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東京高裁に審理継続求め「上申書」「意見書」提出、東電刑事裁判

 5月11日、東電刑事裁判で、被害者参加代理人弁護士が、東京高裁第10刑事部に、「上申書」と「意見書」を提出しました。
 「上申書」は、検察官役の指定弁護士が請求した専門家の証人尋問や、第1原発の現場検証を採用せず、次回6月6日の公判で結審する見通しとしていることに対して、「結審について、本年夏前、6月中にも出されるという最高裁判決、本年7月13日に出される予定の東電株主代表訴訟の東京地裁判決を取り調べた上で結審をするために、本年7月の下旬以降に結審するため、続行期日の指定をしていただきたい」とする内容です。以下に、上申書を紹介します。
 「意見書」は、4月5日に提出した意見書から、刑事裁判では取り調べられていない証拠に基づく部分を除外してまとめたものです。

*記者会見の記事と動画 (IWJの配信)

上申書 (結審のための続行期日の指定を求める)

令和元年刑(う)第2057号
(原審 令和元年9月19日判決(平成28年刑(わ)第374号業務 上過失致死傷被告事件))

被告人 勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄

2022年(令和4年)5月11日
東京高等裁判所 第10刑事部 御中

被害者参加代理人弁護士 河合弘之
          同 海渡雄一
          同 甫守一樹
          同 大河陽子

第1 上申の趣旨

 本件刑事事件の結審について、本年夏前、6月中にも出されるという最高裁判決、本年7月13日に出される予定の東電株主代表訴訟の東京 地裁判決を取り調べた上で結審をするために、本年7月の下旬以降に結 審するため、続行期日の指定をしていただきたい。

第2 上申の理由

1 最高裁判決が夏前に出される見通しである

本件刑事事件と争点(長期評価の信頼性)を同じくする損害賠償請求訴訟の最高裁判決が夏前に出される見通しです。

(1)福島第一原発事故によって放出された放射性物質から逃れるために全国各地に避難した避難者らが東電を被告として全国各地の裁判所で提起した損害賠償請求訴訟のうち、次の4つの訴訟が最高裁判 所第2小法廷(菅野博之裁判長)で審理されています
(下表参照)。
東京高裁に審理継続求め「上申書」「意見書」提出、東電刑事裁判_e0068696_13022470.png

(2)最高裁での争点は、国の賠償責任です。4つの高裁判決のうち、 3つが国の賠償責任を認め、1つが国の賠償責任を否定しています
(下表参照)。
東京高裁に審理継続求め「上申書」「意見書」提出、東電刑事裁判_e0068696_13025281.png

国の責任を認めた高裁判決は、長期評価に基づく津波高さの計算 結果に基づけば原発への巨大津波の襲来は予見できたにもかかわらず、国は対策の先送りを許し、事故を招いたと結論づけています。 他方、国の責任を認めなかった高裁判決は、長期評価の信頼性を認めず、巨大津波の予見可能性を否定しています。

本件刑事事件では、一審の東京地裁判決が長期評価の信頼性を否定するという信じられない誤りを犯しています。長期評価は、法律に基づき設置された地震調査研究推進本部が、各分野の第一線の専門家らによって構成される会議体において3段階(海溝型分科会→ 長期評価部会→地震調査委員会)の慎重な審査を経て、防災を目的として公表された国の公的見解です。原発は事故を起こすと国民の住めない地域が広範囲に生じ国土を失うほどの甚大な被害を招く施 設であることから、原発の安全確保においては当然考慮しなければ なりません。
上記損害賠償請求訴訟では、3つの高裁判決が長期評価の信頼性を肯定しているとおり、素直に証拠を読めば長期評価の信頼性を肯定する結論に至ります。最高裁では、長期評価の信頼性を肯定する判断が示されると思います。

(3)最高裁での弁論は、次のとおり本年4月と5月に実施又は予定されています。
 千葉訴訟 4月15日に実施
 群馬訴訟 4月22日に実施
 生業訴訟 4月25日に実施
 愛媛訴訟 5月16日に予定
最高裁が統一的判断を出す時期は、夏前と報じられています。最高裁第2小法廷の菅野博之裁判長の定年退官発令予定日が本年7月3日(日)であることからも、6月中には最高裁判決が出ると考えられています。
なお、最高裁は、東電の賠償責任については、千葉訴訟、群馬訴訟、生業訴訟について東電の上告に対して4名の裁判官全員一致で棄却することを決定し、愛媛訴訟については東電の上告を受理せず、いずれの訴訟についても東電の賠償責任は確定しています。

2 東電株主代表訴訟の判決が本年7月13日に出される予定である

福島第一原発事故を起こした東電の元役員ら(被告は5名。勝俣恒久元会長(本件の被告人)、武黒一郎元フェロー(本件の被告人)、武 藤栄元副社長(本件の被告人)、清水正孝元社長、小森明生元福島第一原発所長)の責任を、東電の株主らが追及している東電株主代表訴訟について、東京地方裁判所民事第8部(商事部)(朝倉佳秀裁判長)が 本年7月13日に判決を出す予定です。
ここでも大きな争点の一つは、長期評価の信頼性です。
東電株主代表訴訟では、本件刑事裁判で取り調べられた証拠の大半を取り寄せ、証拠として取り調べています。また、予見可能性について濱田信生証人(長期評価の信頼性)と岡村行信証人(貞観津波)、結果回避可能性について、元東芝の技術者である渡辺敦雄証人と後藤政志証人を尋問しました。さらに、裁判長と右陪席裁判官は、線量計 (放射性物質から放出される放射線量を測定する計測器)を着けて、 東電が貸し出す靴に履き替えて、福島第一原発の敷地内に入り、原発 現地の状況を実際に見ています。
つまり、本件刑事裁判と同じ証拠を見て、さらに専門家らの証拠調べと、3被告人だけでなく当時の社長である清水氏の尋問も、みずから果敢に補充尋問し、原発現地も見たうえで、東京地裁商事部の裁判官たちが東電の元役員らの民事責任について判断を示します。

3 裁判所は国の責任に関する最高裁判決、被告人らの民事責任に関する東京地裁判決を証拠採用するため、結審時期を延期するべきである

(1)原発事故から11年経過してもなお、福島第一原発の周辺には人々の住めない地域が広がり(帰還困難区域)、国土は失われたままで、少なくとも約3万7000人もの人々が避難生活を続けています1。 ひとたび事故を起こせば、国土を失い、国民の生活を奪う原発は、その求められる安全性は極めて高いものです。原発事業を営む企業のトップである被告人らには、津波の危険性を把握し、津波対 策を指示する機会が幾度もありました。被告人らは、それらの機会を全て見送り、対策を怠り、漫然と原発事故を引き起こし、国土を奪い、多くの国民の生活を奪い、本件被害者らの命を奪ったのです。
一審の東京地裁判決は、被害者らがなぜ亡くなったのか、誰にこのような悲惨な事故を引き起こした責任があるのかにひたすら目をつぶり、東電の言いなりの判決を下しました。これでは被害者及び 遺族はあまりに無念です。死んでも死にきれない。

(2)最高裁は、上述のとおり福島第一原発事故について国の賠償責任に関する統一的判断をまもなく示すと考えられます。
この統一的判断には、貴裁判所が前回第2回控訴審期日において証拠採用し、取り調べた千葉訴訟の東京高裁判決も含まれています。既に取り調べた東京高裁判決の上級審の判断が近いうちに出されるのであれば、最高裁としての確定判断を踏まえてから、貴裁判所の判断を示すことはごく自然なことです。最高裁の判断を待たずに貴裁判所が判断を出してしまった後に、最高裁が東京高裁とは異なる判断を示した場合、貴裁判所の判断の正当性は大きく揺らぎます。最高裁の判断については、その理由に至るまで、貴裁判所が子細に検討するべきものであることは明らかです。貴裁判所においては、最高裁の判断を証拠採用し、その内容を正面から踏まえて判断すべきです。 さらに、東電株主代表訴訟では、本件刑事裁判において取り調べられた多くの証拠に付け加えて,濱田氏,岡村氏,渡辺氏,後藤氏の証人尋問,被告らに対する本人尋問,とりわけ裁判官が行った補充尋問, 現地進行協議によって明らかになった事実にもとづいて7月13日にも東京地裁商事部の司法判断が示されます。
本件刑事裁判が対象としているのは,近代日本が遭遇した,最大か つ最重要の産業事故・公害事故です。
貴裁判所は,指定弁護士の証拠申請を却下したために,見ることの できなかった証拠関係に何が語られているのか、それによって何が明らかにされたかを、最高裁と東京地裁の司法判断を通じてでも、知る べき責務があると思います。
私たち被害者代理人は、本件ですでに取り調べられた証拠だけからも,被告人有罪の結論は優に導くことが可能であると確信していますが、結審期日はこの2つの司法判断の結果について、その判決書を適法に証拠調を経ることができるよう7月13日以降に指定し直すべきです。
貴裁判所においては、一審の東京地裁判決のような誤りを犯さな いために、本件刑事裁判と争点を同じくする最高裁判所、東京地裁 商事部の判断を見てから、結審をし、犯罪被害者とその遺族の無念の心に答える判決を期待してやみません。

 1 復興庁「全国の避難者数」(令和4年3月29日付)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2- 1/20220329_kouhou1.pdf

  以上

東京高裁に審理継続求め「上申書」「意見書」提出、東電刑事裁判_e0068696_13071505.png
記者会見(司法記者クラブにて)












by kazu1206k | 2022-05-15 23:07 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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