エネルギーミックスは原発ゼロ社会の実現が前提
2015年 04月 29日
声明では「原子力発電の根本的な問題点を直視し意思決定プロセス見直すべきである」こと、「新規制基準では原子力発電の安全性の確保はできず、発電コストも高い」こと、「原子力発電の維持には現実性も国民的合意もない」こと、「「ベースロード電源」という発想は電力システム改革と相反する」ことが指摘されている。以下に掲載。
声明:エネルギーミックスは原発ゼロ社会の実現を前提に策定すべき
2015年 4月 28日
原子力市民委員会
座長 吉岡 斉
座長代理 大島堅一 島薗 進 満田夏花
委員 荒木田岳 井野博満 大沼淳一
海渡雄一 後藤政志 筒井哲郎
伴 英幸 武藤類子
総合資源エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通し小委員会で審議されている 「エネルギーミックス」は、本日4月28日の審議で経産省案が示されるはずであるが、2030年に原子力発電の割合を2割程度とする経産省案がすでに関係閣僚の会議で示されたとされる。しかし、エネルギーミックスは原発ゼロ社会の実現を前提に策定すべきであり、原子力発電の維持を前提とするこの経産省案には多くの問題点がある。
第一に、原子力発電の根本的な問題点を直視し、意思決定プロセスを見直すべきで ある。
福島第一原発事故の教訓を大前提とした上で国際的な気候変動問題への責任を果たし、中長期的に持続可能な社会を実現するというビジョンが欠落している。そのため、非現実的な原子力維持目標に固執することになり、かえって、分散型の再生可能エネ ルギーの導入や省エネルギーを軽視し、本格的な気候変動対策を停滞させる可能性が高い。これでは、これまでのエネルギー政策の失敗の繰り返しである。
最近では、再生可能エネルギーの系統接続の問題が発生し、電力会社毎に原子力発電所をフル稼働する想定での太陽光発電の接続可能量が算定され、再生可能エネルギーの系統接続が制限されるという問題がおきている。つまり、原子力発電への依存が再生可能エネルギーの導入を現実に阻害するようになっている。
原子力発電の現実は厳しい。2014年度の設備利用率はゼロであり、原子力発電所の再稼働も困難な状況に陥っている。新規制基準や規制行政における多くの欠陥、原子力損害賠償制度の不備、老朽化した原子力発電所の40年を超えた運転延長問題、解決困難な放射性廃棄物の処理・処分の問題など、さまざまな点で原子力発電は困難に直 面している。政府は、これらの点を直視しなければならない。
非現実的な「エネルギーミックス」がつくられようとしているのは、エネルギー政策形成において民主的な意思決定プロセスが欠けているからである。経済産業省の審議会を中心とした検討プロセスでは、メンバ―構成をはじめとして、原子力発電を推進してきた産業界や電力会社の意向が色濃く反映されており、原子力発電の根本的な問題点が忘れられた審議になっている。原子力政策は、意思決定プロセスのあり方から見直す必要があるだろう。
第二に、新規制基準では原子力発電の安全性の確保はできず、発電コストも高い。
原子力市民委員会が「脱原子力政策大綱」で述べた新規制基準の不十分さや規制行政の問題点は今もなお未解決のままである。2015年4月に関西電力高浜原子力発電所 3・4号機の運転差し止め仮処分決定でも指摘されており、政府が原子力発電を稼働させる大前提としている「安全性の確保」は決して実現されていない。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じた福島原発事故の損害賠償や、除染・中間貯蔵施設建設等のために10兆円を超える資金が東京電力支援のために使われている。 総合資源エネルギー調査会の発電コスト検討ワーキンググループは、原子力発電の発電コストを評価する際、原子力発電の発電コストを低く見積もろうとしているが、事故費用を含めた社会的費用や、追加的安全対策費用を適切に含めれば、原子力の発電コストはさらに高額になると考えられる。政府は、この点も踏まえなければならない。
第三に、原子力発電の維持には現実性も国民的合意もない。
原子力発電の発電量の割合を2割程度維持するという経産省案では、廃炉が決まった5基以外の原子炉43基全てを再稼働させ、建設中の原子炉(3基)を稼働させるとしている上に、原子力発電所の運転期間を原則40年から60年に延長しようとしているが、こうしたことには現実性も国民的合意もない。
一方で、原発稼働ゼロの状況において、節電や省エネルギーが進むとともに、太陽光発電を中心として、再生可能エネルギーが本格的に普及し始めている。国内の再生可能エネルギーへの投資額は2014年に世界第二位の約4兆円に達した。こうした再生可能エネルギーの発展にこそ、現実性があるというべきである。
第四に、「ベースロード電源」という発想は電力システム改革と相反する。
原子力発電や石炭火力などを「ベースロード電源」として位置づけその比率を6割程度維持する案が示されているが、これを基本に電源構成を確保するという考え方は時代遅れである。電力自由化や発送電分離が行われている欧州では、「ベースロード電源」という発想そのものがなくなっている。
日本では、電力システム改革の第一弾として電力広域的運営推進機関が2015年4月からスタートし、2016年からの電力の小売り全面自由化やその後の発送電分離等の改革が行われている一方で、原子力発電を維持するための仕組みが構築されようとしているが、これも電力システム改革と相反するものである。
エネルギー安全保障の観点からも、全てのウラン燃料を海外に依存するなど多くのリスクを抱える原子力発電は、決してエネルギー自給率に含めるべきではなく、海外からの化石燃料に発電の9割近くを依存し、膨大な化石燃料費用が海外に流出する状況を招いたのは、原子力発電という本質的に不安定な電源へ依存してきた結果だという反省を忘れている。
原子力市民委員会は、2013年12月の緊急声明において、「エネルギー基本計画」の策定に際して、国民的合意を得ながら原発ゼロ社会の実現を目指すよう求めてきた。 また、2014年4月には「脱原子力政策大綱」を公表して、福島原発事故の被害の全貌や「後始末」をめぐる問題、放射性廃棄物の処理・処分や原発再稼働を容認できない技術的根拠を指摘した上で、原発ゼロ社会を実現するための行程などを提言してきた。
2030年までの「エネルギーミックス」の決定に際しては、原子力市民委員会として 示した原子力発電の様々な問題点を踏まえ、早期に原発ゼロ社会を実現することを前提とした上で、国際的に責任のある温室効果ガスの削減目標を策定すべきである。
以上