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ウクライナ調査報告–3非常事態省と支援法

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ウクライナ調査報告、第3回は、ウクライナ政府非常事態省のチェルノブイリ事故住民保護課での調査報告です。
非常事態省は緊急事態省とも和訳されております。非常事態省は、革命前の歴史的建造物といった感の建物でした。

2012年5月10日 ウクライナ政府 非常事態省 訪問
        (説明者)チェルノブイリ事故住民保護課 
                アントニーナ・イシチェンコさん
                ナターリャ・セミヤシスカヤさん
                ナターリャ・シヴァラさん

非常事態省では、日本大使館の中野洋美参事官の同席のもと、私から訪問調査の趣旨を申し上げました。その上で、「チェルノブイリ事故の結果から住民保護課」の副課長のアントニーナ・イシチェンコさんから、まずお話を伺いました。

アントニーナさんは、チェルノブイリ事故について、ウクライナの53,000平方キロメートルが汚染地域となり、被災者は250万人、事故直後は300万人に上ったと話し、資料として、91年にまとめた被災者支援法とその後の内閣省令や法令改正を求めた法律集および2011年事故後25周年に当たって作成した放射能汚染マップを提供いただきました。いずれもウクライナ語の原資料。
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●アントニーナ住民保護課副課長のお話
・91年にまとめた被災者支援法の趣旨は、チェルノブイリ事故の影響から住民を保護するというもの。解決すべき事項は、どこに住んで医療を受けるのか、保養するのか、農業は可能なのか、ということ。大枠で二つ、一つは被災者の支援、もう一つは汚染地域の定義。現在は、社会保障については社会政策省が所管し、汚染地域の立ち入りや制限区域の管理は非常事態省制限区域管理局で行っている。
・医療は、被災者支援法に基づき治療、入院、医薬品は全て無料であり、内閣令が出て具体的に補償している。
・被災者の国家登録法がある。登録は被災者の健康を統計的に把握する上で極めて重要。
・被災者への医療施設の指定。国の施設として、あらゆる病気の治療に当たる放射線医療センター、甲状腺異常の治療にあたる内分泌代謝研究所、小児科産科婦人科研究所。現在は、チェルノブイリ事故の時に胎内被曝した人たちが子どもを作る世代になっていることも重要。
・登録の認定委員会は中央に1、地域に7ある。
・社会的精神的心理学的リハビリセンターは、ジトミール州など2カ所にある。
・非常事態省は、各州に支局をおいて対応している。
・財政は、国予算で賄っている。

●社会保障ーナターリャ・セミヤシスカヤ社会政策省担当のお話
・事故処理作業者(リクビダートル)、被災者に対し、住居の提供、公共料金、治療、保養、年金、老齢年金に特典。

●汚染地域の定義法ーナターリャ・シヴァラ担当のお話
・汚染地域の定義は、土壌のセシウムとストロンチウム汚染量、食品汚染量、住民の想定被曝線量による。
・4つのゾーン ①第1ゾーン。30キロ圏立ち入り禁止区域。(商業的生産活動の禁止)
       ②第2ゾーン。無条件義務的移住区域。(商業的生産活動の禁止)年5mSv以上。
       ③第3ゾーン。保証付任意移住区域。(農業は許可)年1mSv以上。
       ④第4ゾーン。管理区域。(農業は許可)年0.5〜1mSv。
・これらに地域は国が放射線管理を行い、25年で14回の詳細調査を実施。内容は、各村でジャガイモや牛乳5検体、100人の内部被曝検査などを行うもの。
・全国で70名の放射線専門家による検査を実施して勧告している。最大問題は、内部被曝への対応で、住民に情報提供するのも社会保障の一つ。
・食品汚染衛生基準値。86年版から2006年の最新版。
・汚染地域の指定は、内閣令による2,293市町村から273市町村に減っている。ゾーンの見直しは州議会の発議によって決まるが、過去には第2ゾーンのムラを第3ゾーンにしたのは1件のみである。選挙を意識した政治家が取りあげない問題もある。

●質問は、
・松谷静岡市議は、ソ連政府の事故秘密政策を乗り越えて法律制定に至るウクライナの「運動」について、汚染区域が2,293から273に減少したことについて。
・岩佐千代田区議から、法律の権利規定、制度設計、制定過程について。
・古市福島県議から91年とその後改正された法律、福島へのアドバイスについて、
・私から、被ばく者の国家登録について、等質問しました。
15:00から16:00の約束が17:00までに延長されるも時間切れの実情でした。
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●以下は回答内容の一部です。

・一時的補償金か社会保障の特典か。この点が日本でも考える参考になる。2006年の社会経済的復興のプログラムで社会保障から雇用などへの転換を提言したが実現していない。福島の方々に対する勧告助言だが、地理的経済的条件を考慮して 一方で住民の精神的な問題も考慮していかないといけない。国際的水準に照らしても被災者にネガティブな影響が長く続いている。ウクライナ自身のメンタリティもあるかもしれないが先祖代々の土地を捨てていかなければならないことがトラウマになって戻ってくる人々がいる。除染して住めるようにすることは範囲が広いうということ、財政的に負担が多額と言うことで国の政策として取らなかった。
・年間300億ドル、社会保障で国の予算から支出している。経済的側面からは、一時金と社会保障の特典を被災者に選択してもらった方がいいのではないか。
・放射能汚染環境でいかに生きていくかについて、科学技術的な、環境の改善、がん、糖尿病、心臓血管など疾病が起きてきたときに医療的に対応できる、どこに住んでいく条件を見つけられるのか、汚染されているといっても適応できる、汚染を踏まえた上で生活できる条件を見つけていくことが必要。
・国家登録法の内容。第2ゾーン以上の移住した被災者、事故処理作業者、現在の第4、第3ゾーン居住者が申請して認定する制度。被災者医療登録、定期検診と社会保障登録を別々に証明書を発行している。

非常事態省は「私たちの誤り」として、一つは情報の隠匿、二つ目が被ばく者に対しての補償を一時的補償と社会保障制度としての様々な特典を与えてきたことをあげ、事態が「改善」しているのに社会保障制度を「改定」できていないことを強調しましたが、ウクライナ独立という財源確保の難しい現状の中で、非常事態省の説明は或る意味で日本政府が一番、そのことを吸収しているのはないかと考えられます。社会保障制度の改定は、財源論による被曝者「切り捨て」政策の要素があるのではないか。福島原発事故被曝者の現実に対して、事故の国家責任を明確にし、ヒロシマ・ナガサキでの国家補償の観点を認識した上で、被災者支援法を確立する必要があります。
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by kazu1206k | 2012-05-28 23:40 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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