ここが問題!「新安全基準」院内集会・政府交渉報告
2013年 01月 27日
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みなさまへ
昨日、参議院議員会館講堂にて、原発「新安全基準」をめぐり院内集会と政府交渉が行われました。会場は150名以上の方で埋まりました。みなさんありがとうございました。井野満博さん、後藤政志さん、田中三彦さんはじめ、科学者技術者のみなさん、青木秀樹さん、河合弘之さん、海渡雄一さん他弁護士のみなさん、福島みずほ議員、はたともこ議員、三宅雪子前議員にもご参加いただきました。
政府交渉で対応したのは、原子力規制庁技術基盤課課長補佐田口達也氏他1名で、主に田口氏が対応しました。
新安全基準の骨子案が昨日提示され、その中身について、井野さん、後藤さん、田中さん、青木さんを交え、中身に突っ込んで問題点を指摘したのですが、やりとりに入るとあいまいな回答となり、最後は、もうすぐパブコメが始まるのでそこに書いて欲しいを繰り替えしていました。
市民側は、検討が早すぎてついていけない、一旦検討を止めて、市民向けの説明会を開いて欲しい、今日参加している科学者技術者を含めて、原子力業界から独立した専門家のヒアリングを行って欲しい、それをパブコメの前に実施して欲しい、といった要求が出ました。これについては規制庁側で検討することを約束しました。規制庁側に、批判的な専門家や福島事故の被災者や原発立地地域住民を含む一般市民からの意見を聞く気が本当にあるのか、疑問を抱かせる交渉となりました。
交渉の場でも、事前の院内集会の場でも、安全基準について、格納容器や圧力容器の設計に問題があるにも関わらず、そこには手を付けずにいること、シビアアクシデントについて移動式の簡易的な装置の設置だけで再稼働を許そうとしていること、火災や航空機衝突、外部電源確保に対する対策が不十分であるなど、根本的な問題点があることを専門家のみなさんが、わかりやすく解説し、参加者やメディア関係者の間で共有できたことは非常に有益でした。批判的な専門家のヒアリングを実現させることを要求しながら、難しいと敬遠せずに、パブコメに各地から多くの疑問を集中していこうと確認しました。その第一歩として意味深い会合となりました。2月1日あたりから始まるパブコメへの具体的な対応については、追ってお知らせしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
以下に、当日提出した要請書を付けます。
阪上 武
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2013年1月23日
原子力規制委員会
原子力規制庁御中
原発「新安全基準」の検討に関する要請書
原子力規制を監視する市民の会
◆原子力関係者のみで急ピッチで進められる新安全基準策定
原子力規制委員会は、「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」等において、原発「新安全基準」の策定作業を急いで行っています。
「新安全基準」は、原発再稼働の前提となる基準であり、住民や一般市民の命や生活に関わる非常に重要なものです。にもかかわらず、利益相反が問題となっている学者や原子力関係者の非常に限られた数人の間だけで議論され、しかも議論が煮えきらないうちに議事を次々と進め、結論を急いでいるのが実状です。今年7月に期限を定め、1月中に骨子をまとめるという強行スケジュールです。骨子を急ぐのは、電力会社が改造工事にとりかかれるようにする措置ともいわれています。現に、東電は柏崎刈羽原発において、フィルタ付ベントの工事を進めています。
◆利益相反メンバーが電力会社の利益を代弁・電力会社のみのヒアリング
検討チームの外部有識者は6名中4名が、利益相反が問題となっている人物です。しかもそうした人物が、電力会社に有利な発言を繰り返しています。批判的な専門家は排除されており、住民や福島原発の被災者からのヒアリングもありません。一方で、1月の骨子策定に際し、電力会社からのヒアリングだけは実施しました。電力会社は、実施を検討しているが新基準に適合しているのか否かを問い、原子力規制庁はそれに答え、実質的な事前審査の場となりました。問題が配られる前に、答え合わせをしてあげるというサービスぶりです。このような検討のやり方は直ちに改めるべきです。
◆福島原発事故の検証はおきざり
福島原発事故を踏まえての基準づくりですから、福島原発事故の検証が不可欠ですが、これができていません。事故は、津波ばかりでなく、地震による影響もありましたが、十分に解明されていません。また、どのくらいの溶融燃料が、どこから、どのようにして圧力容器の外に出たのかも不明です。さらに、格納容器が破損したことは間違いありませんが、どの場所で、どのようにして、どの程度破損したのか、全く明らかになっていません。これらの解明なしにシビアアクシデント対策など意味をもたないでしょう。場合によっては、格納容器の設計変更が迫られます。新安全基準の検討の前に、福島原発事故の実態を明らかにするこ
とを優先すべきです。
◆シビアアクシデントに設計で対応しなくてよいのか
新安全基準検討チームでは、従来の安全設計審査指針を法制化した設計基準は原則変えずにそのままとし、シビアアクシデント基準を追加する方針で検討しています。基準を分けることにより、シビアアクシデント対策として、移動式の電源車や移動式の注水設備など、主に可搬設備による対応でも再稼働を許すものとなっています。代替の注水設備などの恒久施設については、「信頼性を向上させるための施設」として、将来的に設置すればよいという扱いで、電力会社に都合がいいものになっています。
しかし、可搬設備について、例えば移動式の注水設備は、つなぐのに10時間もかかり、進展の早い事故には対応できないと電力会社からのヒアリングの場で中部電力が吐露しています。地震により、構内の道路が使えなかったり、線量が高くて作業ができなかったりといったおそれもあります。また、シビアアクシデントを設計に取り込むのではなく、別立てにして、可搬施設による応急的な対応を許すというやり方は、最新の知見により設計基準を作成し、それを既存の炉に適用するというバックフィットの考え方にも反します。
特定安全施設についても、航空機衝突により本体施設が壊滅すれば意味を持ちません。地震や津波への対応は目的から外されており、どれほど役に立つのか不明です。
◆設計基準も問題噴出
また設計基準の部分についても、問題が噴出しています。火災防護対策の不備や、平成2年以前の炉に対する多重性の不備を容認する「みなし規定」撤廃については、新安全基準の策定をまたず、稼働中の大飯3・4号機を含め、今すぐ調査し、対処すべきでしょう。外部電源の信頼性を高めるために、送電設備や変電所の耐震性についても確認すべきでしょう。
◆基準の縦割り・別々に進む議論
現在、新安全基準検討チームで検討されているのは、安全設計審査指針の基準化ですが、安全評価指針、耐震安全設計審査指針や重要度分類指針、立地審査指針など、他の指針類との整合性や基準化との関係も問題となります。別の検討チームで検討されている耐震設計審査指針の基準化との整合性について、検討がまだです。安全評価指針の基準化については、同時並行で検討が必要だと思われますが、これもまだです。立地審査指針における重大事故や仮想事故の定義を変えるのであればなおさらです。また立地審査指針にある集団線量の考え方を、放射能の総排出量に置き換えるという方針についても強引です。立地審査指針も、要求を具体化した上で基準化が求められています。こうした検討なしに、新安全基準の検討を進めることはできません。
こうした状況から、下記について要請したします。
要 請 事 項
1.検討の進め方が拙速です。一旦検討を止め、検討状況や論点について説明の場をもち、時間をかけて広く専門家および国民の意見を聞く機会を設けてください。
2.利益相反が問題となっている専門家を外部有識者から外してください。検討チームのほぼ全員を原子力関係者と利益相反が問題となる専門家で占めているという状況は問題があることから、構成メンバーを見直してください。
3.新安全基準の検討の前提となる福島原発事故の検証が不十分であることから、基準の策定よりも、地震による影響、溶融燃料の状況、格納容器破損の状況などを把握し、事故の全容を解明することを優先してください。その上で、格納容器そのものの設計変更の必要性についても検討してください。
4.従来の設計事象だけでなく、シビアアクシデントについても、設計事象に含め、設計基準として対処してください。可搬施設は、接続に時間がかかる、地盤の変形により移動ができなくなる可能性がある、地震や高線量下で作業が困難となる可能性がある等の問題があることから、代替設備については恒久施設を必須とし、更に信頼性を向上させるために可搬施設を要求してください。
5.特定安全施設については、耐震性が本体施設と同等では意味がありませんし、航空機衝突により本体施設が壊滅すれば意味を持ちません。地震・津波時や航空機衝突時に果たして役に立つのか、特定安全施設の限界を明確に示してください。
6.福島原発事故レベルの事故だけではなく、それを超える事故についても想定してください。シビアアクシデントの六大事故について、全電源喪失下での冷却剤喪失事故など、同時に複数の事故が進行する可能性についても考慮してください。
7.火災対策について、可燃性ケーブルの使用状況を確認し、使用の疑いがあれば直ちに運転を止めさせてください。
8.多重性について、平成2年以前の炉に対して多重性の不備を容認する例外規定を外し、稼働中の大飯3・4号機については、直ちに対処させてください。
9.外部電源の信頼性確保のため、変電所や送電線設備の耐震クラスを引き上げ、変電所の耐震性や送電線鉄塔の地盤変形による倒壊の可能性についても確認してください。
10.現行の指針の原則となっている単一故障の想定では不十分です。共通要因故障の想定を原則に対策をとらせてください。
11.立地審査指針について、具体化した上で法制化を検討してください。集団被ばく線量を放出放射能の総量で置き換えるようなことはやめてください。安全設計審査指針の検討は、安全評価指針の検討と合わせて行ってください。