日本弁護士連合会は、3月17日、「デジタル改革関連6法案について慎重審議を求める会長声明」を公表しました。
デジタル改革関連6法案は、「よりプライバシーを侵害しない方策を検討しプライバシー侵害を最小限に抑えるプライバシー影響評価を実施するまで制定されるべきではなく、同評価を実施したとしても、プライバシー・個人情報の保護を後退させてはならず、権力監視の仕組みを強化し透明性の確保と情報公開を促進しつつ、さらに地域の多様性や実情にも十分に配慮して地方自治の本旨に則った制度設計とする必要がある」として、「デジタル改革関連6法案について、プライバシーや個人情報の保護、地方自治の本旨などに十分に配意した上で、慎重かつ十分な国会審議が尽くされ、必要な修正がなされることを求める」としています。
以下に、全文紹介します。
デジタル改革関連6法案について慎重審議を求める会長声明
政府は、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠であることなどを理由として、デジタル改革関連6法案を本年2月9日閣議決定し、国会に提出した。
この6法案の改正内容は極めて広範にわたっており、特に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下「整備法案」という。)では、個人情報関係3法(個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律)を1本の法律に統合するとともに、地方公共団体の個人情報保護制度についても全国的な共通ルールを設定し、所管が分かれていたものを個人情報保護委員会に一元化する等としている。
しかし、デジタル改革関連6法案は、流通するデータの多様化・大容量化への対応による利便性を強調する一方で、自己情報コントロール権を明記しておらず、以下に指摘するように、情報の主体である個人の権利・利益への配慮が十分なされているとは言い難く、プライバシーや個人情報の保護を後退させるおそれが強く危惧される。
当連合会は、2017年10月の人権擁護大会において、「個人が尊重される民主主義社会の実現のため、プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議」をした。そこでは、日本においても、インターネット、監視カメラ、GPS装置など、大量の情報を集積する技術が飛躍的に進歩し、マイナンバー(共通番号)制度も創設され、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律により、いわゆる共謀罪が新設されたことで、市民に対する監視が強化されることへの懸念を指摘した。その上で、大量の情報が集積される超監視社会とも呼ぶべき現代において個人が尊重されるためには、公権力により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力が私的情報を収集、検索、分析、利用するための法的権限と行使方法等を定めた法制度を構築すべきであると提言した。
この決議に先立って当連合会が2014年2月21日に公表した「日本版プライバシー・コミッショナーの早期創設を求める意見書」においても、官民で管理する個人情報全般の取扱いを監視・監督する独立した第三者機関(日本版プライバシー・コミッショナー)が速やかに創設されるべきであり、専門的な能力を備えた職員を揃えるための定員と予算が担保されるべきことを求めていた。この点、この6法案では、個人情報の保護について個人情報保護委員会に行政機関等の全体の監督を委ねているところ、その権限に関しては、不適切な個人情報の取扱いについて勧告はできるものの(改正個人情報保護法案第158条)、個人情報取扱事業者等に対し認められている命令(同案第148条第2項、第3項)を発することはできず、民間部門に対するものと比べて不十分なものとなっている。
また、個人情報保護の分野については、地方公共団体が国に先駆けて条例を制定してきた歴史があり、これを尊重して国と地方公共団体の分権的な個人情報保護システムが構築されてきたところ、整備法案第50条及び第51条関係(個人情報保護法改正)により、地方公共団体の個人情報保護も含めルールの一本化が原則とされ、条例制定の範囲が極めて限定されるとともに(改正個人情報保護法案第108条)、条例を定めた際には届け出なければならない体制へとドラスティックに変化する(同案第167条第1項)。これは憲法が定める条例制定権に対する大きな制約ともなりかねない重大な制度変更である。
今般のデジタル改革関連6法案は、政府の府省庁を横断し地方自治体との連携を密にしてセンシティブ情報を含む個人情報を、首相を長とするデジタル庁が中核となって一元的に管理し、マイナンバーと紐付けることで、国における利便性を高めるものである。様々なデータが分野横断的かつ地域横断的に収集・利用される趨勢にあることは避けられないとしても、このような広汎かつ重大な制度変更は、地方自治の在り方を含め、現在及び将来の国民生活に大きな影響を及ぼすものである。
以上のような各問題点が存することから、デジタル改革関連6法案については、よりプライバシーを侵害しない方策を検討しプライバシー侵害を最小限に抑えるプライバシー影響評価を実施するまで制定されるべきではなく、同評価を実施したとしても、プライバシー・個人情報の保護を後退させてはならず、権力監視の仕組みを強化し透明性の確保と情報公開を促進しつつ、さらに地域の多様性や実情にも十分に配慮して地方自治の本旨に則った制度設計とする必要がある。かかる観点より、当連合会は、デジタル改革関連6法案について、プライバシーや個人情報の保護、地方自治の本旨などに十分に配意した上で、慎重かつ十分な国会審議が尽くされ、必要な修正がなされることを求める。
2021年(令和3年)3月17日
日本弁護士連合会
会長 荒 中