日本弁護士連合会は、「行政及び民間等で利用される顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」(9月16日付)を、警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長、総務大臣、厚生労働大臣、個人情報保護委員会委員長、都道府県知事及び政令指定都市市長に提出しました。
日弁連は、2012年に「監視カメラに対する法的規制に関する意見書」を公表して、監視カメラの設置や運用に関し、プライバシー権や移動の自由、表現の自由、思想信条の自由等が不当に侵害されないよう、基準や要件を定めた法律を制定し規制する必要があること、特に、官民を問わず、データベースとの自動照合による個人識別機能を使用することの禁止等を提言。2016年の意見書でも、監視カメラ等で撮影された被写体の顔画像データから顔の特徴等を数値化した顔認証データを生成し、あらかじめ顔認証データを登録したデータベースと照合する顔認証システムについて、警察が利用するには法律の根拠が必要であることを指摘してきました。
しかし、現状は、顔認証データベースやこれを利用して照合する顔認証システムも、高度のプライバシー侵害性等に配慮する法律は制定されておらず、 警察による顔認証データベースや顔認証システムの利用が進み、さらに他の行政機関や民間にまで拡大している状況であることから、意見書を提出したものです。
意見書の趣旨は、以下のとおりです。
1 不特定多数者に対する顔認証システムの利用については、行政部門と民間等とを問わず、市民のプライバシー権等が不当に侵害されないように、国は、①明示の同意のない顔認証データベース等の作成及び顔認証システムの利用の原則禁止、②例外的に行政機関や民間事業者等が顔認証データベース等を作成し顔認証システムを利用することができる場合の厳格な条件、③個人情報保護委員会による実効的な監督、④顔認証システムに関する基本情報の公表、⑤誤登録されている可能性のある対象者の権利保護などを盛り込んだ法律を制定するなど、厳格な規制を行うべきである。
2 前項以外の場合、すなわち特定人に対する顔認証システムについても、また、顔認証データベースを作成しない記録媒体中の顔認証データと特定の照合希望者とのその場限りの照合についても、行政部門と民間部門とを問わず、市民のプライバシー権等が不当に侵害されないように、その利用は、以下の要件を満たす場合に限定されるべきである。
① それを許容する明確な法律が存在すること
② 同意していない者に対し、顔認証システムが適用されないこと
③ 同意に任意性があり、同意しなくても他の方法を選べることなどにより不利益を受けないこと
④ 設置者が、個人情報保護委員会に、顔認証システムを設置利用していることを届け出ること
3 少なくとも以下の施策が中止されなければならない。
① 重大組織犯罪の捜査の場合に限定した法律を定めることなく実施される、警察による顔認証システムを利用した捜査
② 医療機関受付での個人番号カードを用いた顔認証システムの利用
③ 個人番号カードを健康保険証、運転免許証等と紐付けることにより顔認証データの利用を著しく拡大させ、さらに顔認証システムの利用範囲を拡大させること
そして、行政一般について、顔写真による本人確認で用が足りるにもかかわらず、ことさらに顔認証データの収集及び照合利用をすることは、その取扱いの必要性がないから許されるべきではない。