日本弁護士連合会は、5月14日、「入管法改正案(政府提出)に改めて反対する会長声明」を公表しました。(末尾に掲載)
現在、衆議院法務委員会で審議中の入管難民法改正案は、採決に向けて大詰めの状況です。
改正案は、難民認定手続き中の外国人でも、申請回数が3回以上の場合は強制送還を可能にすること等ですが、日弁連は、「収容期間の上限や司法審査の見送り、支援者や弁護士にその立場とは相容れない役割を強いる監理措置制度、ノン・ルフールマン原則に反するおそれのある難民申請者に対する送還停止効の一部解除、刑罰をもって強制する必要性を欠いた退去命令制度等、多くの問題点を有する」とし、抜本的な修正がなされない限り、本改正案に反対のため、「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」を政府に提出して問題点を指摘してきました。
与党側は、14日の採決方針でしたが、3月6日に名古屋出入国在留管理局に収容中死亡したスリランカ人女性の出入国在留管理庁の中間報告に、医師の診療記録と食い違う記述があることから虚偽報告との疑いがあり、死亡原因、医療体制の問題など真相解明のため、野党側が入管施設の監視ビデオ映像の即時開示を求めましたが、与党側が応じず、与野党交渉が決裂しました。
この中間報告によると、昨年8月、不法残留で逮捕された当時30代の女性は、名古屋出入国在留管理局に収容され、今年1月中旬頃体調不良を訴えましたが、仮放免は認められず、3月6日に死亡。女性は死亡前の2月5日、外部の消化器内科を受診。中間報告は「A(女性)から点滴や入院の求めはなく、医師から点滴や入院の指示もなかった」と状況を記しましたが、診察医師の診療記録には「内服できないのであれば点滴、入院」との記述があり、入管庁も先月9日の中間報告の公表前にこれを把握していました。このため、野党側は「虚偽報告だ」「入管庁に法律を改正する資格はない。責任問題だ」と追求していました。
野党側は、法務委員会委員長の解任決議案を提出、与党側は18日の衆院本会議で解任案を否決した上で、改正案を委員会可決し、衆院を通過させる考えですが、6月16日の会期末を控え参院審議も含め予断を許さぬ状況です。
日弁連は、「今回の死亡事件の十分な真相究明も本改正案の重大な問題点も置き去りにしたまま審議が行われてきたことに強く抗議し、引き続き抜本的修正がなされない限り、本改正案に反対するとともに、今後もこのような状況が変わらないのであれば、今回の本改正案の廃案を求めざるを得ない」としています。
入管法改正案(政府提出)に改めて反対する会長声明
現在、衆議院で審議されている出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本改正案」という。)は、収容期間の上限や司法審査の見送り、支援者や弁護士にその立場とは相容れない役割を強いる監理措置制度、ノン・ルフールマン原則に反するおそれのある難民申請者に対する送還停止効の一部解除、刑罰をもって強制する必要性を欠いた退去命令制度等、多くの問題点を有する。そのため、当連合会は、本年2月26日付けで「出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に対する会長声明」を公表し、抜本的な修正がなされない限り、本改正案に反対である旨を述べ、さらに本年3月18日付けで「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」を発出し、問題点を明らかにした。
この間、3月6日に名古屋出入国在留管理局で被収容者の死亡事件がまたも発生した。当連合会は、同月30日、独立した第三者委員会を設置した上、死亡原因、医療体制の問題などの調査を迅速かつ徹底的に実施することとともに、改めて本改正案を抜本的に見直すことを求めた。
さらに、本改正案につき、3月31日、日本も理事国を務める国連人権理事会の特別報告者と恣意的拘禁作業部会が、日本政府に対し、国際人権法に違反する旨の懸念を表明して再検討を強く求め、4月9日には国連難民高等弁務官事務所も「非常に重大な懸念」を表明した。また、5月11日には、国際人権法・憲法の研究者ら124名が、国際人権法との合致の確保を求め、廃案を含む抜本的な再検討を求める声明を発表している。
しかしながら、3月6日の死亡事件が十分な真相究明に至っておらず、かつ本改正案の前記の問題点についても議論が深まらないまま、本改正案の審議が進められており、採決の可能性も報じられている。
よって、このような情勢の下、当連合会は、今回の死亡事件の十分な真相究明も本改正案の重大な問題点も置き去りにしたまま審議が行われてきたことに強く抗議し、引き続き抜本的修正がなされない限り、本改正案に反対するとともに、今後もこのような状況が変わらないのであれば、今回の本改正案の廃案を求めざるを得ない。
2021年(令和3年)5月14日
日本弁護士連合会
会長 荒 中