憲法9条の改正議論で日弁連が決議

日本弁護士連合会は、5月25日の総会で「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」を採択しました。以下に紹介いたします。

憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議

日本国憲法が施行されて71年を迎え、憲法9条の改正に向けた議論が始まりつつある。
 
日本国憲法は、アジア・太平洋戦争の惨禍を経て得た「戦争は最大の人権侵害である」との反省に基づき、全世界の国民が平和的生存権を有することを確認し(前文)、武力による威嚇又は武力の行使を禁止し(9条1項)、戦力不保持、交戦権否認(9条2項)という世界に例を見ない徹底した恒久平和主義を採用している。そこには、核の時代における戦争が文明を破壊するおそれがあることも踏まえ、軍事によることなく、国民の安全と生存を「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」保持しよう(前文)とする決意が込められている。 
 
そして憲法9条は、これまで現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、海外における武力行使及び集団的自衛権の行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能してきた。
 
2018年3月、自由民主党(自民党)憲法改正推進本部が方向性を示した条文イメージ(たたき台素案)は、憲法9条1項及び2項は残しつつ新たに憲法9条の2を設け、憲法9条の規定は「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置」(必要な自衛の措置)をとることを妨げずとし、そのための実力組織として「自衛隊」を憲法上明記する案(自衛隊等明記案)である。同案は、法律の定めるところにより内閣総理大臣を自衛隊の最高の指揮監督者とし、自衛隊の行動は法律で定めるところにより国会の承認その他の統制に服するとする。
 
「わが国を取り巻く安全保障環境の緊迫化」を理由に検討したとされる自衛隊等明記案は、憲法改正により自衛隊を憲法に位置付け、自衛隊違憲論を解消すべきであると説明されている。自民党は、この案をたたき台として、衆参憲法審査会や各党、有識者等の意見や議論を踏まえ、「憲法改正原案」を策定し国会に提出するとしている。

自衛隊等明記案については、次の課題ないしは問題の検討がなされるべきである。


1 自衛隊等明記案では新たに憲法9条の2を設け、憲法9条の規定は「必要な自衛の措置」をとることを「妨げず」と定めており、「必要な自衛の措置」の内容は現在の案では限定されていない。このため、海外における武力行使及び集団的自衛権の行使を禁止するというこれまで憲法9条が果たしてきた憲法規範としての機能が減退ないしは喪失し、「必要な自衛の措置」として、存立危機事態はもとより、それ以外の場面でも集団的自衛権の行使が容認される危惧が生じる。そうであれば、政府がこれまで維持するものとしてきた専守防衛政策に根本的な変化をもたらしかねず、日本国憲法の恒久平和主義の内実に実質的な変化を生じさせるおそれがある。

2 自衛隊等明記案は「必要な自衛の措置」としての武力行使の限界を憲法に定めていないため、その判断が内閣又は国会に委ねられることになる。また、自衛隊の行動に対する「国会の承認その他の統制」の具体的な内容は憲法ではなく法律に委ねられている。こうしたことから、自衛隊の行動に対する実効性のある統制を実現することに疑義が生じ、権力の行使を憲法に基づかせ、国家権力を制約し国民の権利と自由(基本的人権)を保障するという立憲主義に違背するおそれがある。


以上のように、自衛隊等明記案には、立憲主義、基本的人権の尊重、恒久平和主義など、日本国憲法の理念や基本原理に深く関わり、日本の国の在り方の基本を左右する課題ないしは問題が含まれている。

そこで、同案により自由や平和の在り方がどのように変わるのか、変わらないのであればなぜかを、国民は明確に理解し判断する必要がある。そのためには、自衛隊等明記案の課題ないしは問題についての情報が国民に対し多面的かつ豊富に提供され、国会の審議や国民の間の検討に十分な時間が確保されるなど、国民が熟慮できる機会が保障されなければならない。

さらに、実際に憲法改正手続がとられる場合には、国民投票が公正・公平な手続を通じて実施されることが必要である。

憲法改正手続法(国民投票法)に関して、当連合会は、「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」(2009年11月18日)の中で8項目の見直すべき課題を提示している。とりわけ国民投票の14日前までのテレビ・ラジオ等における国民投票運動としての有料意見広告放送に何らの規制が加えられていないことや、最低投票率の定めがなされていないことについては、参議院も同法成立時の附帯決議において本法施行までに検討を加えることを求めていた。しかし、現在までこれらの点の検討はなされていない。国民投票に付する憲法改正の発議の前までに、これらの点も含め見直すべき課題について必要な検討をした上で国民投票がなされるべきである。

よって、当連合会は、今般の憲法9条の改正をめぐる議論において、上記に指摘した課題ないしは問題について国民が熟慮できる機会が保障されること、そして、憲法改正の発議の前に憲法改正手続法の見直しを行うことを求める。

また、当連合会は、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から、国の将来を大きく左右する憲法9条の改正議論に当たり、その課題ないしは問題を明らかにすることにより、国民の間で憲法改正の意味が十分に理解され、議論が深められるよう、引き続き自らの責務を果たす決意である。

以上のとおり決議する。

2018年(平成30年)5月25日

日本弁護士連合会
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by kazu1206k | 2018-05-31 23:49 | 平和 | Comments(0)

佐藤かずよし


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