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検察審査会の議決書1

 7月31日に公表された、東京第五検察審査会の、東京電力の旧経営陣、勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長に対する、業務上過失致死傷罪で「起訴すべきである」とする、7月17日付けの議決書を、3回にわけて掲載する。

平成27年東京第五検察審査会審査事件(起相)第1号
(①平成25年東京第五検察審査会審査事件(申立)第11号,②同第12号)
申立書記載罪名 業務上過失致死傷
検察官裁定罪名 業務上過失致死傷
議決年月日 平成27年7月17日

議決の要旨

審査申立人(①事件)
         武藤 類子 外2名
同 (②事件)
         佐々木 慶子 外5734名
両事件審査申立入ら代理人弁護士
           河 合 弘 之
     同     保 田 行 雄
     同     海 渡 雄 一
被疑者        勝 俣 恒 久
     同     武 藤   栄
     同     武 黒 一 郎
不起訴処分をした検察官
東京地方検察庁 検察官検事 佐 藤   淳
議決書の作成を補助した審査補助員
弁 護 士  山 内 久 光
 当検察審査会は,上記被疑者らに対する業務上過失致死傷被疑事件(東京地検平成26年検第22368号,同第22370号,同第22371号)につき,平成27年1月22日上記検察官がした再度の不起訴処分の当否に関し,検察審査会法第41条の2第1項により審査を行い,次のとおり議決する。

議決の趣旨
別紙犯罪事実につき,起訴すべきである。

議決の理由

第1 検察官の再度の不起訴処分の要旨
1 被疑事実の要旨
 被疑者らは,東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の関係者であるが,福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の運転停止又は設備改善等による安全対策を講じて,大規模地震に起因する巨大津波によって福島第一原発において炉心損傷等の重大事故が発生するのを未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,必要な安全対策を講じないまま漫然と福島第一原発の運転を継続した過失により東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)及びこれに伴う津波(以下「本件津波」という。)により,福島第一原発において炉心損傷等の重大事故を発生させ,水素ガス爆発等により一部の原子炉建屋・格納容器を損壊させ,福島第一原発から大量の放射性物質を排出させて,多数の住民を被ばくさせるとともに,現場作業員らに傷害を負わせ,さらに周辺病院から避難した入院患者らを死亡させた。
2 再度の不起訴処分(嫌疑不十分)の理由の要旨
 (1) 検察審査会の起訴相当議決(以下「議決」という。)は,原子力発電所の事業者の役員である被疑者らに,極めて高度の注意義務があるとし,自然現象の不確実性等を指摘して想定外の事態も起こり得ることを前提とした対策を検討しておくべきものであるとしているが,原子力発電所の安全対策においても,どこまでを想定するか,あるいは具体的に何を想定するかを定め,具体的な条件設定をした上でそれへの対策を講じる必要があることは否めない。原子力発電所の特性を踏まえて可能性の低い危険性をも取り上げるべきであるとしても,あるいは自然災害の予測困難性,不確実性を踏まえて安全寄りに考えるとしても,無制限であるわけにはいかず,可能性が著しく低いために条件設定の対象とならないものがあり得る。したがって,事前にどこまでの津波対策が原子力発電所の安全確保に必要と考えられていたのかを過失認定上問題にせざるを得ず,O.P.(小名浜港工事基準面)+10メートルの敷地(以下「10m盤」という。)を大きく超える津波による浸水を想定すべきであったのかを,その当時の知見を前提に検討する必要がある。
 つまり,本件過失の成否を判断するに当たっては,飽くまで福島第一原子力発電所の原子炉建屋において水素ガスが発生した事故(以下「本件事故」という。)後に事故から得られた知見や教訓を抜きにして,本件事故が発生する前の事情を前提として注意義務を課すことができるか否かを判断せざるを得ない。
(2) 予見可能性について(地震や津波に関する事前の知見と本件地震・津波)
 地震調査研究推進本部(以下「推本」という。)の地震調査委員会による「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「長期評価」という。)及びこれに基づく最大の試算結果や貞観地震に関する知見を含む当時の地震・津波の知見を踏まえても,今回の事故前の当時において,本件のような10m盤を大きく超える津波が発生し,これにより福島第一原発における主要機器が浸水する危険性を認識すべき状況にあったとは認め難い。
 議決は,「東京電力は,推本の予測について,容易に無視できないことを認識しつつ,何とか採用を回避したいという目論見があったといわざるを得ない。」と指摘しているものの,上記のとおり,事故前の当時の知見を前提とすると,そもそも推本の長期評価に基づいて対策を講じるべきであったと認めることはできない。
 加えて,東京電力は,最大の試算結果を把握した後,土木学会に対し,推本の長期評価に関する検討を委託しているところ,当該委託は,法令上の安全性が確保されていることを前提として,安全性の積み増し又はその信頼性の向上を図る目的でなされたものであったこと,その委託に平成24年3月23日という期限を定めるとともに,原子力発電所における「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。)の改訂を委託しており,これが改訂されればこれを踏まえた対策を講じる予定であったこと等からすれば,議決が指摘するように推本の長期評価の「採用を回避したいという目論見があった」とまで認めることは困難である。
(3) 結果回避可能性について(原子力発電所における津波対策)
 ア 最大の試算結果に対応した措置による結果回避可能性
 上記推本の長期評価に基づくO.P.+15.7mとの最大の試算結果に対応する措置としては,試算結果で津波が遡上することとされていた福島第一原発の敷地(以下「敷地」という。)南側に防潮堤を建設することが考えられる。
 これに対し,本件津波は,敷地東側の長さ約1.5キロメートルの海岸線から,全面的に敷地に越流したのであるから,仮に事前になされていた最大の試算結果に対応して越流する敷地南側に防潮堤を建設したとしても,本件津波は,防潮堤のない敷地東側の海岸線から越流することとなり,本件津波の襲来に際し,その浸水を阻止し,結果を回避できたとは認められない。
イ 浸水を前提とした措置による結果回避可能性その他
 本件津波により敷地が浸水したことを前提として,遡って事故を回避する措置を考えた場合には,議決が指摘する浸水を前提とした対策(蓄電池や分電盤を移設し,HPCI(高圧注水系)やSR弁にケーブルで接続すること,及び,小型発電機,可搬式コンプレッサ一等を高台に置くこと等の措置)を講じておくことが一応考えられる。
 しかしながら,事故前の当時においては,津波に関しては,詳細な指針等が定められていた地震動と異なり,独立した審査指針等はなく,地震の随伴事象として抽象的な基準が示されていたにすぎなかった。また,当時,原子力発電所の津波対策に関しては,一定の想定水位を定め,当該想定水位までの安全性を絶対に確保するという考え方(確定論)に基づいて,安全性が確認されており(事故前の津波評価に関する事実上の基準とされていた津波評価技術は,確定論に基づく考え方である。).確定論により得られた想定水位を超える確率を算出して,安全性評価の判断資料とするという津波の確率論的評価は,その手法に関する研究が進められていた段階であり,いまだその手法が確立された状況になかったことなどが認められる。これらの状況を背景として,敷地高を超える津波を想定する必要性や,その具体的対策として,本件結果を回避できるような浸水を前提とした対策を講じておく必要性が一般に認識されていたとは認められない。
 さらに,実際に本件のような過酷事故を経験する前には,浸水自体が避けるべき非常事態であることから,事故前の当時において,浸水を前提とした対策を取ることが,津波への確実かつ有効な対策として認識・実行され得たとは認め難い。
 加えて,仮に,事故前の当時,本件結果を回避できる浸水を前提とした措置を講じることとしても,HPCI(高圧注水系)等と蓄電池等を接続する等の工事を行う必要があるため,工事期間のほか,原子炉設置変更許可等の所要の手続を経る必要があることから,2年9か月以上を要したものと認められ,被疑者らが最大の試算結果を知った時期等に鑑みると,本件地震・津波の発生までに対策を了しておくことができたとは認め難い。
 なお,本件結果を回避できる措置としては,本件津波が越流した敷地東側に防潮堤を建設することも考えられるが,その措置を講じるには3年7か月以上を要したものと認められ,防潮堤についても,本件地震・津波の発生までに対策を了しておくことができたとは認め難い。
 議決が指摘する他の措置も検討したが,「長期間を要しない安全対策」については事故を避けることができたとは認め難く,「建屋の水密化」についても,津波の越流に伴う大きな漂流物が建屋に衝突し,水密化が維持されないことも想定され,事故を回避できたと認めることは困難である。運転停止については,震災前に10m盤を大きく超える津波の襲来を予測すべき知見があったとはいえないこと等も含め切迫した時期に津波が来る可能性を示す情報や知見もなかったことや法令上の安全性の確保を前提に原子力発電所が稼働していたことからすると,あらかじめ原子力発電所を停止するべきであったとは認められない。
(4) 結論
 以上のとおり,東京電力の役員らに刑罰を科すかどうかという刑法上の過失犯成否の観点からみた場合,本件事故について予見可能性,結果回避可能性及びこれらに基づく注意義務を認めることはできず,犯罪の嫌疑は不十分である。

第2 検察審査会の判断

1 当時の知見
(1) 業務上過失致死傷罪が成立するためには,被疑者ら各自について,業務上の注意義務に違反した事実が認められなければならない。注意義務に違反したといえるためには,当該結果に対する具体的な予見可能性に基づく予見義務,結果回避可能性に基づく結果回避義務が認められなければならない。
 被疑者らの具体的な予見可能性の有無を判断する前提となるのは,福島第一原発に関わる津波についての当時の知見である。以下では,福島第一原発に関わる津波についての当時の知見について見ていくこととする。
(2) 推本の長期評価
 ア 平成14年7月31日,推本の地震調査委員会により長期評価が公表された。これは,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでもMt(津波マグニチュード)8.2前後の津波地震が発生する可能性があるというものであった。ただし,長期評価は,その前文において,「今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去の地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。」と記載されていた。
 イ 当時,津波評価については,平成14年2月に土木学会の津波評価部会が公表した津波評価技術があり,各電力会社はこの津波評価技術に基づいて津波対策を行っていた。これは,自然現象である津波の評価は,当時の地震学を前提にこれから起こる可能性があると考えられる地震を考慮した余裕のあるものが必要であるとの考え方が反映されたものではあったが,これから起こる可能性があると考えられる地震については,過去に発生した領域で繰り返し同じタイプの津波地震が発生するという考え方によっており,過去に津波地震の発生していない領域については考慮されていなかった。これによれば,福島県沖は,長期評価が指摘するような津波地震が過去に発生したというデータが必ずしもなかったことから,津波評価においては考慮されないことになる。
 これに対し,長期評価は,過去に津波地震が発生したとされるデータが必ずしも存在していない領域においても津波地震が発生する可能性があるとしており,公表された当時,その取扱いについて意見の分かれるところがあった。前記のとおり長期評価自体も,その前文では,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界がある」,「防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。」と記載されており,その後,平成15年3月24日には,推本の地震調査委員会自体が,長期評価についての信頼度をA(高い),B(中程度),C(やや低い),D(低い)の4段階のランクのうちCと公表していた。
 もっとも,土木学会の津波評価部会では,推本の長期評価の取扱いについて,津波ハザード解析の研究の中で検討していたところ,平成16年5月に実施した地震学者への重みづけアンケート調査では,地震学者5名の回答結果の平均が,三陸沖から房総沖にかけての海溝寄りの津波地震の発生に関し,推本の長期評価に基づく考え方が約0.6,津波評価技術に基づく考え方が約0.4というように,推本の長期評価に対する評価の方が上回っていた。
(3) 耐震バックチェック(原子力安全・保安院が電力事業者に対し,既設の原子力発電所について新指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告を求めること,以下「耐震バックチェック」という。)における長期評価の取扱い
 ア 平成18年9月19日,原子力安全委員会(以下「安全委員会」という。)が原子力発電所の耐震基準に閲し,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「旧指針」という。)を改定した(以下,改訂後の指針を「新指針」という。)。そこでは,「地震随伴事象に対する考慮」として,津波について,「施設の供周期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」を「十分に考慮、したうえで設計されなければならない」とされた。
 原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)は,それを受け,各電力事業者に対し,既設の原子力発電所について新指針に照らした耐震安全性の評価を実施して報告を求める,耐震バックチェックを指示した。そして,耐震バックチェックに当たっての基本的な考え方となるバックチェックルールでは,津波の評価につき,既往津波の発生状況のみならず最新の知見等を考慮して実施することとされていた。
イ 東京電力では,それまでは津波評価技術の考え方に依拠し,推本の長期評価の取扱いについては,土木学会の津波ハザード解析の研究を待つという対応であったところ,新指針の策定に伴う耐震バックチェックに当たっては,推本の長期評価の取扱いについて改めて問題とせざるを得ない状況になった。
 関係者の供述によれば,東京電力の原子力設備管理部新潟県中越沖地震対策センター土木調査グループ(以下「土木調査グループ」という。)では,長期評価に基づいて試算すれば福島第一原発のその時点における想定津波の水位を大幅に上回る高さの津波が算出されることが高度に予想されていたこと,平成19年7月に新潟県中越沖地震が発生した後は,これにより柏崎刈羽原子力発電所(以下「相崎刈羽原発」という。)の運転を停止しており,それが東京電力の収支を悪化させていたこと,それに加えて,耐震バックチェックにおいて,推本の長期評価に基づく津波評価を行った結果,対策工事を実施すべきこととなった場合には,福島第一原発における津波に対する安全性を疑問視され,最悪の場合,福島第一原発の運転まで停止せざるを得ない事態に至り,そのことが東京電力の収支をさらに悪化させることが危倶されていたことがわかる。
ウ 東京電力は,耐震バックチェックを平成21年6月に終了させる予定でいたところ,平成19年11月ころ,土木調査グループにおいて,耐震バックチェックの最終報告における津波評価につき,推本の長期評価の取扱いに関する検討が開始され,以後,東電設計株式会社(以下「東電設計」という。)との間で津波水位の試算に関する打合せがなされた。そして,関係者の間では,少なくとも平成19年12月には,耐震バックチェックにおいて,長期評価を取り込む方針で進められることになった。
エ 平成19年11月19日,東電設計からは,推本の長期評価を用いた概略的な津波水位がO.P.+7.7メートル以上となる旨の試算結果が出された。
 平成20年2月16日に実施された東京電力の中越沖地震対応打合せ(以下「地震対応打合せ」という。)では,土木調査グループから被疑者ら3名にその旨が報告されるとともに,それに関する資料が配付された。
 その後,平成20年2月26日,A教授からは,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので,波源として考慮すべきである」旨の指摘を受け平成20年3月18日には,東電設計から,推本の長期評価を用い,明治三陸沖地震の津波の波源モデルを福島県沖梅溝沿いに設定した場合の津波水位の最大値が敷地南部でO.P.+15.7メートルとなる旨の試算結果が出された。これは,福島第一原発の当時の想定津波水位であるO.P.+,5.4メートル〜5.7メートルを大幅に超えるものであり,このような津波が発生すれば,福島第一原発のタービン建屋の設置された10m盤を大きく超えて浸水してしまうことは明らかなことであった。
オ 平成20年3月20日に実施された東京電力の地震対応打合せでは,耐震バックチェックの中間報告書の提出に伴うプレス発表に関して作成された想定問答集が報告され,津波評価に関して充実した記述が指示され,同月29日に実施された東京電力の地震対応打合せでは,耐震バックチェックの最終報告において推本の長期評価を考慮する旨が記載された修正済みの想定問答集が報告され,了承された。
(4) 推本の長期評価の取扱いに関する方針の変更
ア 平成20年6月10日,土木調査グルーフの担当者は,被疑者武藤栄(以下「被疑者武藤」という。)に対し,資料を示しながら,推本の長期評価を用いた,明治三陸沖地震の津波の波源モデルを福島県沖梅溝沿いに設定した場合の津波水位の最大値である,敷地南部O.P.+15.7メートルの試算結果を報告し,合わせて,原子炉建屋等を津波から守るために敷地上に防潮堤を設置する場合には,O.P.+10メートルの敷地上に約10メートルの防潮堤を設置する必要があること等を説明した。
イ 被疑者武藤は,いくつかの検討を指示したが,平成20年7月31日には,土木調査グループに対し,これまでの方針を変更し,耐震バックチェックにおいては推本の長期評価は取り入れず,津波評価技術に基づいて実施するよう指示した。そして,推本の長期評価については土木学会の検討に委ねることとし,その方針について津波評価部会の委員や保安院の理解を得ること等が指示され,平成20年10月には,それらの了解をおおむね得ることができた。
 その結果,耐震バックチェックの最終報告をする予定であった平成21年6月の期日は延期されることとなった。
 平成20年8月22日,東京電力の土木調査グループは,東電設計から,推本の長期評価を用い,房総沖地震の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定した場合の津波水位の試算結果が敷地南部でO.P.+13.6メートルとなる旨の結果を受領Lた。
ウ また,平成20年10月,東京電力の土木調査グループは,B教授から,貞観津波の数値シミュレーションに関する原稿を渡されたが,同年11月には,貞観津波についても,耐震バックチェックには取り入れず,土木学会の検討に委ねる方針となった。
 その後,東電設計からは,貞観津波の波源モデルを用いた津波水位の試算結果が,福島第一原発でO.P.十8.6メートル〜9.2メートルとなるとの結果を受領した。
エ 平成21年6月の東京電力の株主総会本部長手持資料には,福島地区の津波評価として,巨大津波に関する知見として,推本の長期評価と貞観津波について記載され,これに伴う津波を考慮すると敷地レベルまで達し,非常用海水ポンプは水没する旨が記された。
(5) 浸水の影響
ア 東京電力では,かつて平成3年10月30日,福島第一原発において海水の漏えい事故が発生し,タービン建屋の地下1階にある非常用ディーゼル発電機等が水没したという事故を経験し,平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震では,柏崎刈羽原発1号機の消火用配管の破裂による建屋内への浸水事故を経験していた。
イ 海外では,1999年(平成11年)12月のフランスのルブレイエ原子力発電所の浸水事故,2004年(平成16年)12月のスマトラ島沖地震の津波によるマドラス原子力発電所2号機の非常用海水ポンプが水没する事故が発生していた。
ウ スマトラ島沖地震の津波によるマドラス原子力発電所の事故や平成17年8月に発生した宮城県沖地震を受け,保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構は,平成18年1月以降,設計上の想定津波水位を超える津波が襲来した場合の原子力発電所の設備・機器等に与える影響等を把握すること等を目的として,内部溢水・外部溢水勉強会(以下「溢水勉強会」という。)を継続的に開催した。東京電力の土木調査グループの担当者らも溢水勉強会に参加した。
エ 平成18年5月11日に開催された第3回溢水勉強会では,福島第一原発5号機において敷地高を1メートル超える高さ(0.P.+14メートル)の津波が無制限に襲来した場合には,非常用電源設備や各種非常用冷却設備が水没して機能喪失し,全電源喪失に至る危険性があることが明らかとなった。
(6) 以上よりすれば,当時の知見として,推本の長期評価やそれに基づく想定津波水位の試算結果,貞観津波やそれに基づく想定津波水位の試算結果が重要であったといえる。ただし,これらはその信頼度等が必ずしも高いとはいえず,その取扱いについては意見が分かれていたことは否定できない。
 もっとも福島第一原発に10メートルの敷地高を超える津波がひとたび襲来した場合には電源喪失による重大事故が発生する可能性があることはその時すでに明らかになっていた。

*以下2回目に続く
検察審査会の議決書1_e0068696_10313881.png

by kazu1206k | 2015-08-01 23:53 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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