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「故安倍晋三元内閣総理大臣の『国葬』に反対する会長声明」、第二東京弁護士会

 第二東京弁護士会は、8月31日付けで会長声明を公表し、以下のような理由で「故安倍晋三元内閣総理大臣の『国葬』に反対」しています。
・国葬令は廃止されていて、法的な根拠がない。
・法的な根拠も判断の基準もなく閣議決定によって行うということは、時の内閣が特定の政治家の功績が偉大なものかどうかを専断することであって、個人の尊厳、法の下の平等を定めている日本国憲法の基本原理にはそぐわない。
・政治家の功績については、国民の間で評価が異なるのは自然なことであり、「国葬」を行うことは、後述のとおり、弔意の事実上の強制を伴いかねず、思想及び良心の自由(憲法第19条)を侵害するおそれがある。
・国葬令失効後、故吉田元首相を除き、「国葬」を行わず、新たな法律を定めることもしなかったのは、そのような事情を考えるならば適切であった。
・内閣府設置法第4条第3項第33号に、内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記されていることから、閣議決定によって国の儀式である「国葬」を行うことができるなどとの政府の説明には根拠がない。同法は、行政組織たる内閣府の所掌事務を定めたものにすぎず、国家の功労者かどうかを内閣が判断して「国葬」を実施することを根拠づけるものとはいえない。
・仮にこの規定が、前述のような経緯をもち日本国憲法の基本原理や国民の基本的人権の尊重に抵触しうるような問題をはらむ「国葬」の根拠となるものであるならば、その制定にあたっては国会において慎重な議論が必要とされるところ、内閣府設置法制定時の国会審議において、この規定により閣議決定による国葬を行うことができることになるという説明はされておらず、実質的な審議はなされていない。
・「国葬」が特定の政治家個人に対する敬意や弔意の強制につながる。

故安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対する会長声明

2022年(令和4年)8月31日
第二東京弁護士会 会長 菅沼 友子
22(声)第7号

 政府は、本年7月22日の閣議により、「故安倍晋三国葬儀」を本年9月27日に日本武道館で行うこと、岸田文雄首相が葬儀委員長を務め、必要な経費は国費とし、一般予備費を使用することなどを決定しました。
 当会は、本年7月12日、安倍元首相の銃撃事件について、選挙応援演説中の政治家に対し銃器を使用して生命を奪うことは、選挙活動における言論活動を暴力をもって封殺するものであり断じて許されない旨の会長談話を発表しています。
 しかしながら、当会は、故安倍元首相について、従来行われてきた内閣と自由民主党の合同葬などではなく「国葬」として行うことについては、以下のとおり疑義と懸念があり、反対の意思を表明するものです。

 第一の疑義としては、国家に対する功労者としての「国葬」については、法的根拠がなく、日本国憲法の理念にも適合しないという点です。
 戦前は、天皇の勅令である「国葬令」に基づき、皇族・王皇族のほか、「国家に偉功のある者」を国葬にすることが行われてきました。しかし、日本国憲法施行に伴い国会の審議を経て法律で定めるべき事項に関する勅令は失効するとされたことにより、「国葬令」は1947年12月末日の経過により失効しており*1、現在、法的根拠を有する国葬は、皇室典範による大喪の礼のみです。
 1967年10月の故吉田茂元首相の「国葬」は、閣議決定により行われましたが、当時の大蔵大臣も、国葬令が失効している以上、国葬について法令の根拠がないことを認めています*2 。その後、佐藤榮作元首相の死去の際は、当時の中曽根康弘自民党幹事長が、「国葬については法律にもなく、法制局など法律家の意見も聞きみんなで総合判断した結果、国民葬ということになった」と説明し、内閣・自民党・国民有志の主催による「国民葬」として行われ*3、以後、大平正芳元首相から、岸信介、三木武夫、福田赳夫、小渕恵三、鈴木善幸、橋本龍太郎、宮澤喜一、中曽根康弘元首相に至るまでは、内閣・自民党合同葬として執り行われてきました。
 戦前の「国家に偉功のある者」に対する国葬は、元首相や元海軍大将などに対し「特旨(天皇の思し召し)により」「賜う」ものとして行われてきました。それを法的な根拠も判断の基準もなく閣議決定によって行うということは、時の内閣が特定の政治家の功績が偉大なものかどうかを専断することであって、個人の尊厳、法の下の平等を定めている日本国憲法の基本原理にはそぐわないものです。また、政治家の功績については、国民の間で評価が異なるのは自然なことであり、「国葬」を行うことは、後述のとおり、弔意の事実上の強制を伴いかねず、思想及び良心の自由(憲法第19条)を侵害するおそれがあります。国葬令失効後、故吉田元首相を除き、「国葬」を行わず、新たな法律を定めることもしなかったのは、そのような事情を考えるならば適切であったといえます。 なお、政府は、内閣府設置法第4条第3項第33号に、内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記されていることから、閣議決定によって国の儀式である「国葬」を行うことができるなどと説明しています。しかし、同法は、行政組織たる内閣府の所掌事務を定めたものにすぎず、国家の功労者かどうかを内閣が判断して「国葬」を実施することを根拠づけるものとはいえません。仮にこの規定が、前述のような経緯をもち日本国憲法の基本原理や国民の基本的人権の尊重に抵触しうるような問題をはらむ「国葬」の根拠となるものであるならば、その制定にあたっては国会において慎重な議論が必要とされるところ、内閣府設置法制定時の国会審議において、この規定により閣議決定による国葬を行うことができることになるという説明はされておらず、実質的な審議はなされておりません。この点に関する政府の説明には重大な疑義があります。

 第二に、「国葬」が特定の政治家個人に対する敬意や弔意の強制につながるという懸念です。
故吉田元首相の国葬に際しては、各省庁に対して、弔旗掲揚、黙祷の実施、職員の半休、公の行事、儀式その他歌舞音曲を伴う行事を控えるとの措置がなされ、各公署、学校、会社その他一般においても同様の方法により哀悼の意を表するよう協力が要望されました。
 公立学校の入学式や卒業式における、国旗掲揚の下での国家斉唱に起立しなかったことを理由にする戒告処分が適法とされた最高裁判決(第3小法廷、平成23年6月21日)の多数意見においても、自己の歴史観や世界観と相違する行動を求められることは、思想及び良心の自由についての間接的な制約となりうることを肯定しています*4。同様に、特定の政治家に対する「敬意と弔意」を表明するかどうかは、国民の内心の自由に深く関わる問題です。
 今回の「国葬」について、松野官房長官は、国民一人一人に喪に服することを求めるものではないと記者会見で説明し、また、本年8月26日には、地方公共団体や教育委員会等に弔旗掲揚等を求める閣議了解は見送る方針であると述べています。
 しかし、岸田首相が本年8月6日の記者会見において述べたように、今回の国葬が「わが国としても、敬意と弔意を国全体として表す国の公式行事として開催する」ものである以上、官公署に限らず、国民各層に対しても、「自主的」の名の下に、事実上の弔意強制が様々な形でなされることが強く懸念されます。

 以上の理由から、当会は、現在行われようとしている、故安倍元首相の国葬について反対の意思を表明するものです。

*1 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第1条。
*2 1968年5月9日、第58回国会衆議院決算委員会において、水田三喜男大蔵大臣が「国葬儀につきましては、御承知のように法令の根拠はございません。」と答弁。
*3 読売新聞昭和50年6月3日夕刊。なお、佐藤元首相に関しては、在任期間7年8か月で当時最長、戦後の経済発展やノーベル平和賞受賞、大勲位菊花大綬章の生前受賞(安倍元首相は没後受賞)などの点で吉田元首相と同等であると、自民党等では評価していました。
*4 この問題に関し当会は、2005年(平成17年)2月28日「東京都教育委員会の「国旗掲揚・国歌斉唱」の通達等についての会長声明」、2006年(平成18年) 9月27日「日の丸・君が代」強制予防訴訟東京地裁判決を支持する会長声明、2013年(平成25年)8月23日「国旗国歌の強制の問題に関わる教科書採択への介入に反対する会長声明」を発しています。

「故安倍晋三元内閣総理大臣の『国葬』に反対する会長声明」、第二東京弁護士会_e0068696_16142780.jpg










by kazu1206k | 2022-09-04 21:14 | 時評 | Comments(0)