7月13日、東京電力福島第一原発事故を起こした東京電力旧経営陣個人の責任を問う東電株主代表訴訟で、東京地裁民事8部(朝倉佳秀裁判長)の判決の言い渡しが行われ、見事、原告が勝訴しました。 判決は、被告勝俣、清水、武黒及び武藤に対し、連帯して13兆3,210億円の損害賠償の支払いを命ずるもの、しかも仮執行付きです。原告席で裁判長の判決言い渡しを聞きながら、原発事故被害者、被災者の11年の苦しみを思い、グッと込み上げるものがありました。
株主代表訴訟は、株主が会社に代わって、会社の損害を取締役等の責任を追及する訴訟。本件は、勝俣恒久元会長ら旧経営陣5人が、津波対策を怠り、善管注意義務違反により、福島第一原発事故を発生させ、多大な損害を会社に与えたとして、合わせて22兆円を会社に賠償するよう求めて損害賠償請求を提起。訴訟によって回収された金銭は、原発事故の被害者に対する損害賠償として使用することを要求しています。東電福島第一原発事故を巡り、旧経営陣個人の責任を問う裁判は、元会長ら3人が強制起訴された刑事裁判と株主代表訴訟のみで、この訴訟は2012年3月の提訴から10年、東京地裁で62回の裁判が開かれ、4人目となった朝倉佳秀裁判長らは咋年10月、原告側が長年求めてきた福島第一原発の現地視察を行い、原発事故の責任が争われた刑事、民事の裁判で初めて裁判官による現地視察が実現していました。
この日は、雨の中、14時から裁判所正門前で原告や支援者が門前集会を開き、入廷行進を行いました。15時から東京地裁103号法廷で、40分にわたる朝倉裁判長による確固たる言い渡しがあり、閉廷と同時に法廷内は大きな拍手と歓声に包まれました。裁判所正門前での旗だしと原告勝利の報告も大歓声と笑顔に溢れるものとなりました。
16時30分から参議院議員会館で報告集会が開かれました。海渡弁護士、河合弁護士はじめ各弁護士のお話も晴れやかでした。わたくしも、本当に嬉しい!と述べさせていただき、この勝利を刑事裁判の控訴審の弁論再開、株代判決の証拠採用につなげるため、28日午前10時、東京高裁に上申書を提出します!公正判決を求める第2次署名提出も行います!とアピールさせていただきました。
以下は、弁護団の声明です。
2022年7月13日
本日東京地裁民事第8部(商事部・朝倉佳秀裁判長、丹下将克裁判官、川村久美子裁判官)は、東京電力の株主らが、東京電力に代わって、元役員の善管注意義務違反によって、福島原発事故を発生させたとして、東京電力に与えた損害についての賠償を求めていた「東電株主代表訴訟」について、原告らの請求を認め、被告勝俣、清水、武黒及び武藤に対して、連帯して13兆3210億円の損害賠償の支払いを命ずる判決を下した。
判決は、まず、原発を設置、運転する会社は、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて想定される津波により原発の安全性が損なわれ、炉心損傷ないし炉心溶融に至り、過酷事故が発生するおそれがある場合には、これにより生命、身体及び財産等を受け得るものに対し、当該想定される津波による過酷事故を防止するために必要な措置を講ずべき義務を負うと判示した。このように、原発には過酷事故の危険性があり、それがゆえに万が一にも事故を起こさないようにしなければならないことを正面から認めている。
そして、政府の地震調査研究推進本部が2002年7月に示した、三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで、過去400年間に3回大規模な津波地震が発生し、このような津波地震が福島県沖でも発生し得ることを指摘した長期評価には、津波対策の実施を基礎づける信頼性があったことを認めた。のみならず、津波堆積物調査に基づく貞観津波の波源モデルについての知見についても信頼性及びこれに基づく予見可能性を認めた。
また、判決は津波対策の実施によって、事故の結果が回避できたかどうかについて、津波の浸入を防ぐための防潮堤などの大規模な津波対策を講ずるためには、ある程度時間がかかるとしても、運転を継続するためには、速やかに津波による浸水を防ぐための水密化など措置を講ずる必要があり、このような工事は可能であったと判断した。このような判断は最高裁判決における三浦判事の少数意見と軌を一にするものである。
このような判断は原告らの立証だけでなく、裁判所自らが被告らへの綿密な補充尋問を行い、福島第一原発における現地進行協議を実施した結果にもとづき、確信をもって判断されたものである。
被告武藤、被告武黒及び被告小森は原子力担当役員として、平成20年~平成21年には、推本の長期評価にもとづく津波対策が避けられないものであることについて、説明を受けていたのであり、津波対策を講じなかったことは任務懈怠に該当すると認定した。
被告勝俣及び被告清水は、平成21年2月の御前会議における吉田部長の発言にもとづいて、対策を命ずることは可能であったとして、責任を認めた。
6月17日に最高裁で不当判決が出された直後であるにもかかわらず、福島第一原発事故を引き起こした東電及び被告らの過失を正面から認めたことに対しては、敬意を表したい。そしてこの判決は、現在東京高裁において弁論再開の可能性がある東電刑事裁判の審理と結論に大きな影響を及ぼすものである。
この判決は、福島原発事故の原因に関して最も包括的な証拠調べを実施し、これにもとづいて判断されたものである。被告らは、原発事故によって甚大な被害を多くの住民に与えたことについて少しでも反省する心があるなら、住民に対して深く謝罪をし、この判決に対して控訴することなく、これに従うべきである。
右声明する。
*2012年3月5日、株主代表訴訟提訴の際の、わたくしのメッセージ。
●取り返しのつかないものを取り返すために
慟哭の2011年。
東電の歴代取締役が、あれだけ声高に叫んでいた原発の安全性はどこに行ったのか?
今も大量の放射性物質を放出し続ける福島第一原子力発電所事故。
破壊された人々の日々の暮らし。
福島県民は困難な歳月を前に、苦悩の色が深い。
原発・放射能からの逃避行、避難所暮らしから津々と冷え厳しさが増す仮設住宅での生活の困難さ、
汚染された大地への帰郷を迫る政府と行政の理不尽さ、深かまるばかりの営農の困難、利権化した除染への不信、
先の見えない生活に喘ぐ怨嗟の声が汚染された大地に満ち満ちている。
福島第一原子力発電所事故の最大の責任者は、地震・津波対策を怠り、危険性を無視し、効率優先の経営を行った東電取締役です。
にもかかわらず、東電取締役は事態の法的責任が問われることもなく、
何事もなかったかのように定年退職をして、多額の退職金をもらい安穏とした生活を送るのか。
原発被害者が被曝の不安におびえ、子や孫の将来に悲嘆し、絶望の淵にあるとき、あまりに不公平ではないか。
いまこそ歴代の経営陣の責任が問われなければならない。
深刻な福島原発被害の地の底から、追いつめられた、福島の鬼が澎湃として湧き出る日は近い。
取り返しのつかないものを取り返すために、わたくしはみなさまと手を取り合い、力を合わせていきます!
2012年3月5日 福島県いわき市 佐藤和良
