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ウクライナ調査報告–4ナロージチ地区行政長

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ウクライナ調査報告、第4回は、ジトーミル州のナロージチ地区行政庁での調査報告です。
ジトーミル州のナロージチ地区は、1町64村で構成され、汚染地帯の第1〜4ゾーンまでが存在しており、ナロージチ町は第2ゾーンにあたります。
写真は、ナロージチ地区行政庁近くの公園にある廃村になった村々の名前が刻まれた記念碑。左が1986年の廃村碑、右が1990年の廃村碑ですが、何ともいたたまれぬメモリアルストーン。澄んだウクライナの空のもと花輪が供えられていました。
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2012年5月11日 ナロージチ地区行政庁
        (説明者)ナロージチ地区行政長 トロフィネンコさん

行政庁前の空間放射線量は、0.163μSv/hでした。ちなみに、行政長は大統領の任命制だそうです。

●トロフィネンコ行政長とのインタヴュー

佐藤和良 福島の実情、16万人避難の現実、自治体議員グループの福島原発震災情報連絡センターの紹介、援護法制定に向けて学びたいことなど、訪問の趣旨を説明。一つは、放射線とどう闘ってきたのか。もう一つは、ナロージチの放射能汚染は改善されたのか。

木村真三(独協医科大准教授) 森ゆうこさん(前文部科学副大臣)の時にも住民の1人としてお話ただいたが、今日は福島原発事故の被災者自身ですので現実をお話ししていただきたい。

行政長 原発事故は日本でもウクライナでも悲惨、住民にとって不幸なことだ。汚染地域の人のために法律を制定されるということだが、住民、土地が被害を受けたことが大前提になっている。勿論、人命が地球上で一番重要。大事なことは、住民居住地の汚染度。土壌の調査を精密に行い、住める場所かどうかを決めることが必要。
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住むのに適さないのであれば 住居を提供することが必要。400世帯が移住の権利を持っているが国が提供できない。もし住める程度であれば、暮らしていく条件を整える必要がある。まず、汚染されていない食品を確保するということだ。ナロージチ地区に、1992年まで非汚染食品の提供が行われた。それによって内部被曝検査では事故直後より下がったという結果が出ている。

汚染されていて、農業に適しない土地については日本の協力で実験が行われてきた。ナタネの栽培だ。直接食べるのでなく、菜種の油をバイオ燃料にする、この可能性が出てきている。加工食品であれば低汚染地で可能だ。なたね栽培は、セシウムを吸収する性質があり汚染農地を改善していく効果が出ている。

汚染度の低いところは、人が住んでいけるという判断のつくところは除染、舗装道路など。農地は化学肥料を散布し汚染物質の吸収を下げるとか。ナロージチ地区内の住居の屋根、柵など、汚染されたものを廃棄物処理場で処分し、新しいものを作ってきた。
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この住民の子どもの健康は、1年1回は非汚染地区で保養する。病気の場合はサナトリウムで保養する。住民検診はキエフ放射線研究所のステパーノフ教授の検診が行われてきた。

この地域は冬場の寒さが厳しいため、森が多く薪を使う。樹木の汚染に対し、事故以前ガスが引かれていなかった地区にもガス管を敷設した。ほとんどガスが来ている。井戸は、従来のものは汚染。深さ70〜110メートルの地下水のくり抜き井戸を設置して安全な地下水をとってきた。住民の健康リスクを減らすということだ。

皆さんに注意を促したいのは、汚染地域に出入りする車両の放射線測定をした方がいい。出口のチェックと除染が必要だ。車輪等に付着した放射能の汚染を拡散防ぐためにチェックした方がいい。

除染、非汚染食品の提供措置がとられてきたが汚染土地は残る。第2ゾーンで、定期的な土壌の汚染検査が行われてきた。26年たって線量は下がって来ていて、昨年も調査した。5年前の結果では住んでいくのに大きな危険はないという結果がでている。初期除染の成果や時間がたって放射線が減ってきた。いま第二から第三に格下げをしようとゾーンの見直しが出てきている。

現在、にんじん、玉ねぎ、ジャガイモは基準以下。森のきのこ、ベリー、野生動物の肉はまだかなり高い値が出ていて食糧に適さない。一方、水系の今年の調査では川・池の魚肉は基準値以下で食べても販売してもいい結果が出た。

被災者補償法、1991年ソ連が崩壊する直前、社会保障は国の対応の可能性に応じてやるべきであるが、ソ連の崩壊によりウクライナが対応せざるを得ず、今日、補償は十分にやられておらず被災者の中に不満が出ている。法律自身は悪い内容でないが、残念ながら法律を実施するだけの予算がないということで実施されていない。短く、すべての問題に触れた。あとは質問に答えたい。
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岩佐りょうこ(千代田区議) 移住できない世帯が400あり二万人くらいが移住したとのことであるが、移住の権利について、優先順位、こまかい規定があったのか、また、移住先の選択はどれくらい自由があったのか。

行政長 優先規定はあった。子どもいる家庭を優先。現在未移動の400世帯のうち、62世帯は子どもがいる。移住できないうちに子どもが生まれたとか。400世帯が移住できない事実であるが、5年前、10年前の住民意識も変わって汚染されていてもこの地域に生きていくんだと切り替わって来ている。

国の方から26のアパートがジトミール州内の移住先として指示された。現在15世帯が移住手続きを進めている。見通しがないというわけではないが、希望者を移住させるためには5,6年はかかる。

しかし、国の方から見ると、移住した人の社会保障も必要、こちらに住んでいて移住の権利で移住したが戻ってきた人への保障も必要。

移住先の選択は、農村地帯なら似たような農村に付加するような形で移住したが、その後だんだん国の予算がなくなり、都市のアパートに入るようになりイヤだと言う話しになっている。

松谷清(静岡市議) ICRP、ECRRの被ばくによる健康被害の認識のちがいについてどうみているか。

行政長 地区病院の方々がくわしいが、地区検診の際に内部被曝線量の測定しているが、地区内の子どもは100%異常なしの子ども1人もいない。 
社会保障のための税収増の論議はあるが、新しい財源を国として作るべき。予算不足を州政府に対して、何度も陳情しているが、補償を切り下げようとしているかどうかは私からは言えないが、少なくも彼らは今やめるとはいわない。財政が苦しいのは事実だ。

医薬品は、おりてくる予算は地区病院に必要な医薬品のうち、1カ月に必要なものうち3分の1にしかならない。法律では無料となっていても実際は、住民が有料で医療を受けざるを得ない。国全体として、チェルノブイリは次第に忘れられている。医薬品以外にも解決すべき問題がある。
移住後の廃屋の解体処分、その後に処分場に埋めるとか、そのあとに植林をすべきとか、うち捨てられている状態である。

松谷 財源の問題についてであるが、必要であるなら税金の増税とか、あるいは、金融危機の後に金融取引への課税、国際連帯税も議論されている。チェルノブイリ-福島の原発事故を考えると国際的な原子力災害対策費をIMFのような国際的な損害賠償協定による財源確保という国際的な機関の設置も必要になるのではないかと考えるが、いかがか。

行政長 大変興味深い。地区レベル、政府レベル、州レベル、影響力がない。市民団体「チェルノブイリの人質たち」は、ジトミール州で市民団体と連携している。日本や外務省の草の根プロジェクトなどの新しい円借款で保育所支援や村の診療所の改善も進んでいる。
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古市三久(福島県議) 事故前、事故後の人口構成、避難者と帰還者の構成、子どもの数などはどのような状態か。

行政長 現在、3万人だった人口は、1万1,500人、正式登録は9,675人で子どもたちは現在1,800人。移住した人が2万人程度、帰還者は1,500人くらい。与えられた住居に住んでいたが、子どもが大きくなって子どもに住居を渡して戻って来ている人たちもいる。90年代に多くの移住が行われていたが、公営住宅は3人家族40㎡、息子たちが 嫁さん、孫もできた、狭いので戻るというような。しかし、子どもの帰還はほとんどない。移住先でお金に困って売って戻ってきた人たちもいる。

古市 自動車のチェックはどのように、当時の除染のレベルは。

行政長 正確には覚えていない。今はやっていない。地区内の幹線道路に検問所をおき、チェルノブイリ方向から来る車については厳重な検問検査、洗剤による洗浄で拡散を防いでいた。地区内の農産物の持ち出しは禁止されていた時期もある。

現在でもキエフへつながる30キロゾーンの道路のあるポーリスキでは、現在も検問所がある。勝手に30キロ圏内に入っていかないようにと。かつて、チェルノブイリの方にいっていたことがあって、自分が車で行った時は車の車輪を特殊な洗浄液によって除染する装置があって車の車輪の放射線測定をやっていた。ちなみに豚インフルエンザの問題が起きた時、ベラルーシからの車の検疫をやった。

佐藤 子どもたちの保養は年間、1回ということだが実態はどのようなものか。 

行政長 保養の場所は、ウクライナ各地、ジトーミル州も黒海も、いろいろ。かつては年間60日、最近は24日。健康診断の結果、腸が悪ければ、それに特化したサナトリウムに国が保養させることになっている。これら以外にもスポンサーを見つけ、外国–フランスやロシアにも送っている。一般的に国が負担をする。

岩佐 移住できなかったら外で遊べない。ソフトのフォロー、映画館とか、ジムがあった方がいいとか、ストレスを解消する意味で、こういうものがあればよかったとか、あるか。

行政長 精神的なケアに関しては ウクライナの場合は残念ながらケアはなかった。マスコミ報道を通じて食べていけないものとか、食品が汚染されているとか、啓もう活動は行われたがストレスの方はなかった。日本ではカウンセラーが家庭訪問などして和らげるべきだ。

ディードフ(ジトーミル国立農業エコロジー大学) 事故の86年はソ連時代で共産党のイデオロギーでは精神分析、心理学は懐疑的でカウンセリング制度はなかった。今日はカウンセリングは改善されている。

松谷 昨日の非常事態省で住民保護課は、放射線被ばくした地域は「改善」しており、法律の「改正」が必要だ述べている。社会保障費の浮いた財源は地域の復興に使うべきと述べているが、この地区での産業の育成に関してお考えがあるのか。また、改正できないのは政治家が大衆迎合主義で改正を訴えない姿勢が大きな問題であると指摘されていた

行政長 事故前、産業は農業以外にパン工場、レンガ工場、縫製工場があった程度。縫製工場はいまでもあるが、レンガもパンも長らくなかった。パンは再開のメドがでている。木の製材所の廃棄物でペレット作る木製工場ができた。国の方で復興の方向に向かっているというが、地区に住み続けている人たちで子どもたちの学校、生活の必要に迫られて自分たちで工場も起こそうとしている。改正したいけれども、議員が動こうとしないというが、彼らはそう考えているかもしれないが、地元で生活を何とか成り立たせるためにもやっている。

ディードフ 本来、第2ゾーンは人が住めない、産業を興してはならない地域だ。

行政長 例えば 幼稚園の園舎の改装時、第2ゾーンだと国からは予算は付かない。100人定員に135人も希望ある。日本の支援を受けて子どもたちがいま通っている。国の方針とは別に住民生活の改善に努力している。

ディードフ 付け加えると、この汚染地域の農村地帯というのは 非汚染地帯の農村部に比べると保守的だ。ウクライナの非汚染地区の農業も悲惨な状態にある。ここはそういうわずかな補償もあるが農業は苦しい。わずかな保証ではあるが第3ゾーンになるとなくなるとわけで、すがる気持ちは当然である。見方や考え方の違いである。

佐藤 国に対して何を求めているか、自治体の長としていいたいことは。

行政長 国に求めたいことはいろいろあるが、一番簡単なことだ。赴任して2年たつが非常事態省は誰1人来ない。非常事態省のゴトフシフ氏の時は、被災程度が大きかったこともあるが、毎月来て情報収集してきた。我々からも、州議会や内閣に絶え間なく陳情をしているがはかばかしくない。

最後に、私個人としても住民に変わって日本のご支援に感謝申し上げたい。日本との協力を続けていて、なたね栽培も州の要請で予算を出すという話になって来、JAICA申請している。特に福島の事故の悲劇が起きてしまったが、皆さんの問題の解決に努めていきたい。
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第5回は、ナロージチ地区の続編、ナロージチ地区バザール付属放射能測定所「国立動物検疫センター」の紹介と、汚染地域での農地除染地ースターレシャルノ村(第2ゾーン・廃村)の調査報告です。
by kazu1206k | 2012-06-01 23:48 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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