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エネルギー基本計画は原発ゼロ前提に、原子力市民委員会

 原子力市民委員会は、9月24日付けで、「声明:第6次エネルギー基本計画は原発ゼロを前提にすべきである」を発表しました。
 「福島原発事故から3度目となる政府の「エネルギー基本計画」の改定作業が現在進められており、10月4日まで計画(案)に対するパブリックコメント(意見募集)が実施」されていることから、「声明:第6次エネルギー基本計画は原発ゼロを前提にすべきである」を発表したものです。
 声明では、「気候変動対策を本格的に実施しなければならない今日、政府は、原子力発電に関する幻想をもつべきではない」とし、「原子力発電は衰退しており、気候危機の対策にはなりえない」「新規制基準では原発の安全性が確保されない」「現行の原子力損害賠償制度の下では万が一の事故に対応できない」など7項目を示して、「政府案を直ちに撤回し根本から見直すべきである」としています。
 以下に紹介します。


2021年9月24日

声明:第6次エネルギー基本計画は原発ゼロを前提にすべきである

原子力市民委員会
  座  長:大島堅一 座長代理:満田夏花 
  委  員:荒木田岳 大沼淳一 海渡雄一 金森絵里
       後藤政志 島薗 進 清水奈名子 筒井哲郎
       伴 英幸 松原弘直 除本理史

 2021年9月3日に、政府の第6次エネルギー基本計画(案)(以下、政府案)のパブリックコメント(意見募集)が開始された。福島原発事故10年の現実を踏まえれば、エネルギー政策における原子力発電の位置づけを根本から見直す必要がある。しかしながら、政府案は、福島原発事故の教訓を踏まえておらず、また、エネルギーを取り巻く厳しい現実にも対応していない※1。エネルギー政策において政府が重要な基準としている「S+3E」の観点からみても、福島原発事故のような過酷事故を、日本社会は二度と受け入れられない。

 今回の政府案は、まず気候変動対策の目標(2030年度に2013年度比で温室効果ガス排出を46%削減)が設定され、その目標達成のためにつくられたところに新しさがある。加えて、再生可能エネルギーについて、「最優先の原則の下で最大限の導入」とした点は評価できる。

 ところが、原発については、「低炭素の準国産エネルギー源」で「運転コストが低廉」である「重要なベースロード電源」とされている。また、「可能な限り原発依存度を低減する」としているにもかかわらず、2030年度の総発電電力量に占める原子力の割合(以下、原発比率)を20~22%に設定している。これらは第5次エネルギー基本計画と全く変わっていない。つまり、相変わらず原発維持を前提にエネルギー政策を構築しようとしているわけである。

 気候変動対策を本格的に実施しなければならない今日、政府は、原子力発電に関する幻想をもつべきではない。

 福島原発事故10年で、原発を取り巻く情勢は事故前と一変し、原子力発電は大きく衰退している。原子力市民委員会は、以下の7つの点で、政府案を直ちに撤回し根本から見直すべきであると考える。

1.原子力発電は衰退しており、気候危機の対策にはなりえない
 政府案では、2030年度に原発比率を20~22%にし、2050年度に向けては原発を「必要な規模を持続的に活用」するとされている。一方、再生可能エネルギーについては「主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入」に取り組むとされ、総発電電力量に占める比率を2030年度に36~38%にするとされている。その上で、再エネと原発と合わせた「非化石電源」の割合を約6割にするとされている。しかし、原発比率の目標は非現実的であり、この数字は達成不可能である。

 福島原発事故は甚大な被害を現実にもたらした。また、近年では事業としての原発の継続が経済的に難しくなっている上に、東京電力柏崎刈羽原発で核セキュリティに関する重大問題が発覚する等、事業者の維持・管理能力自体が失われてきている。これらの現実からすれば、原発を維持するべきではないし、現実にも不可能である。

 原発を取り巻く現実は非常に厳しい。原発の発電電力量は2014 年度にゼロとなり、その後再稼働した原発は10基に留まっている。2020年度の原発比率は4%程度にすぎない。その中で、2030年度に原発比率を20~22%にするためには、現在廃炉が決定されていない原発 36 基(建設中の3基を含む)の約9割を稼働させ、さらに原則 40 年間と決められている運転期間を20 年間延長させる必要がある。しかし現実には、残された原発のうち9 基は適合性審査申請の目途さえたっていない。2030年までに残された時間は短い。30基以上を稼働させるなど不可能である。

 国民からも、原発再稼働に対しては支持が得られていない。各種の世論調査によれば、国民の過半数が原発再稼働に反対している。まして、立地自治体や経済界が経済的理由で要望している原発の新設やリプレースも実現の見通しはたっていない。

 不可能な原発維持に固執すれば、かえって必要な気候変動対策を見誤ることになる。気候変動対策を本格的に進めるには、まずは石炭火力発電の全廃が求められる。省エネを徹底的に進めつつ、再生可能エネルギー目標を引き上げ、系統の柔軟性を確保しながら天然ガス火力と組み合わせれば、石炭火力無しでも電力の安定供給は十分可能である。このことにより、原発ゼロかつ脱石炭の下で2030年の温室効果ガス排出量削減目標を達成すべきである。

2.新規制基準では原発の安全性が確保されない
 政府案では、原子力政策の再構築の一環として、事業者による自主的な安全性向上と国による安定的な事業環境を整備するとされている。その中で、安全性については原子力規制委員会に判断を委ね、その判断を尊重して再稼働を進めるとしている。しかし、そもそも、原子力規制委員会の「規制基準」は安全性を保証するものではない。

 運転開始から40年を経た老朽原発(東海第二、高浜1、2号機、美浜3号機)の運転延長が、なし崩し的に認められている。しかし老朽原発には安全上の深刻な問題がある※2。原発のテロ対策も明らかに不十分である。原子力防災に対する政府や自治体の危機管理対処能力もきわめて貧弱なままである。多くの国民や周辺自治体などから原発再稼働に反対の意思表示がされているにもかかわらず、再稼働にあたっての同意は、立地自治体のみでよいとされている。このように、政府が原発を稼働させる大前提としている「安全性の確保」はされていないし、国民の意見も無視されている。

3.現行の原子力損害賠償制度の下では万が一の事故に対応できない
 福島原発事故の教訓を踏まえれば、現行の原子力損害賠償制度に大きな問題があることは明らかである。
 まず、福島原発事故の被害に対する賠償や被害回復は、福島事故発生後10年たっても十分に進んでいない。賠償に要する費用の多くは、大部分が国民負担となっている。そもそもいかに賠償制度を構築しようとも、そのことによって原発の甚大な事故影響が解消されるわけではないが、少なくとも、原発をもつ電力会社が原発事故に対する責任を全て負う制度を構築した上でなければ、原発再稼働は許されるべきではない。

4.使用済核燃料の再処理、廃炉や放射性廃棄物等の問題が放置されている
 「もんじゅ」廃止による高速炉開発の挫折と六ヶ所再処理工場の度重なる完成延期で、国が進めてきた核燃料サイクルは破綻しており、同政策は直ちに撤廃すべきである。仮に再処理工場を稼働させたとしても、再処理プロセスで発生した大量の放射性物質が大気中や海洋中に放出され、行き場のない核のごみが大量に生み出されるばかりでなく、日本が保有するプルトニウムがさらに増加する事態となる。

 原子力市民委員会が繰り返し示してきたように、核廃棄物の問題は深刻である※3。政府案では、「対策を将来へ先送りせず」としているが、再処理などの核燃料サイクルや高レベル廃棄物処理などの根本的な問題は先送りされ、先行きがまったく見えない状況にある。

5.放射性廃棄物の輸出を認めるべきではない
 政府案において、廃炉に伴い発生する大型機器について、例外的に輸出することが可能となるよう必要な輸出規制の見直しを進める、と記載されている。これは放射性廃棄物を自国内処理するという原則を覆すことになる。

 日本で管理・処分が困難な放射性廃棄物を他国に押し付けてはならない。現在の規制を緩和すべきではない。

6.原子力発電の真のコストは高く、経済性はない
 政府案では、原発の「運転コストが低廉」であるとされている。しかし、この記述は政府の試算にも事実にも反している。

 政府案の策定に先立ち、総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループが発電コストについての試算を発表した(2021年7月)。これによれば、2030年に原発(モデルプラント)を新設する場合、発電コストは太陽光発電よりも高くなる。

 この政府の試算には、福島原発事故によって生じた放射性廃棄物の処分費用が含まれていないなどの問題が残されている。そのため、事故発生後に判明した費用を適切に組み込めば、原発のコストはさらに上がる。実際、現段階で見込まれている電力会社の追加安全対策費は全国で5兆円を超えており、再稼働原発を含め多くの原発が経済性を失っている。「運転コストが低廉」とは全く言えない。

7.国民の意思が反映されていない
 政府案では、原発の様々な問題について、「社会的信頼の獲得」「国民の懸念の解消に全力を挙げる」「国民からの信頼確保に努める」としているにもかかわらず、エネルギー基本計画策定にあたって、国民の意思は全く反映されていない。

 経済産業省が所管する審議会は、原発を推進してきた産業界や電力会社の意向が色濃く反映される。福島原発事故発生後、民主党政権下においてエネルギー政策に関する「国民的議論」が実施され、それをふまえて2012年9月に「革新的エネルギー・環境戦略」が策定され、原発ゼロを目指すことが決定された。ところが、同年暮れに誕生した自公政権は、「国民的議論」の成果を完全に無視し、原発維持政策を採り続けてきた。

 国民の信頼を取り戻すためには、原発にこだわり続ける政府案を撤回し、原発ゼロに向けたエネルギー政策の見直しを行う必要がある。

以 上
 

本件についての問い合わせ先:原子力市民委員会 事務局
〒160-0003 東京都新宿区四谷本塩町 4-15 新井ビル 3 階
(高木仁三郎市民科学基金内)
TEL/FAX: 03-3358-7064
Email: email@ccnejapan.com
 

※1 原子力市民委員会『原発ゼロ社会への道 2017 ― 脱原子力政策の実現のために』第 5 章(2017 年 12 月)http://www.ccnejapan.com/?p=8000
※2 原子力市民委員会 特別レポート5『原発の安全基準はどうあるべきか』(2017 年 12 月) http://www.ccnejapan.com/?p=7950
※3 原子力市民委員会特別レポート2『核廃棄物管理・処分政策のあり方』(2015年12月)http://www.ccnejapan.com/?p=6183、『高レベル放射性廃棄物問題への対処の手引き』(2017年4月)http://www.ccnejapan.com/?p=7666、『原発ゼロ社会への道 2017』(前掲)第3章「核廃棄物政策の課題」など

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by kazu1206k | 2021-09-27 22:11 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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