5月9日、日本弁護士連合会は、「こども施策の新たな推進体制等に関する会長声明」を公表しました。
これは、現在、国会で審議中の「こども家庭庁設置法案」等について、「『こども基本法案』には子どもの権利を保障するための制度として当連合会が提言した子どもの権利擁護委員会(子どもコミッショナーともいわれている。)の設置についての提案がない。子どもの権利擁護委員会は子どもの権利が守られているか否かを独立した第三者としてモニタリングする役割があることはもちろんであるが、それとともに忘れてはならないのは、子どもの権利侵害を調査し、救済活動をする権限があることである。日本では、40余りの地方公共団体に、子ども条例に基づきいじめや虐待などの様々な子どもの問題について当事者である子ども自身から相談を受け、関係機関とも連携しながら相談救済機関が活動しており、国連の子どもの権利委員会からも一定の評価を得ている」として、「全ての子どもの全ての権利が保障される社会の実現のために、子どもの権利擁護委員会の設置が必要であることを改めて指摘し、『こども基本法案』等の審議に当たっては、同施策の実現がなされるよう要請する」としています。
以下に、声明全文を紹介します。
こども施策の新たな推進体制等に関する会長声明
今般、政府は、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(令和3年12月21日閣議決定)に基づき、2022年(令和4年)2月25日に「こども家庭庁設置法案」及び「こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案」を閣議決定し、第208回通常国会に提出した。
これに併せて、2022年(令和4年)3月1日には立憲民主党議員から「子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案」が、さらに同年4月4日には、自由民主党及び公明党議員から「こども基本法案」が、衆議院に提出され審議されている。これまで各省庁にまたがり実施されていた子ども施策の総合調整を事務とする機関を国に設置し、全ての子どもの全ての権利が保障される社会の実現を目指そうとの動きは一気に加速している。当連合会は、子どもは権利の主体であるという子どもの権利条約の理念が日本に根づくためには包括的な子どもの権利基本法が必要であるとの考えから、2021年(令和3年)9月17日に「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を取りまとめた。当連合会が提言している子どもの権利基本法案のように子どもの権利条約の4つの一般原則をはじめとした子どもの権利を個別具体的な権利として規定すべきであるが、「こども基本法案」等が子どもの権利条約にのっとり、4つの一般原則を明記した上で、基本理念として子どもの人権保障を明記したことは、大いに評価できる。
しかしながら、「こども基本法案」には子どもの権利を保障するための制度として当連合会が提言した子どもの権利擁護委員会(子どもコミッショナーともいわれている。)の設置についての提案がない。子どもの権利擁護委員会は子どもの権利が守られているか否かを独立した第三者としてモニタリングする役割があることはもちろんであるが、それとともに忘れてはならないのは、子どもの権利侵害を調査し、救済活動をする権限があることである。日本では、40余りの地方公共団体に、子ども条例に基づきいじめや虐待などの様々な子どもの問題について当事者である子ども自身から相談を受け、関係機関とも連携しながら相談救済機関が活動しており、国連の子どもの権利委員会からも一定の評価を得ている。
文部科学省の調査によれば、2020年(令和2年)度は児童生徒の自殺の件数が年間400を超えて過去最多となった。少子化の時代に、悩み苦しんでいる多くの子どもたちを救済するには、いじめ、虐待等への個別的な対応ではなく、包括的な子どもの権利侵害の問題として、当事者である子どもの声を聴き、子どもを中心にして迅速に問題を解決するための仕組みを制度設計する必要がある。各地の地方公共団体の相談救済機関が既に活動しているが、国にしか解決できない問題も多い。また、日本のどこでも同じように権利救済がなされなければならない。
以上のとおり、当連合会としては、全ての子どもの全ての権利が保障される社会の実現のために、子どもの権利擁護委員会の設置が必要であることを改めて指摘し、「こども基本法案」等の審議に当たっては、同施策の実現がなされるよう要請するものである。
2022年(令和4年)5月9日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治