6月14日、原発事故被害者団体連絡会は、福島県の新たな避難者提訴方針について、福島県議会の各会派に対して「避難者の住宅立ち退き提訴議案について 慎重な審議の要請」を行い、記者会見しました。
原発事故被害者団体連絡会は、福島県が5月27日の県議会政調会で、国家公務員宿舎に残っている避難者の住宅問題について、「11世帯の損害賠償請求訴訟に応訴の上、明け渡しを求める訴訟を検討している」と表明、一部のメディアもこれを報道したことについて、「一昨年3月の4世帯に対する明け渡し訴訟に次いで、再び県が県民である原発事故避難者を裁判に訴えて立ち退きを迫るという新たな事態」だとし、「原発事故によって国内避難民となった被害者の住まいの保障は重大な人権問題であり、9月から10月にかけての国連特別報告者の來日調査を前にして、県が再び提訴という強硬手段に訴えることは、国内外から強い批判を招くもの」と指摘しています。
その上で、「政調会での説明や一部報道には、誤認や一方的な決めつけによって事実関係を歪めている点が多々あり、長年この問題で県当局と話し合いを続けて来た私たちは、このまま放置するわけにはいかない」と事実関係に基づく説明のため、福島県議会の各会派に対して要請し、記者会見したものです。
以下は、福島県議会の各会派へ宛てた「避難者の住宅立ち退き提訴議案について 慎重な審議の要請」です。
●避難者の住宅立ち退き提訴議案について
慎重な審議の要請
2022年6月14日
会派 県議団団長 様
原発事故被害者団体連絡会
「避難の権利」を求める全国避難者の会
避難の協同センター
県当局は5月26日の県議会政調会で、国家公務員宿舎に残っている避難者の住宅問題について、「11世帯の損害賠償請求訴訟に応訴の上、明け渡しを求める訴訟を検討している」と表明、一部のメディアもこれを報道しました。
これは、一昨年3月の4世帯に対する明け渡し訴訟に次いで、再び県が県民である原発事故避難者を裁判に訴えて立ち退きを迫るという新たな事態です。
原発事故によって「国内避難民」となった被害者の住まいの保障は重大な人権問題であり、9月から10月にかけての国連特別報告者の來日調査を前にして、県が再び提訴という強硬手段に訴えることは、国内外から強い批判を招くものと思われます。
政調会での説明や一部報道には、誤認や一方的な決めつけによって事実関係を歪めている点が多々あり、長年この問題で県当局と話し合いを続けて来た私たちは、このまま放置するわけにはいかないと考えました。
県議会の皆さまにおかれましては、以下の事実関係も踏まえて、慎重な審議のうえ正当な結論を出されるよう要請いたします。
1.「応訴」と「提訴」
政調会で県当局は、「11世帯が供与終了の違法性を主張し、県に対し損害賠償を求めて今年3月に訴えを起こしたため、話し合いによる解決は困難だと判断し、応訴の上、(略)10世帯について、明け渡しなどを求めて提訴を検討」とし、あたかも今回の提訴が損害賠償請求訴訟に対する対抗措置であるかのように説明しています。
しかし、この点は事実関係を混同させた不十分な説明です。
損害賠償請求に対する対応は「応訴」であり、「明け渡し提訴」は、あくまで県が起こす別個の訴訟です。
11世帯が起こしている訴訟は、2019年4月以降3年近くにわたり、県当局が立ち退きと「家賃2倍相当の損害金」支払いの請求書を送り続けたばかりでなく、親族宅にまで圧力をかけられたことによる精神的苦痛に対する損害賠償を求めるものです。
県当局がこれに対し反論・主張をするために「応訴」することは、当然に認められる対応といえます。しかし、今回提起されている「立ち退き請求提訴」は、県当局が裁判によって避難者の現住している住まいからの立ち退きを迫るという、全く別個の訴訟行為です。
2. 「話し合いによる解決が困難」との判断
県当局は「(提訴によって)話し合いによる解決は困難と判断した」としていますが、損害賠償訴訟の前後を通じて解決のための有効な話し合いがなされた事実はありません。
立ち退き提訴の対象とされた10世帯の方々は、2019年5月に代理人を通して規定の家賃の支払いを申し出て、転居の見通し(公営住宅への応募や経済状態の回復など)が立つまでの居住継続をお願いしたにもかかわらず、県当局はこれを拒否し、上記の対応を取り続けたというのが事実です(別紙資料)。この間、私たち被害者団体からも具体的な対応策を基に話し合いによる解決を求めて来ましたが、県当局の誠意ある対応は見られませんでした。
3. 問われているのは人権と避難者政策
一昨年3月の福島地裁への4世帯提訴や他の「調停案件」でも、県当局は「提供期限の終了」「家賃不払い」を唯一の理由としています。個別事情の違いはあっても、これらに共通しているのは「原発避難者の住まいの保障政策」の問題であり、一般民間の不動産貸借関係とは根本的に違う問題です。
いうまでもなく、住まいは生存の基本にかかわる重要な人権であり、憲法をはじめ国際人権規約などでも国や行政機関がこれを保障する責務が明記されているところです。
原発事故という人災によってそれまでの住まいを追われた避難者は、国際的にも「国内避難民」の相当することに異論をさしはさむ余地はありません。
今回の「明け渡し提訴」は、住民の暮らしと安全を守るべき県当局が、原発事故によって住まいを奪われ、さまざまな事情を抱えてこれまで住み続けている避難民の住まいを、司法の力を借りて奪おうという行為にほかなりません。
原発避難者の人権状況については、国際的にも注目を浴びているところであり、9月から10月にかけて国連特別調査者の訪日調査も決まっています。
このような情勢も踏まえ、真の意味での「1人ひとりに寄り添った避難者政策」とは何かという根本に立ち返って、事実関係を踏まえた慎重な審議をつくされたうえ、福島県政として誇り得る結論を導き出していただけますよう、切にお願い申し上げます
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