地検は強制捜査・起訴を!上申書と署名提出
2013年 02月 22日
東京・霞が関の東京地検庁舎前には約800人を超える告訴人らが集まり「地検は起訴せよ」「東電は自首せよ」と記したカードを掲げ検察へのアピールを行いました。
●以下に、提出した上申書を掲載します。
平成25(2013)年2月22日
福島地方検察庁
検事正 堺 徹 殿
告訴・告発人代理人
弁護士 河合 弘之
弁護士 保田 行雄
弁護士 海渡 雄一
第1 上申の趣旨
告訴・告発人らは,本上申書において,本件告訴・告発事件の捜査について,次の諸点をふまえた捜査を強く求め,事案の真相解明のため,捜索押収や罪証隠滅のおそれのある被告訴人・被告発人(以下「被告訴人ら」という)の身柄の確保など,必要な強制捜査などを実施されるよう要望する。
第2 上申の理由
1 捜査機関は福島原発事故の深刻な被害に向き合い,必要とされるすべての捜査を遂げるべきである
2011年3月11日,震災と原発事故が同時に福島を襲った。警告されていた原発震災の発生である。福島で起きた原発事故災害はかつてない深刻な公害被害である。被害者は住居と生業を奪われただけでなく,故郷そのもの奪われ,有機的な地域社会総体が破壊されたままとなっている。
浪江町の沿岸部では倒れた家屋の下や津波の被害者で生きていたかもしれない被災者を現場に残したまま,住民は避難しなければならなかった。救助が来ないまま衰弱死した遺体も発見されている(朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠2』227-235ページ)。居住と労働の場がなくなり,避難先で多くの災害弱者がなくなっている。避難地域での病死や自死などの災害関連死の多発こそが,その災害の過酷さを示している。また,福島県には東京電力に対する怒りが渦巻いている。
検察庁は,全国から寄せられた切実な告訴を受け止め,福島の過酷な現実に向き合い,二度とこのような悲劇を繰り返さないという決意のもとに必要とされるすべての捜査を遂げるべきである。
2 実況見分調書の作成
本件の事案の真相を明らかにするためには,現場の徹底的な調査と検証が必要である。捜査当局としてある程度の現場確認はされていると聞いているが,正規の実況見分もしくは検証を実施し,実況見分調書もしくは検証調書を作成するべきである。
なお,最近になって,東京電力側が国会の事故調査委員会にウソを述べて1号機のICの調査を妨害(中は真っ暗とのウソにより)したことが判明した(甲30 2013年2月7日「東京電力の虚偽説明による事故調査妨害」に関する記者会見資料)。このような時こそ検察の強制力を用いて検証すべきである。
3 原発の耐震性,耐津波性について検討したすべての会議とその内容の稟議手続の精査
東京電力関係の被告訴人らは,政府事故調や国会事故調における陳述内容や伝えられる報道などをみると,会社内における取締役会などの公式の会議体で,福島第一原発についての耐震性や耐津波性について討議された場がほとんどないことなどを根拠に,被告訴人ら個々人の刑事責任を否認しているものと推察される。
しかし,捜査機関はこのような形式的な論拠にもとづく被告訴人らの責任逃れを許してはならない。個々の被告訴人らの関与を裏付けるためには,社内の非公式の会議を含めて原発の耐震性と耐津波性を検討したあらゆる会議体とその会合実施状況を調べ上げ,このような会合における検討内容や検討に当たって使用した資料を確認し,組織的な稟議手続を通じて個々の被告訴人らが,このような会議内容を目にすることができた可能性をしらみつぶしに調べ上げるべきである(甲31 2012年12月13日放送NHK「クローズアップ現代『東京電力 瀬戸際の内部改革』」ウェブサイト4頁)。
4 株主総会の質問に対する回答作成を検討した会議とその内容の稟議手続の精査
また,株主総会においては,株主からより具体的な原発の耐震性や耐津波性に関する質問がなされている。これらの質問の回答は東京電力が会社として公式にまとめたものであり,回答の作成手続に多くの被告訴人らが関与している。株主総会における質問対応のために作成された資料も,すべてを明らかにさせ,このような会合における検討内容や資料が,組織的な稟議手続を通じて個々の被告訴人らが質問と回答内容目にすることができた可能性をしらみつぶしに調べ上げるべきである。
5 反原発市民団体からの申し入れに対する回答作成を検討した会議とその内容の稟議手続の精査
福島,柏崎における反原発市民団体はしばしば,福島第一,第二,柏崎刈羽原発の耐震性,耐津波性の不備を指摘する申し入れを繰り返していた。(甲32-1 脱原発福島ネットワーク『アサツユ』2007年9月10日)これに対して,東京電力は,内容は全く不十分であったが,公式に回答を行っていた。
とりわけ注目されるのは,スマトラ沖地震を受けた活動である。
2004年スマトラ島沖地震は,2004年12月26日,インドネシア西部時間07時58分53秒(UTC00時58分)にインドネシア西部,スマトラ島北西沖のインド洋で発生した。マグニチュードは9.1とされている。
たとえば,告訴人である佐藤和良が中心となって活動している「脱原発福島ネットワーク」は,この大地震と津波を受けて,2005年1月10日に東京電力勝俣恒久社長(当時)に対して,「原発の地震津波対策に関する公開質問書」(甲32-2)を提出した。
この公開質問書では毎日新聞の報道を引用し,この津波によってインド南部のカルパカムにある原発が大津波に襲われたことを指摘しつつ,津波襲来時の安全確保策がとられているかどうかを具体的に質問している。
2005年2月7日に東京電力勝俣恒久社長(当時)に対して提出された「地震津波対策の再検討を求める要請書」(甲32-3)では,「福島原発での地震津波対策を抜本的に再検討し10機全て耐震補強工事をすること」を求めている(甲32-4 脱原発福島ネットワーク『アサツユ』2005年2月10日)。
さらに,2005年4月4日には,他の原発批判グループと共同で,「配管減肉指針及び耐震設計データの公表を求める申し入れ書」(甲32-5)を東京電力勝俣恒久社長(当時)に対して提出している。ここでも,「大地震・津波は,冷却材喪失事故につながる重大事案です。」と指摘し,「耐震設計を見直しデータを全面開示するとともに,耐震・冷却水取水口補強工事を行うこと」を求めている(甲32-6 脱原発福島ネットワーク『アサツユ』2005年4月10日)。
この2005年4月4日には東電福島第一原発サービスホールで,申し入れ書を提出した団体と東京電力の間で交渉が行われ,具体的に「チリ津波対応や津波数値シミュレーションを示されたい」「押し波で砂が入ればプールが埋まるのではないか」と,住民側から指摘し,東京電力側も不十分ながら,考え方を説明している。この時点で,津波が原発の安全上深刻な問題点を引きおこしうることは住民団体から明確に指摘されていたと言える。
2005年5月15日には,これに引き続く住民団体と東電との交渉が,東電福島第一原発「原子力広報センター」で行われた。この時には,津波想定概要データ,実際に想定したチリ地震津波評価数値,津波の評価数値と数値シミュレーションなどについて,文書を配布した上で回答した(甲32-7 脱原発福島ネットワーク『アサツユ』2005年6月10日)。
このような申し入れに対する回答の作成作業は,担当者が作成した上で,役員の稟議を経て住民団体に説明されたものと考えられ,このようなやりとりの際に東京電力の役員ら被告訴人らは社内での公表されなかった検討結果も含めて説明を受け,認識していた可能性が高い。
上記のような,会社としての回答や交付する資料を検討する会合における検討内容や検討のための資料が,組織的な稟議手続を通じてそれぞれの被告訴人らが目にすることができた可能性をしらみつぶしに調べ上げるべきである。
6 スマトラ島沖地震時のインドにおける津波による電源喪失について
2012年5月15日付の共同通信配信記事によると2006年に経済産業省原子力安全・保安院と東京電力が2006年,想定外の津波が原発を襲った場合のトラブルに関する勉強会で,東電福島第1原発が津波に襲われれば,電源喪失する恐れがあるとの認識を共有していたことが判明したと報じている。以下に配信記事を掲載する。
「「津波で電源喪失」認識 海外の実例知りつつ放置 06年に保安院と東電 福島第1原発」
経済産業省原子力安全・保安院と東京電力が2006年,想定外の津波が原発を襲った場合のトラブルに関する勉強会で,東電福島第1原発が津波に襲われれば,電源喪失する恐れがあるとの認識を共有していたことが15日,分かった。
東電は08年,第1原発に高さ10メートルを超える津波が来る可能性があると試算していたが,昨年3月の東日本大震災の直前まで保安院に報告していなかった。
保安院によると,勉強会は04年のスマトラ沖地震で海外の原発に津波被害が出たことを受け,保安院の呼び掛けで電力数社が参加して設置。06年8月に「福島第1原発に14メートルの津波が襲った場合,タービン建屋に海水が入り,電源設備が機能喪失する可能性がある」との文書をまとめていた。
保安院は,こうした情報が電力会社の社内で共有されているかは確認していなかったという。
この問題をめぐり,東電の勝俣恒久会長は(5月-引用者注)14日,国会が設置した福島第1原発事故調査委員会で,保安院がまとめた文書が社内の伝達ミスで経営陣に伝わっていなかったと証言。「(文書が上層部に)届いていれば,対応が図れたかもしれない」と述べた。
枝野幸男経産相は15日の閣議後の記者会見で「上層部に伝わっている,伝わっていないは問題ではない。電力会社の代表が参加し,そこで共有された認識は,それぞれの事業者内部で共有されるのが前提だ」と批判した。
東電の08年の試算では,第1原発の1~6号機で海抜8・4~10・2メートルの津波を想定。敷地の一部では最高で15・7メートルまで津波が駆け上がるとの結果も出ていた。震災の津波では実際に14~15メートルまで海水が到達した。(宮崎雄一郎)」
海外の実例知りつつ放置 インド原発で津波被害
2004年のスマトラ沖地震でインド南部にあるマドラス原発では,津波でポンプ室が浸水するトラブルが起きていた。冷却用の取水ポンプが津波で使用不能となった東京電力福島第1原発事故の約6年半前。国や東電は海外の実例を知りながら,有効な対策を取らず放置した。
津波に襲われたマドラス原発は22万キロワットの原発2基のうち1基が稼働中だった。警報で海面の異常に気付いた担当者が手動で原子炉を緊急停止した。冷却水用の取水トンネルから海水が押し寄せ,ポンプ室が冠水。敷地は海面から約6メートルの高さ,主要施設はさらに20メートル以上高い位置にあった。
東日本大震災で大津波に襲われた第1原発は,海沿いに置かれたポンプ類や地下の重要機器が浸水。原子炉冷却機能を喪失し,事故を招いた。東電関係者は「社内では津波に弱いとの共通認識だったが,まさか大津波が襲うとは思っていなかった」と話している。(鎮目宰司)(共同通信)」
この記事からは,2006年の保安院と電力各社による津波の検討がスマトラ島沖地震によるインドの原発の被災という具体的な災害が出発点となって開始されたこと,福島第一原発が津波に弱いことは東京電力における社内の共通認識であったことが明確となっている。
7 甲状腺ガン・甲状腺異常と本件事故の因果関係の専門的検討
本件事故に基づく被害として,告訴人らは,既に明確に発生している被害として,一般人の被曝限度を超えた放射線被曝,災害関連死,PTSDなどの存在を指摘してきたが(甲33 診断書),福島県内で既に3例の甲状腺ガンが発生したことが明らかとなった(甲34 2013年2月13日 第10回福島県健康管理調査資料抜粋,甲35 2013年2月13日日本経済新聞)。
チェルノブイリ事故後に甲状腺ガンの発生が飛躍的に増加したのは4年後以降であるが,それ以前に発症がなかったことは確認されていない(甲36 2013年2月14日毎日新聞 西尾正道院長)。本件事故直後に,放射性ヨウ素による住民の被曝の実態が徐々に明らかになってきている(甲37 2013年1月12日放送「NHKスペシャル 空白の初期被ばく 消えたヨウ素131を追う」反訳書)
小児甲状腺ガンの自然発症率は約100万人に一人とされており,事故後二年間経過で約10万人を検査して3例のガンが確認され,さらに多数のガンの疑いが発生していることは疫学的にも明らかな異常値であるといえよう。このような甲状腺ガンの発生は,少なくとも事故との因果関係があることが強く疑われる。少なくとも,捜査機関はこのような甲状腺ガンの発生について因果関係の有無について専門的な鑑定を,複数の見解の異なる医療機関に委託して慎重に検討しなければならない。この点の因果関係の有無を明確にしない限り,公訴提起についての判断はできないはずである。
8 結論
告訴・告発人らは,本件告訴・告発事件の捜査について,以上のような諸点をふまえた捜査を遂げることを強く求める。上記のとりわけ3,4,5項の記載の捜査については,捜索押収や罪証隠滅のおそれのある被告訴人らの身柄の確保など,強制捜査を行うことなしに事案の真相を解明することはできないものと思料する。必要とされる強制捜査などを実施されるように強く要望する。
ここ2,3年,検察不祥事が続き,国民の検察に対する信頼,支持は揺らいでいる。今こそ,「被害者とともに泣き,巨悪を撃つ」という検察の本旨にたちかえり,国民の信頼,支持を取り戻すべきである。日本史上最大(戦争を除く)の禍(人災),国家の滅亡を招きかねなかった厄災に対し,なす所なく終わるのであれば,国民は検察に対し深く失望するであろう。
以上