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「地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を」日弁連決議

 日本弁護士連合会は、10月14・15日、岡山市で、第63回人権擁護大会・シンポジウムを開催し、5つの宣言・決議を採択しました。以下に、「地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議」を紹介します。

地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議

地方では、シャッター通り化した商店街の光景が広がっている。基盤産業の後退や就業機会の縮小などが進み、住み慣れた地域を離れる者が後を絶たず、多くの地域で人口減少が加速している。他方、東京都には上場企業の半数以上が集中し、千葉県、埼玉県及び神奈川県を含む首都圏に多くの若者が転入して総人口の3割近くが集中するなど、東京圏への一極集中が進んできた。コロナ禍の到来や近年の大災害は、一極集中が致命的な弱点を抱えていることを浮き彫りにした。

このような地方を中心とした地域の衰退は、グローバル化の中で経済性や効率性を優先した国主導の政策によって、雇用や社会保障の不安定化・地域間格差の広がり、大規模店の規制撤廃等による地域産業の後退、人員削減等による自治体の公共サービスの低下がもたらされたことなどが要因である。国は、今後も続く人口減少への対応として、低密度化する地域の効率的な運営のため、公共施設等の機能を地域の中心部に集中させる政策など地方自治体の在り方に関わる方針を打ち出しており、今後、憲法が保障する地方自治制度が歪められ、取り残された地域の住民の生存権が脅かされる危険もある。

憲法では、人権保障と民主主義を実現するべく、地域の住民が地方政治に参画して地域のことを自ら決定すること(住民自治)が不可欠であり、そのために地方自治体の自律権を保障(団体自治)している(憲法第92条「地方自治の本旨」)。地域は「人間の生活の場」であるから、住民の参画により、地域の実情に応じた住民のニーズを充たす施策や自治体の在り方を実現し、また、住民生活が向上するよう地域経済の持続的発展を図ることが必要である。そこで、当連合会は、地域の個性の尊重と自主性の発揮により地域を再生し、誰もが個人として等しく尊重され安心して暮らせる社会の実現に向けて(憲法第13条、第14条、第25条)、国及び地方自治体に対し、次の諸施策の実施を求める。

1 地域における人間らしい労働と生活の確立、地域間格差の解消
病院の統廃合・病床数の削減、福祉分野の労働者や施設の不足、保育施設や学校の統廃合等を背景に、地域によって、医療・福祉サービスや保育・教育を受ける機会が減少するなど、コミュニティの基盤が脆弱となっていることから、住民が人間らしく働き生活できる地域づくりを目指した施策が重要である。
 (1)
地域によって医療・介護・障害福祉サービスにアクセスできないことのないよう、①地域医療構想を見直し、地域に不可欠な公立病院・公的医療機関を維持・増設し、②地域の需要に見合う入所・通所介護施設を公的責任で新設・増設するとともに、③医療・介護・障害福祉サービスの担い手不足を解消するため、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの事業者報酬を見直して、労働条件を大幅に改善し、地域に安定した雇用を創出すべきである。

 (2)
①役所、保育所や小学校、中学校、高校の統廃合等を見直し、②公営住宅の整備・家賃支援、給食費・未成年者医療費の無償化、起業・就業支援、移住・定住支援等を充実させ、③空き家を活用して、不足する高齢者・障害者・子育て施設、コミュニティ施設などに転用し、若者をはじめ住民が暮らしやすい地域づくりを進めるべきである。

 (3)
社会保険料の軽減等の実効的な中小企業支援を図りつつ、最低賃金法を改正して全国一律最低賃金制度を実施するとともに、公契約法・公契約条例を制定し、賃金の引上げと賃金の地域間格差の解消を図るべきである。

2 地域経済の好循環サイクルの確立による地域経済の持続的発展
地域経済の好循環サイクルを確立し、地域内の労働者や事業者の生産と生活を維持・拡大して、グローバル経済に大きく左右されない、地域経済の持続的発展を図ることが重要である。
 (1)
地域経済の状況把握、自然環境や歴史的建造物を含む地域資源の再評価とビジョンの構築、地域における雇用の確保とマッチング、起業の支援等を、行政だけでなく地域の事業者や市民が参画する検討会議を設置して進めるなど「協働」を重視しつつ地域主体で推進すべきである。その際、農林漁業などの第1次産業、小水力発電・木質バイオマスなどの再生可能エネルギー事業、教育・福祉分野の事業の推進など、各地域の個性を活かし、環境・社会・経済のバランスの良い統合的取組による相乗効果の創出を目指すべきである。

 (2)
中小企業振興基本条例を制定し、条例の理念を具体化する実践により、地域経済の基盤をなす中小企業を積極的に育成、支援すべきである。

3 地方自治体の運営基盤の強化と地方自治の充実
公共サービスを担う地方自治体は、地方交付税の削減等により財政が圧迫され、人員削減・非正規化・業務の外注化が進み、コロナ禍で露見した保健所の削減に見られるように、公共サービス水準の維持が困難になっている自治体があり、平成の大合併により役場が大幅に縮小した自治体もある。自治体が、住民のニーズを充たし、地域経済を支え、住民の意思を反映した質の高い公共サービスを提供できるよう、自治体の在り方を整備し地方自治を充実させる必要がある。
 (1)
財政面においては、財政を健全化し財政運営の自主性を高めるため、地方交付税の大幅な増額、地方税の拡充などの地方税制改革が必要である。

 (2)
人員体制においては、①国は定員抑制の誘導を止め、恒常的な職務に就く職員は常勤職員として採用することを原則とし、②地方公務員においても同一労働同一賃金、均等(均衡)待遇のルールに依拠して、会計年度任用職員の賃金その他の労働条件を改善し、③行き過ぎた民間委託を見直していくべきである。

 (3)
国の審議会等で提起されてきた中心市主導型の自治体間連携や自治体の役割をサービス提供主体から「プラットフォーム・ビルダー」へ転換するとの方針等は、住民自治と団体自治を脅かすことが強く懸念されることから、地方ごとの課題を具体的に把握し、かつ、地方自治体の平等性・自律性を尊重して、その課題を住民自身が民主的過程を通じて自律的に解決できる仕組みを構築するよう取り組んでいくべきである。
 (4)
住民の多様な意見の反映により住民自治を実効化するため、社会的弱者・少数者を含む多様な意見を反映できる仕組みを整備すべきである。そのための方策として、議会における女性のクオータ制の導入も含めた諸施策について、今後具体的な検討を進めるとともに、永住外国人への地方参政権の付与を実現すべきである。

当連合会は、地域の再生のためには、そこで生活する人の多様性を尊重し、住民自治と団体自治により、地域から人権保障と民主主義の実現を目指す住民自らの取組が不可欠であるとの認識に立ち、地域の構成員である全国の弁護士会及び弁護士とともに、国主導の政策の問題点の是正を求めつつ、市民、市民団体、地方自治体と協働して率先して地域づくりに取り組み、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて全力を尽くす決意である。
以上のとおり決議する。


2021年(令和3年)10月15日
日本弁護士連合会











by kazu1206k | 2021-10-26 22:38 | 地域 | Comments(0)

佐藤かずよし


by kazu1206k