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自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議、日弁連の人権擁護大会

 日本弁護士連合会の第64回人権擁護大会は、「高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議」や「デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議」などの4つの決議案を採択しました。
 今回、「デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議」を紹介します。

デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議

当連合会は、2010年の第53回人権擁護大会において、「デジタル社会における便利さとプライバシー~税・社会保障共通番号制、ライフログ、電子マネー~」と題するシンポジウムを開催した。私たちの行動の足跡がデジタル社会に残ってしまうライフログの実情に迫り、これを利用した行動ターゲティング広告の問題点を指摘し、また当時政府が創設を目指していた共通番号制度の問題点を明らかにしながら、デジタル社会における自己情報コントロール権の実効的な保障を提言した。

それから12年が経過し、スマートフォンが普及して、ツイッター(Twitter)、フェイスブック(Facebook)、インスタグラム(Instagram)などSNSを利用したり、ユーチューブ(YouTube)等のデジタル動画を視聴したりする頻度が高まるなど、市民の行動は変容を遂げている。行動ターゲティング広告の有効性が周知のものとなり、企業からすると、少ない宣伝コストで従前と同様の売上げが得られるようになっている。

他方で、デジタルプラットフォーマーは、利用者が入力した検索キーワード、閲覧した記事やユーチューブチャンネルの履歴、スマートフォンのGPS機能をオンにしていることにより蓄積されていく移動履歴など、当の本人では到底覚えておくことの不可能な膨大な情報を記録し、個人の将来の行動を予測するために活用し、収益を上げている。デジタル社会での行動履歴は丸裸と言っても過言ではないほどのプロファイリングに供され、プライバシーの危機を招いている。

私たち自身が、自律的な判断をするために必要な情報アクセスが確保されないといった問題もある。自分と似た興味・関心・意見を持つ利用者が集まるコミュニティが自然と形成され、自分と似た意見ばかりに触れてしまうようになる「エコーチェンバー」現象、自分好みの情報以外の情報が自動的にはじかれてしまう「フィルターバブル」などにより、偏った意見や真実ではない意見に囲まれてしまい、自然な意思形成ができないこともある。2016年のアメリカ大統領選挙で、プロファイリングに基づき分類したグループごとにきめ細やかな投票行動の誘導を行って、市民の投票行動に意図的に影響を与えた疑いのあるケンブリッジ・アナリティカ事件も明るみに出ている。一人一人の市民が自己決定するのに十分な情報へのアクセスを確保し、民主主義社会に参加できる制度が必要である。

このような中、2021年9月にデジタル庁が発足し、日本の「デジタル社会化」の司令塔として強力な権限を発揮しようとしている。その政策は、データの徹底的な利活用を図ることを目指し、個人番号カードの全国民への普及、個人番号(マイナンバー)の利活用促進を中心とした計画となっている。個人番号は、当初の税・社会保障の目的とは関連性の乏しい国家行政事務に利用範囲が広がり、個人番号カードを通じた民間事業者におけるデータベースの作成には制限がない。デジタル改革関連6法により個人情報保護法制も改正され、地方自治体による住民のプライバシー保護機能の低下が懸念される。

さらに、日本では、警察による捜査を始めとした顔認証システムの活用が、法律によるルールの策定もなく無限定に広がっている。中国では、約6億台の顔認証機能付きの街頭監視カメラにより、住民全員の個人情報データベースの検索がなされ、信用スコア(個人にひも付く様々なデータを基にAIが個人の信用力を評価し、点数化したもの)と連動して人々の行動を監視しているが、このままでは日本も類似した社会となることが危惧される。十分なプライバシーへの配慮を行わないままに顔認証システムを実用化することには重大な問題がある。

情報主体である私たち主権者は、行政機関や民間事業者によってデータを収集・分析・利活用されるただの客体に成り下がり、一人一人の市民の自己決定や自己実現が妨げられ、市民社会全体が萎縮するおそれすらある。

デジタル社会の制度設計にはあらかじめプライバシー保護措置を組み込んでおくことが必要である。その制度設計に市民自身が参加し、その意見を反映させることができなければ、事後的にプライバシー保護を図ることは困難である。

当連合会は、上記の第53回人権擁護大会において、「『高度情報通信ネットワーク社会』におけるプライバシー権保障システムの実現を求める決議」を採択したところであるが、その後、デジタルプラットフォーマーの活動が著しく広がったこと、政府の主導により、官民を横断するデータの利活用が強く推進されていることを踏まえ、以下のとおり、国に対しデジタル社会において人間の自律性と民主主義を守り、プライバシー権・自己情報コントロール権を確保するための法制度や原則の確立を求める。

1 デジタルプラットフォーマー(プロバイダ、通信事業者を含む)に対する自己情報コントロール権を確立し、民主主義の基盤を崩さないようにするため、以下の内容を含む法律を制定すべきである。

 (1)クッキー(Cookie)を始めとした、市民のデジタル社会における行動履歴を同定し得る情報については、事前同意を要件として取得するものとし、同意が得られない場合にもサービスから排除しないこと。

 (2)収集している個人情報のみならず、個人識別可能性のある情報についても、その種類、利用範囲を明示し、利用結果、第三者提供の結果についての公開を図ること。

 (3)利用者に対して、プロファイリングされない権利、削除権、データポータビリティ権等、GDPR(一般データ保護規則)で規定される諸権利を保障すること。

 (4)収集した情報に対して適用されるAIのアルゴリズム(ディープラーニング後のものも含む)及びその適用後のデータ処理について、少なくともその基本構造を公開し、説明すること。

 (5)フェイクニュースに対する自主規制ルールの設定と実践を行うとともに、その結果を公開すること。

 (6)信頼性の高い情報、多様な意見との接点の確保が図られるためのアルゴリズムの設定、実践を行うとともに、その結果を公開すること。

2 デジタル社会における市民のプライバシー権・自己情報コントロール権の保障を実質化するため、以下の点を現行法の改正又は新たな法律の制定によって具体化すべきである。

 (1)個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)について、以下の諸点を改正し、プライバシー保護をGDPRと同水準に引き上げるべきである。

  ① 収集の必要性・相当性のない個人情報を処理しないこと。
  ② 他の情報と組み合わせれば個人識別が可能となり得るような個人識別可能性のある情報についても、保護の対象とすること。
  ③ プロファイリングされない権利、削除権、データポータビリティ権等を保障すること。
  ④ 個人情報保護委員会について、プライバシー保護に専念する機関とするようその存在目的を設定し直し、調査権限等を充実させて、プライバシー保護機能を強化すること。

 (2)公権力が、自ら又は民間事業者を利用して、市民のデジタルデータを網羅的に収集・検索する方法で監視する行為を禁止すること。

 (3)個人番号や個人番号カードが、行政機関や民間事業者による情報監視の基盤とならないよう、個人番号制度は抜本的な見直しを行うか、個人番号及びマイキーID等といった個人識別符号の利用範囲の大幅な限定等を行うこと。

 (4)既存の政府の情報収集機関のほか、デジタル庁や警察庁サイバー局の設置等により、公権力による個人情報の収集管理が強化されている状況において、情報機関の監視権限とその行使について、厳格な制限を定め、独立した第三者機関による監督を制度化すること。

 (5)顔認証システムについて、法律により、官民を問わずその利用を原則禁止とした上で、厳格な設置・運用条件を設定するとともに、その基礎データを供給し得る監視カメラについても厳格な設置・運用条件等に関する要件を明示し、さらに個人情報保護委員会の管理監督下に置くこと。

3 日本のデジタル社会の推進に当たっては、市民のプライバシー権・自己情報コントロール権の保障を実質化するとともに、デジタル政策を民主化するため、政府は、以下の諸点を遵守すべきである。

 (1)市民のプライバシーを最大限保障することを大前提として、同意原則を十分に尊重し、不同意者に不利益を与えないように制度を設計し、その範囲で利便性や効率化等を図ること。

 (2)プライバシー影響評価を事前に行った上でその結果を公表し、市民の意見を反映し、あらかじめプライバシー保護に配慮した制度設計を行うこと(プライバシー・バイ・デザイン)。

 (3)行政の効率化を最上位の目標とすることなく、必要なシステムの設計においても、最大限に地方自治を尊重したものとし、また地方自治体レベルでの設計も許容することとし、かつ意思決定に際しては地方自治体の意見を十分に聴取して、これを反映させること。

 (4)市民提案型の制度を採用するとともに、それが実現されるまでの間においても、制度設計について、行政機関、業界側だけでなく、消費者側、市民側の代表者を少なくとも半数程度は参加させ、その意見を反映させること。

 (5)オンライン上で生成される個人情報の蓄積・管理、運用に関して、市民自らが個人データの秘匿や共有をコントロールできる仕組みを確立すること。

当連合会は、デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守る決意である。

以上のとおり決議する。

2022年(令和4年)9月30日
日本弁護士連合会











by kazu1206k | 2022-10-05 16:09 | 時評 | Comments(0)

佐藤かずよし


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