長期評価に基づく津波対策、東電担当者の証言
2018年 05月 07日
4月中には、第5回から第9回まで、5回の公判が10日・11日・17日・24日・27日に開かれました。この5回の公判では、東京電力本店の土木部門で津波対応などを担当した、2人の証人尋問が行われ、重要な証言が行われました。
刑事裁判の最大の争点の一つは、政府の地震調査研究推進本部の長期評価に基づいて、津波対策を講ずるべきであったかどうか、です。これについて、強制起訴議決は、「推本の長期評価は権威ある国の機関によって公表されたものであり、科学的根拠に基づくものであることは否定できない」「大規模地震の発生について推本の長期評価は一定程度の可能性を示していることは極めて重く、決して無視することができないと考える」としています。
2006年9月に改定された耐震設計審査指針は、津波について、原子力発電所の設計において、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」としました。
国会事故調報告書によると、原子力安全・保安院は、同年10月6日に、耐震バックチェックに係る耐震安全性評価実施計画書について、全電気事業者に対する一括ヒアリングを開き、席上、津波対応について「本件は、保安院長以下の指示でもって、保安院を代表して言っているのだから、各社、重く受け止めて対応せよ」とし、以下の内容が口頭で伝えられたとされます。
「バックチェック(津波想定見直し)では結果のみならず、保安院はその対応策についても確認する。自然現象であり、設計想定を超えることもあり得ると考えるべき。津波に余裕が少ないプラントは具体的、物理的対応を取ってほしい。津波について,津波高さと敷地高さが数十cmとあまり変わらないサイトがある。評価上OKであるが、自然現象であり、設計想定を超える津波が来る恐れがある。想定を上回る場合、非常用海水ポンプが機能喪失し、そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない。今回は、保安院としての要望であり、この場を借りて、各社にしっかり周知したものとして受け止め、各社上層部に伝えること」
これを受けて、東京電力は、2008年3月、福島第一原発の耐震バックチェックの中間報告を行い、最終報告期限は、2009年6月であると公表していました。
第5回公判・第6回公判・第7回公判(4月10日・11日・17日)の3回は、東京電力本店の土木部門で津波や活断層の調査を担当し、土木学会に所属して津波評価部会にも入って、地質や津波の評価を行ない、東京電力の津波対応の全てを知っている社員の高尾誠証人が、証言台に立ちました。
高尾証人は、地震調査研究推進本部の長期評価を耐震バックチェックに取り入れ、長期評価に基づく津波対策が必要だと考え、2008年6月10日に武藤被告に進言しました。この会議で、沖合防波堤の設置及び許認可の検討などの指示を受けましたが、同年7月31日の2回目の会議で武藤被告は「研究を実施しよう」と述べて、土木学会に検討を依頼し、津波対策の実施を先延ばしました。このため「力が抜けた」と証言しました。
そして、2009年6月終了予定の津波対策を先延ばしするために、武藤被告の指示で、安全審査担当の専門家の同意とりつけや他社が先行しないようにする調整、原子力安全・保安院との交渉など様々な裏工作を行った実態が、未公開の関係者の電子メールなどから、新事実として明らかになりました。
第8回公判・第9回公判(4月24日・4月27日)は、高尾誠証人の上司で土木グループを統括するグループマネージャーの元社員で現在電力中央研究所所属する酒井俊明証人が、証言台に立ちました。
酒井証人も、高尾証人同様、長期評価に基づく15.7mの津波想定が必要と2007年段階から考えていたこと。数値の公表と対策実行が遅れた社内事情、武藤被告により土木学会に審議してもらうことを「時間稼ぎ」と認識していたとも証言しました。
