人気ブログランキング | 話題のタグを見る

厚生労働省の統計法違反、経済統計学会の声明

 厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査について、経済統計学会(会長・金子治平神戸大院教授)は、「真実性という存立基盤を覆すもの」「政治権力から独立でなければならないという近代統計の原点に立ち返ることを願う」とする声明文を、総務省の統計委員会に提出しました。
 声明文では、「公的統計が機能を果たせなかったことが、わが国を無謀な戦争へと駆り立てた」と指摘した上で、毎月勤労統計の不正について「国のあり方そのものを根底から揺るがしかねない」と批判し、また、2000年代初頭に国が統計予算や担当職員を削減したことが不正の一因となったと指摘しています。

厚生労働省の統計法違反をめぐる経済統計学会からの声明
2019 年 2 月 21 日
統計委員会
委員長 西村淸彦殿
                 経済統計学会会長
                   金子治平

 経済統計学会を代表し,厚生労働省の統計不正問題について声明する。

 日本が近代国家としての歩みを開始して以来,一貫して公的統計は,その時々の実態を反映する鏡,将来を指し示す道標として位置づけられ,それはいかなる権力からも自立した存在であるべきとされてきた。戦時期に公的統計がその機能を果たしえなかったことが,わが国を無謀な戦争へと駆り立てたことへの痛切な反省から,戦後の統計再建にあたり基本法規として制定された統計法(昭和 22 年法律第 18 号)は,「統計の真実性」の確保を最優先の目的として規定し,そ のような法制度の下にわが国の統計行政は遂行されてきた。さらに改正統計法(平成 19 年法律第 53 号)は公的統計を国民共通の情報資産と謳い,それを行政のみならず広く社会の営みの基盤をなす情報と規定している。近年,EBPMとして公正かつ透明な政策立案が強く求められる中,現実の客観的な把握並びに正確な将来の見通しの提供という統計の社会的使命は,一層重要性を増している。

 本学会は,その設立以来,内外の統計法および統計制度の研究も含め,公的統計の作成と利用
に関して,現実の認識資料としていかにすれば公的統計が公正性を担保しうるか,そして公的統
計がいかにしてその社会的使命を果たしうるかを主要な研究領域として学術面から取り組みを行
ってきた。本学会のこれまでの取り組みに鑑みれば,今回の労働統計を中心とする統計不正は,
単なる調査技術上の問題にとどまるような性格のものではない。それは,統計の真実性の確保と
いう,統計再建にあたって掲げた所期の目的を達成すべく設計された法制度の仕組みそれ自体の
存立基盤を覆すものであり,わが国の公的統計,ひいては日本という国の有り方そのものを根底
から揺るがしかねない問題に他ならない。

 いうまでもなく公的統計は,調査の企画・実施者のみによって成るものではなく,その質の確保には,地方職員あるいは実査を担当する調査員の日々のたゆまざる奮闘,そして何よりも被調査者である国民の調査協力が不可欠である。1970年代に表面化し,次第に深刻さを増す調査環境の中で公的統計がその品質を維持できているのも,統計法に基づいた統計行政に対する国民の信頼を抜きには語りえない。

 このような統計行政の制度的基盤を認識してさえいれば,今回のような不測の事態はそもそも 起こりえないものである。にもかかわらず,このような事案が発生したことは,困難な調査環境の中,統計作成の第一線で日々尽力している統計関係者,そして何よりも,これまで調査に協力してきた国民に対する冒涜以外の何物でもない。このような事態によって,わが国の統計行政, ひいては政府そのものに対する国民の不信という形で調査環境の悪化にさらに拍車がかかること が危惧される。また,今回の不祥事が,統計行政そのものの在り方を根底から揺るがす深刻な問題であることから,その対応を誤ればわが国の公的統計に将来はない。それは同時に,日本の統計に対する国際社会からの信用の喪失をも意味する。

 関係各機関に対しては,政治権力から独立でなければならないという近代統計の原点に立ち返
り,また統計の真実性の確保という戦後の統計法の精神に思いを致し,公的統計の社会的使命を
改めて確認するよう願う次第である。同時に,公的統計の品質保証のフレームワークに則り統計
作成業務を遂行することを要望する。

 今回の統計不正が,2000年代初頭のいわゆる「三位一体改革」以来の統計職員並びに統計予算の削減をその一因としていることは想像に難くない。また,調査の企画・実施者内の制度的な意思疎通の齟齬も影響しているのではないかと考える。これらの問題を含めて,文字通りの第三者 の立場が確保された組織による,徹底した原因究明が行われることを求める次第である。同時に, 統計委員会,制度官庁を中心に,今後二度とこのような事案が起きることがないように,統計行 政の透明性の向上に一層尽力され,わが国の公的統計の信頼回復に向けた真摯な取り組みが政府 全体としてなされることを強く要請したい。

以上
by kazu1206k | 2019-03-08 23:42 | 雇用 | Comments(0)