原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)から「黒い雨」裁判判決控訴に対する抗議声明の提出等の報告です。
「黒い雨」による被爆を認め、原告84名に被爆者手帳を交付するよう命じた7月29日の広島地方裁判所の判決を不服として控訴した国と広島県・広島市に対し、原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)、伊方原発広島裁判原告団、「避難の権利」を求める全国避難者の会、原発賠償関西訴訟原告団、福島原発事故被害救済九州訴訟原告団の5団体は9月29日、共同抗議声明を発表し、午前10時に厚生労働省と広島市に提出し、同日、午後2時から各地をオンラインでつなぎ、福島市にて記者会見を行いました。
衆議院第二会館での抗議声明手渡しは、福島選出の金子恵美衆議院議員(立憲民主党)の立ち合いのもと、ひだんれん幹事の村田弘さん、熊本美彌子さん、伊方原発広島裁判原告の上田紘治さん、森川聖詩さんの4名が出席しました。
冒頭金子議員より「控訴は極めて残念。本来国民を守るべき立場にある国が真逆のことをしている。このことは福島の原発事故の問題にも大きな影響を与える」と発言がありました。
熊本さんは「原発事故避難の10年は大変苦しい日々だった。長い75年も経ってやっと訴えを認める判決が出たのに、国や広島県、市が控訴したことに、何という国かと、怒りをもって抗議する」と、抗議声明を読み上げ、厚生労働省健康局総務課 丸山課長補佐に手渡しました。
伊方原発広島裁判原告の上田さん「3歳の時に爆心地から400メートルのところで被爆した。今回の裁判判決は非常に画期的なことだ。広島と福島が一緒に抗議声明を出したのは、この判決が内部被曝を認めているからだ。厚労省は大義に立って判断してほしい」被爆2世の森川さん「厚労省が科学的知見というが、核被害者の生の声を聴いて実情を見て、必要とされる対策を講じるべきだ。控訴などという愚かなことはやめてほしい」ひだんれんの村田さんは「放射能の被害は原爆も原発も同じ。内部被曝、政治的な線引きによる被害者の分断、切り捨ても全く同じだ、国は被害の現実に正面から向き合うべき」と、それぞれ訴えました。
「黒い雨」控訴に関する抗議声明 2020年9月29日
2020年7月29日広島地方裁判所は、「黒い雨」裁判に関する判決を下し、 原告84名全員への被爆者健康手帳交付を広島市・広島県に命じた。これに対し参加行政庁厚生労働省、被告広島市及び広島県は、判決が「科学的知見に基づ いていない」として、8月12日広島高等裁判所に対して控訴した。
この控訴は判決が含む実証性・科学性を否定する反科学的意図を含むものであり、被爆者健康手帳交付を徒に遅らせ、「黒い雨」被爆者救済を先延ばしするものである。よって厳重に抗議し、控訴取り下げを求める。
さらに、広島地裁判決は、内部被曝による健康被害の可能性を認め、地理的線引きによる被害者の特定を否定した点で、福島原発事故による広範な放射線被曝被害を正しい解決に導く一つの指針である。高度約600mで核爆発した原爆であったことと、地上で核事故を起こした原発であったこととの違いがあるだけで、膨大な核分裂物質が環境中にまき散らされ、周辺住民を生涯にわたって不安と健康被害に陥れる事実に変わりはない。
広島地裁、高島義行判決は現時点での英知の結晶であり、決して闇に葬ってはならない。
国・広島市・広島県の控訴は、戦後75年経過してもなおかつ未解決の「黒い雨」被爆者救済を、徒に遅らせるという点で不当である。「黒い雨」被爆者は原告になった84名だけではない。調査によれば数千人規模の被害者が存在すると言われる。
控訴せずとも、判決を機に今回認定された「黒い雨」被爆を広島原爆被害の「類型」として認め、「黒い雨」降雨域の範囲を新たに認定し、政令を改正すれば済む話である。これで数千人といわれる「黒い雨」被爆者を救済できる。 にもかかわらず控訴して、救済に時間をかけようとする国、広島市、広島県の姿勢は到底容認できない。
さらに、広島地裁判決のもつ科学性・実証性が、核産業にとって、そして核産業推進を掲げる現政権にとって都合が悪いからという理由でこれを「非科学的」と論難し、自らの都合だけで広島地裁判決をなかったものとして闇に葬り去ろうとする国の「控訴理由」は極めて不当である。
私たちの国は、福島原発事故という未曾有の「放射能大惨事」のただ中にある。現に「福島第一原発事故による原子力緊急事態宣言」は、2011年3月11 日以来継続中である。宣言解消のメドすらたっていない。
長期低線量被曝、特に内部被曝被害を考えて見たとき、広島原爆による「黒 い雨」被爆者同様、福島第一原発事故による被曝被害は、私たちの国の将来を左右しかねないほどの健康被害を現にもたらしている。
また、科学的調査に基づかない政治的判断による線引きによって被害者は分断され、差別され、賠償や援護策から切り捨てられようとしている。
こうした被曝被害を、日本全体で正しく解決に導く一つの指針が、広島地裁判決である。それを闇に葬り去ろうという動きは、ここに至っても原発と訣別できぬこの国を滅亡に導くことと同義である。
日本国百年の計に立って見て、到底許されるものではない。
私たちは控訴に断固抗議し、控訴取り下げを求めるものである。
以上
【抗議声明発出団体】
原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)
住所:〒963-4316 福島県田村市船引町芦沢字小倉 140-1 電話:080-2805-9004
伊方原発広島裁判原告団
住所:〒733-0012 広島県広島市西区中広町 2-21-22-203 電話:090-7372-4608
「避難の権利」を求める全国避難者の会
住所:〒004-0064 北海道札幌市厚別区厚別西四条 2 丁目 6-8-2 中手方 電話:080-1678-5562
福島原発事故被害救済九州訴訟原告団
住所:〒839-1308 福岡県うきは市吉井町八和田 633 電話:090-9530-3148
原発賠償関西訴訟原告団
住所:〒530-0047 大阪府大阪市北区西天満 2 丁目 8 番 1 号 大江ビル 405 号 電話:06-6363-3705