東電福島原発刑事裁判、第1回公判開く
2017年 07月 01日
小雨降る、東京地裁前には、早朝4時に福島を出発したバスはじめ、各地から馳せ参じた被害者、被災者の皆さん、全国各地の支援者など、この歴史的な時を待ち望んでいた多くの人々が、東京地裁前に詰めかけました。福島はじめ遠隔地からの傍聴を拒絶するかの如き、午前7時30分から8時20分までという傍聴整理券の配布時間の設定にもかかわらず、時間内に717人が並び、97席の傍聴席のうち報道関係者用などを除いた54席の抽選を行なうという狭き門に挑戦したのでした。
9時より地裁前でのアピール行動の中、地裁104号法廷へ向かう。筆記用具以外は持ち込み禁止、一人一人携帯品を全部取り出ささせ、体を金属探知機と衛士によるボディタッチという、最高裁判所並みと言われる異例のボディチェックが実行され、ようやく入廷すると、半分近くの席が報道関係者席で埋まっておりました。
すでに裁判官3名と検察官役の指定弁護士5名、被害者参加制度により委託を受けた弁護士4名が着席しており、少し遅れて東電旧経営陣の勝俣、武黒、武藤の各被告が被告弁護人7名と入廷しました。
10時すぎ、永渕健一裁判長が開廷を宣言して、冒頭手続きに入り、裁判長が人定質問、指定弁護士の石田省三郎弁護士が起訴状を朗読、裁判長が黙秘権の告知を行い、罪状認否に入りました。勝俣被告は、小声で「放射性物質の外部放出事故を起こし、広く社会に迷惑をかけお詫びします。しかし、予見は不可能であった。刑事責任は適用されないと考えています」と述べ、続いて元福岡高検検事長の有田知徳弁護士が「無罪を主張する。予見義務、結果回避可能性もない」としました。続いて、武黒被告、武藤被告もそれぞれ「深くお詫びをします。しかし、予見不可能であった」「お詫びします。しかし、事故前に事故予見できず、刑事上の責任はない」と述べ、元東京地検特捜部検事の政木道夫弁護士らそれぞれの弁護人も無罪を主張しました。
続いて、証拠調べ手続きに入り、まず、指定弁護士の神山啓史弁護士が冒頭陳述を行いました。
神山弁護士は、最初に「人間は、自然を支配できません。私たちは、地震や津波が、いつ、どこで、どれくらいの大きさで起こるのかを、事前に正確に予知することは適いません。だから、しかたなかったのか。被告人らは、原子力発電所を設置・運転する事業者を統轄するものとして、その注意義務を尽くしたのか。被告人らが、注意義務を尽くしていれば、今回の原子力事故は回避できたのではないか。それが、この裁判で問われています。」と述べ、1時間半にわたり事件の内容を説明し、以下のようにまとめました。
「東電設計による津波評価の計算結果は、本件原子力発電所に10m盤を超える高さの津波が襲来することを示すものでした。被告人武藤は平成20年6月10日、被告人武黒も遅くとも同年8月上旬には、上記計算結果を実際に認識していました。
しかも、被告人らが出席する「中越沖地震対応打合せ」等が継続的に行われ、席上、本件原子力発電所に関する様々な情報が報告され、とりわけ平成21年2月11日には、当時原子力設備管理部長であった L が「もつと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて」などと発言しているのですから、被告人勝俣も上記事実を知ることができました。
このような状況である限り、被告人勝俣は、継続して本件原子力発電所の安全性に係る会社内外の情報を常に収集することによって、東電設計の計算結果の重大性は、十分に認識できました。被告人武黒も同様です。
このように被告人らは、いずれも本件原子力発電所に10m盤を超える津波が襲来し、これにより同発電所の電源が喪失するなどして、炉心損傷等の深刻な事故が発生することを予見できたのです。
そして万一、被告人らが、東電設計の計算結果や L 発言を軽視し、安全性評価や津波対策についての情報を収集することや共有することを怠り、適切な措置を講じることの必要性を認識していなかったというのであれば、そのこと自体、明らかに注意義務違反です。
さらにまた、被告人らは、長期評価の取扱いについては、土木学会に検討を依頼し、その検討結果に基づいて、その時点で必要と考えられる津波対策工事を行う方針であったと主張するもののようです。しかし、土木学会においても、三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震の福島県沖の波源については、房総沖地震を参考に設定することとされ、しかも、この方法による本件原子力発電所敷地の津波水位は、すでに平成20年8月の時点でO.P. +13.552メートルであるとの計算結果が明らかとなっていたのです。
仮に被告人らの主張を前提としても、上記方針は被告人らが自ら設定したのですから、被告人らはこのような諸情報については、当然に報告を受けていたと推認することができます。もし、被告人らがこのような土木学会の状況などの報告を求めず、その状況を把握していなかったとすれば、 このこともまた、なお一層、被告人らの注意義務違反となるのです。
被告人らは、発電用原子力設備を設置する事業者である東京電力の最高経営層として、本件原子力発電所の原子炉の安全性を損なうおそれがあると判断した上、防護措置その他の適切な措置を講じるなど、本件原子力発電所の安全を確保すべき義務と責任を負っていました。運転停止以外の「適切な措置」を講じることができなければ、速やかに本件原子力発電所の運転を停止すべきでした。
それにもかかわらず、被告人らは、何らの具体的措置を講じることなく、漫然と本件原子力発電所の運転を継続したのです。被告人らが、費用と労力を惜しまず、同人らに課せられた義務と責任を適切に果たしていれば、本件のような深刻な事故は起きなかったのです。指定弁護士は、本法廷において、このような観点から、被告人らの過失の存在を立証します 」
昼の休廷を挟んで、午後1時12分すぎ、今度は、被告弁護人による異例の冒頭陳述がありました。
まず、「3名共通の主張」として、「予見可能性、結果回避可能性、いずれも認めれない」「地震本部の長期評価は、信頼性も成熟性もない」「東電設計の解析は試計算結果、試行的試験的結果である」などとしました。その上で、勝俣被告の弁護人は、「東電は従業員3万人の巨大組織。地震津波の安全所管部は、土木グループ。会長に職務権限の定めはなく、業務執行権限はない。入社以来、原子力部門に在籍せず、安全性の知見はない」と驚くべき責任逃れを行いました。また、武黒被告の弁護人は「フェローは、技術的で指導的立場ではない。勝俣を補佐していない。立地本部長だから知っているわけではない。中越沖地震対策センターは、決定機関でもない」などと言い逃れに終始しました。さらに、武藤被告の弁護人は「東電設計の試計算については、何らかの方針が決定されたことはない。試計算結果に対応した措置では、事故発生を防げなかった。土木学会の専門家の判断を経て対策するとの結論だった。武藤に予見可能性はない」と言い逃れに困り矛盾に満ちたものとなりました。
被告弁護人の異例の冒頭陳述終了後、裁判長が公判前整理手続きの結果の概略を説明。
「結審までの審理手続き、今しばらく必要。内容が高度に専門的、複雑性があり、証拠の整理、審理計画のために」
この後、検察官役の指定弁護士による証拠要旨の告知が行われました。
責任逃れの無罪を主張する3被告に対して、示された証拠238点から、東電が大津波を予測し防潮堤など津波対策に取り掛かっていたにもかかわらず、3被告が関わり経営判断でこれを中止した経緯が、当時の社内会議記録メモやメール、東電設計の解析報告書などにより白日のもとになりました。この後、弁護側の証拠要旨も93点が告知されました。
最後に、裁判長が「次回期日は、追って」ということで閉廷しました。
午前10時から午後4時30過ぎまでの公判終了後、記者会見と公判報告会も開かれました。
2017.6.30 東電元会長ら3人の刑事裁判初公判 (集会・記者会見)
https://youtu.be/PhNKuC18iMw