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最賃額の引上げと全国一律最賃制度の実施を求め、日弁連声明

 日本弁護士連合会は。4月13日付けで「低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」を公表しました。以下に、紹介します。

低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染まん延により、働く者の収入が減少している。2021年10月の公益財団法人連合総合生活開発研究所の調査によれば、1年前と比較した現在の賃金収入について、「かなり増えた」又は「やや増えた」と回答した者が19.3パーセント、「やや減った」又は「かなり減った」と回答した者が28.6パーセントであった。また、1年前と比較した世帯収入について、「かなり増えた」又は「やや増えた」と回答した者が16.6パーセント、「やや減った」又は「かなり減った」と回答した者が30.7パーセントに及んでいる。さらに、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要である。

最低賃金額について、フランスでは、2021年1月に10.25ユーロに引き上げられたが、さらに同年10月から10.48ユーロに引き上げられた。ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロに引き上げられたが、2022年1月に9.82ユーロとなり、同年7月に10.45ユーロへ引上げとなる。さらに、同年10月から12ユーロに引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでも、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンドに引き上げられたが、さらに2022年4月から9.5ポンドに引き上げられた。韓国では、2021年1月に8720ウォンに引き上げられたが、2022年1月から9160ウォンに引き上げられた。このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しており、我が国でも2022年において大幅引上げが必要である。

最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題である。2021年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円であり、221円の開きがある。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。

地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

現在、厚生労働省の中央最低賃金審議会において「目安制度のあり方に関する全員協議会」が設置され検討がなされており、2023年3月をめどに報告がまとめられる予定である。中央最低賃金審議会は、地域別最低賃金引上額の目安を決定するに当たって、全国をA~Dの4つに区分し、これまではそれぞれの引上額の目安に差を設けていた。しかしながら、2020年、2021年は、A~D全ての地域に一律の目安額を示した。さらにC、D地域の地方最低賃金審議会では目安額を上回る答申が相次いだ。全員協議会においては、地域間格差の拡大をもたらした目安制度がもはや機能不全に陥った現状を直視し、目安制度に変わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきである。

最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、利用件数はごく少数である。我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。具体的には、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効であると考えられる。

最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当連合会は、引き続き国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、各地の地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、中央最低賃金審議会が、本年度、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すべきことを求めるものである。


2022年(令和4年)4月13日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治











by kazu1206k | 2022-04-18 21:21 | 雇用 | Comments(0)

佐藤かずよし


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