新しい外国人労働者受入れ制度の確立で、日弁連の宣言
2018年 10月 07日
少子高齢化社会が進行する中、政府は、本年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2018」において、建設業、農業、介護等の分野での人手不足による、経済界や地方からの、更なる外国人労働者の受入れを求める声があがっていることから、外国人労働者の受入れを想定して「就労を目的とした新たな在留資格」を創設する方針を示していました。しかし、新たな在留資格では、在留の期限は原則5年以内とされ、家族の帯同が認められず、新たな在留資格の創設後もなお技能実習制度は存続することとしています。こうした現状にあって、日本弁護士連合会の宣言を、ご紹介します。
新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言
日本に在留する外国人労働者は、2016年10月には108万人、2017年10月には127万人を超えて増え続けている(特別永住者を除く。外国人雇用状況届出数)。
その主たる要因は非熟練労働者の増加にあるが、非熟練労働の担い手は、技能実習生、アルバイトで働く留学生等、本来は、労働者の受入れを目的としない制度によって入国した人々である。技能実習制度では、日本の技術の海外移転という名目上の目的のために実習先を定められ、原則として職場移転の自由が認められず、雇用主に従わざるを得ないという構造的な問題がある。このため、最低賃金法違反、強制帰国等の深刻な人権侵害が生じている。留学生の相当数は、来日時の多額の借入れの返済や学費の捻出等のため、本来の学業に加えて長時間労働を余儀なくされ、週28時間以内の就労を超えた資格外活動が発覚する等して在留資格を失う者もいる。
今もなお、建設業、農業、介護等の分野では人手不足が指摘され、少子高齢化社会が進行する中で、経済界や地方からも、更なる外国人労働者の受入れを求める声があがっている。これを受けて政府も本年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2018」において、上記の分野等での外国人労働者の受入れを想定して「就労を目的とした新たな在留資格」を創設する方針を示している。しかし、新たな在留資格では、在留の期限は原則5年以内とされ、家族の帯同が認められず、また、この在留資格の創設後もなお技能実習制度は存続することとしている。
外国人労働者の増加に伴い、外国人の中長期在留者の数も増加を続けて2017年末には256万人を超え(特別永住者を含む。)、また、6万人以上の非正規滞在者も日本で生活している。さらに、出生後に日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれた日本人等も含め、今、日本は、外国にルーツを持つ多様な人々が暮らす国となっている。特に、上記の新たな外国人受入れ制度の創設に伴って、今後、多くの外国人労働者が日本社会の一員となることが予想される。
これらの人々が地域で生活する環境に目を向けたとき、日本語学習や母国の文化を保持するための取組は、いまだ国全体の十分な取組にはなっていない。外国籍の子どもやその家族の在留等の在り方も、国際人権諸条約の諸規定に従ったものとはなっていない。外国にルーツを持つ人々への差別的言動その他の差別を根絶するための立法府及び行政府の取組もようやく端緒に就いたにすぎない。
そもそも、人は、国籍、在留資格の内容、有無等にかかわらず、ひとしく憲法、国際人権法上の人権を享有する。国籍や民族の相異を理由に、時の在留政策や雇用側の利害等により、その人権を安易に制約することは許されない。新たな外国人受入れが始まろうとする今こそ、人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化の共生する社会を構築することが喫緊の課題となっている。
よって、当連合会は、国や地方自治体に対し、以下のとおり求める。
1 人権保障に適った外国人労働者受入れ制度を構築するため、国は、以下の施策を実施するべきである。
(1) 技能実習制度を直ちに廃止する。
(2) 政府において検討中の新たな制度も含め、非熟練労働者受入れのための制度を構築するに際しては、労働者の受入れが目的であることを正面から認めた、以下のような条件を満たす制度とする。
① 職場移転の自由を認める。
② 国の機関による職業紹介、二国間協定の締結等により、送出し国を含めてブローカーの関与を排除する。
③ 長期間の家族の分離を強いず、日本に定着した家族全体の在留の安定を図る。
(3) 外国人労働者全般の権利の保障のために次のことを実施する。
① 賃金等の労働条件における国籍や民族を理由とする差別の禁止を徹底する。
② 労働者の権利の保障等のための相談、紛争解決の仕組みを充実させる。
③ 日本語教育を含む職業訓練や職業紹介制度の充実を国の責務とする。
2 外国にルーツを持つ人々と共に生きる社会を構築し、全ての人に人権を保障するため、以下の施策を実施するべきである。
(1) 国や地方自治体は、外国につながる子どもや成人の日本語教育、民族的アイデンティティを保持するための母語教育等のための専門的な教員の加配やスクールソーシャルワーカー等の配置を行うとともに施設を整備し、そのための国際交流協会、NGO等の活動を支援する。また、国は、家族滞在の子どもの定住者等への在留資格変更について一層要件を緩和することにより、外国につながる子どもの在留の安定を図る。
(2) 国や地方自治体は、外国人が医療、社会保障等のサービスや法律扶助制度等に容易にアクセスし、十分に活用することができる制度を実現し、国際交流協会、NGO等と協力してその運用を支援する。
(3) 国は、国際人権諸条約の諸規定に基づき、長期の在留資格や在留特別許可に係る法令の要件の緩和と明確化を通じて、外国人やその子ども・家族の在留の安定を図る。併せて、複数国籍の制限の緩和等を含め、国籍の得喪要件の見直しを行う。
(4) 国や地方自治体は、調停委員等や教員の公務就任における差別をやめ、就職・入居等の私人間における差別的取扱い、及び差別的言動の禁止を含む法整備を行う。また、国は、国内人権機関の創設、人権諸条約の個人通報制度の実現を通じて権利救済を実効化する。
3 これらの施策を立案、実施するため、以下の体制を整備するべきである。
(1) 地方自治体は、外国にルーツを持つ人々が地域の中で共に生きるため、上記を含めた施策を実施する部署の設置等をする。
(2) 国は、外国にルーツを持つ人々が社会で共に生きるための施策を国や地方自治体の責務とし、これを実施する体制を定め、また、外国人受入れについての基本方針を定める法律(仮称「多文化共生法」)を制定するとともに、これらの施策の実施を所管する省庁(仮称「多文化共生庁」)を設置する。
外国にルーツを持つ人々がひとしく人権を保障され、全ての市民が共生できる、活力のある日本の地域社会を創造するため、今こそ、国や地方自治体は、具体的な行動に移るべきである。
当連合会も、上記の施策の実現に向けて、全力を挙げて取り組む所存である。
以上のとおり宣言する。
2018年(平成30年)10月5日
日本弁護士連合会