6月8日、福島県弁護士会は、「福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明」を公表しました。
福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明
1 新型コロナウイルスの感染拡大により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念が広がる中、最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論が多数を占め、中央最低賃金審議会は、2020年度(令和2年度)の地域別最低賃金額の引き上げ額について目安額の提示を見送った。これを受けて、福島地方最低賃金審議会も引上げ額を抑制し、2円の引上げにとどまった。
しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。フランスでは、2021年(令和3年)1月に9.76ユーロから10.03ユーロに引き上げられた。ドイツでは、2021年(令和3年)1月に9.35ユーロから9.50ユーロへ引き上げられ、さらに同年7月から9.60ユーロへ、2022年(令和4年)1月に9.82ユーロへ、同年7月に10.45ユーロへ引き上げとなることが決定された。多くの国で、コロナ禍でも最低賃金の引き上げが実現しているのである。わが国でも2021年度(令和3年度)の大幅な引き上げが必要である。
2 最低賃金の地域間格差が依然として大きく、拡大していることは重大な問題である。
2020年度(令和2年度)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1013円であるのに対し、福島県は時給800円であり、213円の差がある。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が固定、拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でもきわめて効果がある。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費についての最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっている(2017連合リビングウェイジ~労働者が最低限の生活を営むのに必要な賃金水準の試算~、中澤秀一静岡県立大学短期大学部准教授作成「最低生計費調査の結果一覧」)。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されず、地域間格差を解消するため、地域別最低賃金を大幅に引き上げなければならない。
3 最低賃金引き上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものとはなっておらず、利用件数はごく少数である。わが国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。諸外国で採用されている社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効である。
4 コロナ禍で地域経済が疲弊している今こそ、最低賃金の引き上げによって地域経済を活性化することが求められている。当会は、国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、福島地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保するために、中央最低賃金審議会が、本年度、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すべきことを求めるものである。
2021年(令和3年)6月8日
福島県弁護士会