5月3日は、日本国憲法が施行されてから75周年の憲法記念日。
日本国憲法は、アジア太平洋15年戦争の敗戦を受けて、大日本帝国憲法の改正手続の後、1947年5月3日に施行されました。
憲法前文は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の三大原理を唱い、平和主義、個人の人権として平和的生存権を強調しています。平和主義の憲法9条と社会権である生存権を国民に保障し国にその向上と増進を求める憲法25条の重要性が示されています。
そして、憲法は、主権者である国民が国家権力を縛るという立憲主義の下で、個人の権利を保障するため国家権力を規制する最高法規です。
いま、3年目に入ったコロナ禍の中で、格差の拡大、貧困の深刻化、諸物価の値上げなどが市民の生活を直撃し、生存権が脅かされています。
2月以来、ロシアによるウクライナ侵攻により、毎日毎日、テレビが戦争の悲惨な画像を流し続け、戦争プロパンガンダ化しています。危機に乗じて、「敵基地攻撃能力」や「核の共有」が政治の全面に出てきました。危機便乗型の軍事増強、人々と日本社会を戦争に動員しようとする喧騒が高まっています。
政治と社会の劣化、硬直化、刹那的人間関係。原発震災後の被災者に対する、憲法25条の生存権を踏みにじる棄民化政策の数々などなど。厳しい2022年の日本の憲法状況をしっかり認識し、行動しなければならない時です。
5月3日、日本弁護士連合会は、会長談話を公表しました。以下、ご紹介します。
憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
本日、日本国憲法施行75周年の憲法記念日を迎えました。
新型コロナウイルスの感染拡大はいまだ収束に至らず、社会生活が大きく変化するとともに、社会における格差の拡大や固定化も心配されます。
今年2月には、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まりました。世界中の非難の声にもかかわらず戦闘は続いており、多くの犠牲者が出ています。犠牲になった方々への哀悼の意を表するとともに、ロシアに対し、速やかな軍事侵攻の中止と撤退を求めます。
このように不安な社会情勢の中で、非常事態に備えて憲法改正が必要であるとの論調が強まっています。国会の憲法審査会でも、コロナ禍において憲法に緊急事態条項を創設すること等が議論されています。また、昨年の通常国会においては、憲法改正手続法の一部を改正する法律が成立しています。
しかし、憲法改正の要否の検討は、拙速に進めるべきことではありません。様々な観点を踏まえ、国民の間で十分に議論を尽くしていくことが必要です。さらに、憲法改正手続法においては、テレビ・ラジオの有料広告放送の規制、インターネット広告の規制、最低投票率制度等、検討や見直しを行うべき重要な課題が残されています。これらの課題を残したままで憲法改正の発議はなされるべきではありません。
5月15日は、沖縄の本土復帰から50周年を迎える日です。しかし、現在も沖縄には多くの米軍基地があり、沖縄県民の人権にかかわる様々な問題が生じています。この節目の年に、改めて沖縄の歴史に目を向け、平和と人権の大切さを噛みしめ、沖縄県民の心に寄り添いたいと思います。
当連合会は、不安が強まる社会情勢の下においても、自由、民主主義、人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を有する日本国憲法の理念の下、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を果たすべく、積極的な活動を続けてまいります。
2022年(令和4年)5月3日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治