いわき市が東電に申し入れ、汚染水や作業員の安全、賠償など
2018年 11月 19日
以下に内容を掲載します。
東京電力ホールディングス株式会社
代表執行役社長 小早川 智明 様
申 入 書
1 福島第一・第二原子力発電所の廃炉に向けた取り組み及び確実な安全対策について
2 福島第一原子力発電所事故に関する適正な賠償の実施について
平成30年11月19日
福島県いわき市長 清水 敏男
【重点申入項目】
1 福島第一・第二原子力発電所の廃炉に向けた取り組み及び確実な安全対策について
東京電力ホールディングス㈱(以下「東京電力」という。)に対しては、これまでも再三にわたり、福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)事故の一刻も早い収束と福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という。)の廃炉を強く求めてきたところであり、また、数十年に及ぶ廃炉作業においては、市民生活への影響が無いよう廃炉作業を安全かつ確実に進めることが大前提であることから、併せて「確実な安全対策の実施」についても申し入れを行ってきたところであります。
本年6月には、ようやく福島第二原発の廃炉方針が決定され、一定の前進がみられたものの、福島第一原発においては3号機における使用済燃料の取り出し作業がクレーンの不具合等により大幅に延期されるなど、廃炉作業の全体工程に影響を与えかねないミスが発生しているほか、多核種除去設備で処理した汚染水、いわゆるALPS処理水については、これまで「トリチウム以外の放射性核種は除去できている」と繰り返し発信していたにもかかわらず、実際にはそれらが法令で定める告示濃度を上回る濃度で保管されていたことは、東京電力に対する市民の信頼を大きく失墜するものであり、誠に遺憾であります。
東京電力においては、廃炉作業の遅れが福島第一原発事故からの復興の妨げや風評被害の長期化、さらには、市外で生活されている方々の帰還に大きな影響を及ぼすことを改めて認識し、廃炉に向けた中長期ロードマップに基づく取り組みをしっかりと進めるため、今一度、安全管理体制を徹底して見直すなど十分な安全確保を図ること、また、市民への丁寧な情報提供の在り方について真摯に検討する等、特に次の6項目について強く申し入れます。
⑴ 福島第一原発の確実な安全対策の実施
福島第一原発においては数十年に及ぶ廃炉作業期間中、多くの市民が不安を抱えた生活を強いられることから、東京電力及び国の責任において、確実な安全対策を講じること。
特に3号機において準備が進められている使用済燃料の取り出し作業は、作業中のトラブルが放射性物質の放出に直結しかねない作業であることから、安全確保を第一に作業を進めるとともに、今後予定されている1号機、2号機の使用済燃料の取り出しについても、今回の3号機におけるクレーンの不具合等の事案を踏まえ、再発防止対策の水平展開を徹底するなど、30年から40年かかるといわれている廃炉工程に影響を与えないよう、万全の体制で取り組むこと。
⑵ 福島第一原発に係る確実な汚染水等対策の実施
汚染水対策を重層的に講じるとともに、海洋モニタリングを適切に実施すること。
また、多核種除去設備(ALPS)において大部分の放射性物質を除去した水、いわゆるALPS処理水の処分方法については、国の小委員会で検討が進められ、本年8月には住民の声を直接聞く説明・公聴会が開催されたところであり、その中でALPS処理水の安全性や風評被害への懸念から、海洋放出に反対する意見が多数寄せられたところである。
今後、小委員会での議論を適切かつ円滑に進めるためには東京電力によるALPS処理水の現況に係る正確な情報開示が不可欠であることから、現在貯蔵しているALPS処理水の放射性物質濃度等を確実に把握し、適切に管理するとともに、小委員会の動向を注視し、風評など社会的影響を十分に考慮したALPS処理水の取扱い方法を計画的に検討すること。
⑶ 福島第二原発の正式な廃炉決定
本年6月に福島第二原発の廃炉方針が示されたことから、速やかに廃炉を決定するとともに、その工程を明確にするなど具体的なアクションを起こすこと。
⑷ 作業員の安全管理の徹底
防護装備着用が不要なエリアが拡大されるなど、作業環境に改善がみられるが、今後は燃料取出し作業や燃料デブリの取出し作業など、高線量下での作業が増えることが予想されることから、労災事故の防止や作業員の安全管理に万全を期すことは勿論、作業場の放射線量を低減するなどの被ばく低減対策に取り組むとともに、作業員の人的な確保や健康管理などを含め、適正な作業管理をさらに徹底すること。
⑸ 迅速かつ正確な情報発信
福島第一原発においてトラブル等が発生する度に通報を受けているところであるが、最近はトラブル発生事象時の公表区分の判断を誤るほか、通報の内容において誤記がある等、通報連絡体制の不備が散見されることから、トラブル時における現場の状況判断等を含めた通報連絡体制を改めて見直し、迅速かつ正確な情報発信に努めること。
⑹ 市民への丁寧な説明責任の遂行
市民が安心して日常生活を送るためには、福島第一原発の状況を正しく把握することが必要であることから、分かりやすく丁寧な情報提供を常に心がけ、事故を発生させた当事者として市民への説明責任を果たすこと。
2 福島第一原子力発電所事故に関する適正な賠償の実施について
本市の市民や事業者は、事故が収束していない状況の中、不安を抱えながら生活や事業活動を行っており、その精神的な苦痛や風評被害などに伴う営業損害は計り知れないものがあります。
一方で、放射線への不安などから、自主的に市外に避難し、心ならずも家族が離れ離れに生活せざるを得ない家庭が少なくありません。
このような、被害者である全ての市民や事業者に対して、迅速かつ適正な賠償が実施されるとともに、地方公共団体への賠償に対しても責任をもって対応されますよう、次の2項目について強く申し入れます。
⑴ 事業者等に対する適正な賠償の実施
ア 福島第一原発事故に伴う商工業者等に対する営業損害については、平成27年6月に、将来的な減収分として直近の減収にもとづく年間逸失利益の2倍相当額を一括賠償するとともに、国が集中的な自立支援策を展開するとの方針が出されておりますが、市内の一部の事業所では業績の改善はみられるものの、業種によってばらつきがあり、特に農林水産業及び加工業、観光業において、依然として風評被害が継続しております。
これらのことから、今後においても、風評被害を含め個別具体的な事情による損害について、事業者等の意見や要望を真摯にくみ取り、事業者の再建に結び付くよう、適正な賠償を実施することを強く申し入れます。
イ 農林業に係る損害賠償については、平成31年以降の避難指示区域外における農林業の風評賠償について、生産者団体等との協議がおこなわれ、新たな賠償内容について大枠で合意に至ったところでありますが、風評被害をはじめとした損害については、今後も長期にわたって、本市農林業へ重大な影響を及ぼすことが懸念されることから、今後においても、農林業者や関係団体の意向を十分に踏まえ、確実に賠償を実施するよう強く申し入れます。
⑵ 地方公共団体に対する迅速かつ適正な賠償
本市一般会計、特別会計及び企業会計のうち、政府指示の有無に関わらず事故との因果関係が明らかな費用について東京電力に対し、それぞれ賠償請求を行っておりますが、本市の請求額、約79.4億円に対し、これまで約14.7億円と18.5%しか支払われておりません。
ついては、迅速かつ適正な賠償を実施するとともに、今後本市が福島第一原発事故に伴って実施する様々な業務・事業についても、最後まで確実に賠償対象とするよう、責任をもって対応されることを強く申し入れます。