日本弁護士連合会は、9月27日付けで「『マイナ保険証』取得の事実上の強制に反対する会長声明」を公表しました。
声明では、「今般行われる従来型保険証の原則廃止、診療報酬の見直し、高額のポイント付与の一連の政策は、当連合会が意見書において危惧し警鐘を鳴らした問題をそのままに実現化し、助長するものである。すなわち、診療報酬の見直しや高額のポイント付与は、同カードを取得しない者に不合理な経済的不利益を与えるなどして、マイナ保険証に誘導し、その原則化を図るものと言える。その先には、従来型保険証の原則廃止が想定されているのであり、「国民皆保険制度」を採用する我が国では、全国民に対してマイナンバーカードの取得を強制するのに等しいのであって、番号法の申請主義(任意取得の原則)に反し、マイナンバーカードの取得を事実上強制しようとするものにほかならない。これは、2021年5月7日の意見書の趣旨に反することは明らかである。」「同時に、マイナ保険証については、その利用時に顔認証システムの利用を事実上強制することになり、2021年9月16日の意見書の趣旨にも反する。」として、マイナンバーカードをマイナ保険証とする今般の一連の政策について、反対するとともに、速やかな見直しを求めました。
「マイナ保険証」取得の事実上の強制に反対する会長声明
本年6月7日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」を閣議決定し、オンラインによる資格確認について、「保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付ける」こと、及び、マイナンバーカード(個人番号カード)に健康保険証機能を組み込んだいわゆる「マイナ保険証」の普及のため、「2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ」、従来型「保険証の原則廃止を目指す」方針を定めた。
また、本年8月10日、厚生労働省は「マイナ保険証」を普及させるため、同年10月からマイナ保険証に対応した医療機関では、従来型保険証を使うよりもマイナ保険証を使う方が患者負担額が安くなるように診療報酬を改定すると決めた。
これは、本年4月から、マイナ保険証を使ったオンライン資格確認設備を導入した医療機関の診療報酬が加算され、マイナ保険証を利用した患者の負担が、従来型保険証を利用した患者の負担よりも重くなったことに対して、マイナンバーカードの普及を阻害するとして、政府内部からも批判が高まったため、短期間での見直しを行ったものである。
さらに政府は、本年も、1.8兆円もの予算を組み、本年12月末日までのマイナンバーカード取得者で、マイナ保険証としての利用申込みを行った者に対し7500円分の高率ポイントを付与する等のキャンペーンを行っている。
当連合会は、2021年5月7日、「arrow_blue_1.gif個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」を公表した。そこでは、「特に、個人番号カードの裏面に記載されている個人番号は、悉皆性、唯一無二性を持ち、原則生涯不変の個人識別情報である」から、同番号が「不正利用されれば、個人データが名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険がある」ことを指摘し、現在の仕様の「個人番号カードは、住基カード等に比べて、プライバシー保護の観点が著しく後退していると言わざるを得ない」とした。そして、「個人番号制度は、あらゆる個人情報の国家による一元管理を可能とする制度となり、監視社会化をもたらすおそれ」があることも指摘した。その上で、同カードの取得は、本人が利便性と危険性を利益衡量して決めるという番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)第17条第1項の申請主義(任意取得の原則)の趣旨に鑑みて、①同カードに健康保険証機能など、一体化する必要性の低い他制度機能を組み込んだり、②同カードの取得者に高率のポイントを付与するという制度目的と関係のない利益誘導を行ったりすることなどの普及策は、「全国民が現行の個人番号カードを使用せざるを得ない状況に追い込むものであり、任意取得の原則に反するものであるから、速やかに中止ないし抜本的な見直しをする」よう求めた。
また、当連合会は、2021年9月16日、「arrow_blue_1.gif行政及び民間等で利用される顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」を公表した。そこでは、顔認証システムによるプライバシー侵害の大きさに鑑み、「医療機関受付での個人番号カードを用いた顔認証システムの利用」及び「個人番号カードを健康保険証、運転免許証等と紐付けることにより顔認証データの利用を著しく拡大させ、顔認証システムの利用範囲を拡大させること」を中止するよう求めた。
今般行われる従来型保険証の原則廃止、診療報酬の見直し、高額のポイント付与の一連の政策は、当連合会が意見書において危惧し警鐘を鳴らした問題をそのままに実現化し、助長するものである。すなわち、診療報酬の見直しや高額のポイント付与は、同カードを取得しない者に不合理な経済的不利益を与えるなどして、マイナ保険証に誘導し、その原則化を図るものと言える。その先には、従来型保険証の原則廃止が想定されているのであり、「国民皆保険制度」を採用する我が国では、全国民に対してマイナンバーカードの取得を強制するのに等しいのであって、番号法の申請主義(任意取得の原則)に反し、マイナンバーカードの取得を事実上強制しようとするものにほかならない。これは、2021年5月7日の意見書の趣旨に反することは明らかである。
同時に、マイナ保険証については、その利用時に顔認証システムの利用を事実上強制することになり、2021年9月16日の意見書の趣旨にも反する。
よって、当連合会としては、マイナンバーカードをマイナ保険証とする今般の一連の政策について、反対するとともに、速やかな見直しを求めるものである。
2022年(令和4年)9月27日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治