「福島第一原発1号炉の格納容器内部 鉄筋がむき出しになったペデスタル」
『原子力資料情報室通信』第579号(2022/9/1)より。
1号炉格納容器内ペデスタル外側の調査
東京電力と国際廃炉研究開発機構(IRID:アイリッド)が今年(2022年)2月9日に水中ロボットをつかって福島第一原発1号炉の原子炉格納容器の地下部分で、内部の状況を知るための準備をかねた事前調査をしたところ、熔融した核燃料由来とおもわれる物質がたくさん堆積していることや、鉄筋がむき出しになったコンクリート構造物の残骸らしいものがあることがわかった。
3月14日からは、ペデスタル(原子炉圧力容器を設置する鉄筋コンクリート製の土台)の外周にそって水中ロボット(ROV)をつかった詳細な目視調査を開始したが、3月16日に福島県沖でマグニチュード7.4の大きな地震が発生した。地震の影響で1号炉の格納容器内部の水位の低下が起きたために調査は中断された。
その後、原子炉への注水流量を増量して調整することで格納容器内の水位を確保し、5月1日から格納容器内部の水中ロボットでの詳細調査が再開された。5月21日までかけて、目視調査のほか、堆積物の厚さの測定や堆積物が核燃料由来かどうか調べるために熱中性子束の測定もおこなわれ、多くの堆積物が核燃料由来であることが確認された。
ペデスタル外周部に燃料デブリ堆積、コンクリート壁損傷
調査では、まずペデスタルの外側を半周以上にわたって水中ロボットのカメラをつかっての詳細目視がおこなわれている【図1】。ペデスタルの外周で撮影された動画や写真をみると、格納容器の床などにかなりの深さで堆積物がたまっているのがみえる【写真1】。ドライウェルの下部周囲には圧力抑制室へとつながるベント管が8本あり、ベント管の入口を保護するジェットデフレクターがそれぞれについている。ジェットデフレクターの下から3分の1ぐらいが堆積物で埋まっている(とくにC~Fにかけて)。堆積物がジェットデフレクターの裏側に回り込んでいることが確認されており、燃料デブリが圧力抑制室側にも流れ込んでいる可能性が高い。
東京電力は、原子炉補機冷却系の配管や弁、原子炉再循環系A系の配管には大きな損傷がみられないとしている。しかし、写真をみると原子炉補機冷却系の配管や弁は形は留めてはいるが堆積物がかぶっており、とくに配管の大半は堆積物に埋まって見える状態であり、損傷がないことは確認できない【写真2】。
図1 水中ロボットによるペデスタル外周部の調査概要(東京電力・IRIDの資料を修正して作成)
写真1 格納容器内にたまった堆積物
写真2 原子炉補機冷却系の弁
公開されている動画や写真の範囲では、再循環系B系の弁や配管などに大きな損傷はないようにみえる。逆側のA系ではぼやけていてはっきり見えないため損傷しているかどうかよくわからない。ペデスタル開口部ちかくの配管エルボ付近にはなんらかの異常があるようにもみえる。
水中ロボットを投入した位置から半周ぐらい進んだところにペデスタルの開口部がある。事故以前の定期検査では、ここから原子炉の下の空間に作業員が入り、制御棒駆動装置や中性子計装の検査やメンテナンス作業がおこなわれていた。
ペデスタルの開口部の両側は、本来あるはずのコンクリートがなく、写真に示すように鉄筋がむき出しになり、その上には堆積物がのっている【写真3および写真4】。インナースカートと呼ばれるペデスタル内部に設置された鋼板製の円筒状構造材もむき出しになっているのがわかる。
1号炉のペデスタルと格納容器の下部は【図2】に示すような構造をしている。ペデスタル基礎部分の壁の厚さは約120センチある。原子力規制委員会の東京電力からの聞き取り資料によると、インナースカートは約100センチの高さまでペデスタルの基礎に埋め込まれているという。
つまり、開口部両側付近の厚さ約120センチのペデスタルの基礎部分のコンクリートは、格納容器の床から高さ約100センチのところまで、完全に消失していることになる。東京電力・IRIDの資料には、図1のように鉄筋がむき出しになったおおよその位置が示されているが、これがすべてではないと思われる。
写真3 ペデスタル開口部(右側)むき出しの鉄筋
写真4 ペデスタル開口部(左側)むき出しの鉄筋
コンクリートはどのように崩壊消失したのか
コンクリートはセメントと砂や砕石などの骨材を混ぜたものに水を入れて固めたものである。コンクリートやセメントの高温下の特性として次のようなことが知られている(嵩・大野、「高温下のコンクリートの物性」に基づく)。
・火災時などのように短期間高温下におかれるときには急激な熱膨張による剥落や爆裂などが起こる。もう少しゆっくりとした温度変化に対しては次のように説明されている:十分に水和反応が進行したセメント硬化体が加熱されると
・約105℃で遊離水やゲル水が失われる。
さらに加熱されると化学的に結合している水の一部が脱水しはじめ、
・約250~350℃では、カルシウムシリケート水和生成物は約20%の保有水分を失う。
・400~700℃になると、カルシウムシリケート水和生成物の保有水分がほとんど失われ、水酸化カルシウムも脱水され分解される。
熔融した二酸化ウランを主とする核燃料は2800℃以上の温度になる。コンクリートの溶融温度は約1200℃である(実際には骨材の混入状況による)。東京電力がおこなった2011年のコア・コンクリート反応に関する解析では、1500K(約1227℃)でコンクリートが侵食されると仮定しており、その結果、ペデスタル内部のコンクリート床に対して65センチの深さまで侵食すると結論していた。
熔融した核燃料が1号炉の原子炉圧力容器の底部から噴出して、ペデスタル内側の床につぎつぎに落下したのち、床をひろがりペデスタルのコンクリート壁をアタックしていき、コンクリートの剥落や爆裂が起きていったのだろうか。実際には、それと同時に、400~700℃まで熱せられたコンクリートが強度の低下を生じ少しずつ崩壊する、というようなことも進行していったのかもしれない。
見えている範囲では鉄筋やインナースカートには大きな変形や熔融は確認されていないが、他の部分はどうか、また、コンクリートの崩壊がどの範囲まで進んでいるのか、これまでのところわかっていない。
図2 1号炉のペデスタルと格納容器下部の構造(東京電力の資料を修正して作成)
大きな地震に耐えられるのか
ペデスタル基礎部分のコンクリートが失われたことで心配なのが、ペデスタルの上に乗っている原子炉圧力容器が倒壊したり、落下したりすることだ。東京電力は、2016年にIRIDがおこなった圧力容器および格納容器の耐震性評価を引用し、ペデスタルの一部が劣化、損傷した状態であっても、600ガルの想定地震Ss(評価当時)に対しては、圧力容器を支持する機能を維持できる、と非常に楽観的である。
しかし、IRIDの評価や東京電力の考え方をよくみてみると、想定があまいことがわかる。たとえば、格納容器や圧力容器の横方向の揺れを制御する格納容器スタビライザや圧力容器スタビライザが機能することを耐震評価のモデルに組み込んでいるが、これらの健全性はいまのところ未確認である。
また、観察された範囲だけから、ペデスタル基礎部の鉄筋に座屈などの損傷がないこと、インナースカートの機能劣化がないことを結論し、解析条件の設定に慎重さが足りない。コンクリート壁や床などの損傷箇所が増えてくるなど、これらの条件は今後の調査の進展次第で見直される可能性があり、そうなれば耐震性評価の結果は簡単にひっくり返ってしまうだろう。
(上澤 千尋)