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被災者の命と尊厳を守り抜く宣言、日弁連

 日本弁護士連合会は、10月14・15日、岡山市で、第63回人権擁護大会・シンポジウムを開催し、5つの宣言・決議を採択しました。以下に、「弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言 ~東日本大震災から10年を経て~」を紹介します。

弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言 ~東日本大震災から10年を経て~
 
東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)が発生してから、10年が経過した。また、この10年の間には、全国各地で数多くの災害が発生した。

当連合会は、災害からの復興について、憲法が保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」でなければならないことを強調し、災害発生の都度、各種の法律相談、被災者・支援者等への情報提供、立法及び制度運用に係る提言、支援者間の連携構築への働きかけ等の様々な活動を展開してきた。しかし、現在もなお「人間の復興」に至ったとはいえない被災者も多数存在し、被災者・被害者への誹謗・中傷・差別等の新たな二次的な被害も生じている。

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我々弁護士は、基本的人権の擁護を使命とし、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力する義務を負う(弁護士法第1条)。災害からの復興が、基本的人権の回復のための「人間の復興」を目指すものであることからすると、復興への関わりや被災者支援活動は、我々弁護士の使命に基づく本来的な業務の一環である。

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災害に起因する死亡には、直接死のみならず、災害関連死が含まれる。東日本大震災及び原発事故並びにその後の災害では、多くの災害関連死が発生したとされる。直接死を減らすためには、事前の防災・減災活動が重要であるが、災害関連死を減らすためには、行政等による認定の有無にかかわらず、なるべく多くの過去の事例を分析・検証し、対策に取り組むことが重要である。

当連合会は、2018年8月23日付け「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」において、国に対し、調査機関の設置、同機関による災害関連死の事例の集積・分析及び結果の公表を求める提言を行った。その趣旨が実現すれば、将来の災害関連死を予防するとともに、過去の審査の適否を検証することが可能となり、被災者の命や遺族の尊厳を守ることにつながる。

我々弁護士は、被災者・被害者が、直接死だけでなく災害関連死によって命を落とすことのないように、十分な調査とその分析結果に基づく効果的な対策の実現に向けて徹底して取り組んでいく。

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原発事故による避難と生活環境の激変は、特に高齢者・障がい者等の「避難弱者」に多大な身体的・精神的ストレスを与えた。岩手・宮城両県と比べ、福島県では、災害関連死の件数が直接死の件数を大きく上回っており、原発事故による避難が少なからず影響しているものと考えられる。避難先が未整備の状況で避難指示を発令した政府の対応の是非や、環境の激変による避難者の心身への影響について、一人ひとりの事情を考慮した丁寧な検証が必要である。

また、多くの被害者は、原発事故により、住居を奪われ、ふるさとを喪失し、生業を失った。これらは、生活上の自己決定権と密接に関連する、財産権、居住・移転の自由、職業選択の自由等の経済的自由権に対する重大な侵害である。加えて、いわれのない誹謗・中傷や、避難した人と避難しなかった人の間の被害者同士の心理的対立等によって、被害者の個人の尊厳がさらに脅かされている。

我々弁護士は、原発事故被害者が今なお被っている様々な被害に寄り添い、基本的人権の回復のために力を尽くしていく。

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当連合会は、2016年2月19日付け「被災者の生活再建支援制度の抜本的な改善を求める意見書」において、災害ケースマネジメントの必要性及びその制度化を提言した。災害ケースマネジメントは、一人ひとりの被災者に着目し、個々に必要とされる支援を検討するものである。

近年の災害では、いくつかの自治体において同手法による被災者支援が展開され、鳥取県では条例に災害ケースマネジメントの手法が明記されるに至った。

我々弁護士は、今後も、災害ケースマネジメントの制度化を通じ、個人の尊厳に配慮したきめ細かな被災者支援の実現のために尽力していく。

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昨年から猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症について、当連合会は災害の一つと位置付けている。いわゆるコロナ禍においては、人々の移動や社会活動、経済活動等が強く制限され、特に、高齢者、障がい者、女性、非正規労働者等の社会的弱者の健康で文化的な最低限度の生活を送るという重要な憲法上の権利が脅かされている。加えて、感染者・医療従事者・福祉施設関係者等に対する誹謗中傷、その家族も含めた差別・偏見等の広がり等、原発事故同様に、個人の尊厳がないがしろにされている状況も看過できない。

我々弁護士は、現在も感染状況が予断を許さないコロナ禍において、生活全般に及ぶ影響により発生する様々な人権問題に注意を払い、個人の尊厳を守るために活動していく。

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当連合会は、東日本大震災・原発事故から10年というこの機会に、改めて、基本的人権の擁護を使命とする我々弁護士にとって、被災者支援が重要な本来的業務であることを確認し、被災者の命と尊厳を守るために、今後も被災者支援、復興支援の活動に全力を尽くしていく決意である。

以上のとおり宣言する。

2021年(令和3年)10月15日
日本弁護士連合会














by kazu1206k | 2021-10-25 22:06 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


by kazu1206k