3 被曝住民と労働者の権利確立を
終 章
脱原発のための法的課題―福島原発事故を最後とするために
1 司法の失敗
2 原子力安全行政をどう改革するか
3 脱原子力へ―いま、すべきこと
あとがき
コラム 日本で運転されている原発の種類/高木仁三郎先生と原子力訴訟