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高裁前スタンディング、「一審判決破棄、自判又は差戻を求め」上申書提出

 11月21日正午、福島刑事訴訟支援団は、東京高裁前で、一審判決の破棄をめざし、約50人がランチタイム・スタンディングを行いました。午後1時過ぎ、弁護士と代表団が、東京高裁刑事部の担当官に面会、「一審判決を破棄し公正な判決を求める署名」を提出。弁護団は、被害者参加代理人として「一審判決を破棄し、自判又は差戻を求める上申書」(下記に掲載)を東京高裁刑事10部に提出しました。
 福島原発刑事訴訟の控訴審は、去る6月6日に結審し、来年1月18日に判決言い渡しが指定されましたが、東電刑事裁判の東京地裁永淵裁判長の不当な無罪判決を覆す、東電株主代表訴訟の地裁判決の勝利を受けて、「一審判決を破棄し公正な判決を求める署名」活動を進め、東京高裁に対し署名や上申書を提出しながら、結審後も、粘り強い闘いを続けています。
 私たちは、諦めません!「月いちランチタイムスタンディング」は、12月20日にも実行し、東京高裁に訴えます。

●上申書(一審判決を破棄し、自判又は差戻を求める)

令和元年刑(う)第2057号
(原審 令和元年9月19日判決(平成28年刑(わ)第374号業務上過失致死傷被告事件))
被告人 勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄

                     2022年(令和4年)11月21日

東京高等裁判所 第10刑事部 御中

                 被害者参加代理人 弁護士 河 合 弘 之
                           同  海 渡 雄 一
                           同  甫 守 一 樹
                           同  大 河 陽 子

本書面では、一審判決を破棄し、自判又は差戻を求める被害者参加代理人としての意見を述べます。

1 貴裁判所は、指定弁護士が申し立てた弁論再開申立て、及び、本年7月13日に東京地方裁判所商事部において言い渡された東電株主代表訴訟の一審判決(東京地方裁判所平成24年(ワ)第6274号損害賠償請求事件、同第20524号共同訴訟参加事件、同第30356号共同訴訟参加事件、平成25年(ワ)第29835号共同訴訟参加事件)(以下「東電株代判決」という。)の事実取り調べ請求を却下し、異議申立ても却下しました。

2 これらの決定は大変残念ですが、既に取調べ済みの証拠を公平な視点で検討いただければ、結論は一審判決破棄にしかなり得ません。
 一審判決は、予見可能性について、運転停止措置を法的に義務付けるに相応しい予見可能性とし、本件原発に10m盤を超える津波が襲来する可能性については合理的に予測される程度に信頼性、具体性のある根拠を伴うものであることが必要であったとした上で、「平成23年3月初旬の時点において、「長期評価」の見解が客観的に信頼性、具体性のあったものと認めるには合理的な疑いが残る」と判示しました。
 しかし、指定弁護士の主張する結果回避措置は、運転停止措置に限りません。
 他の具体的措置として、防潮堤の建設、防潮壁の設置、電源設備等の水密化や高台設置なども主張しています。一審判決が結果回避措置を運転停止措置に限定したことは誤りであり、このことは指定弁護士作成の控訴趣意書に明快に説明されています。
 そして、仮に予見可能性と結果回避義務との相関性を肯定する見解に立ったとしても、あくまで10メートル盤を超える津波の襲来という結果を回避するための具体的措置に相応する予見可能性を検討すれば足ります。
 長期評価が10メートル盤を超える津波の襲来という結果を回避するための具体的措置に対応する信頼性を有することは、本件刑事事件とほぼ同じ証拠に基づいて判示された東電株主代表訴訟判決が長期評価の信頼性を肯定していることからも明らかです。
 また本件刑事事件の証拠の多くを用いている最高裁令和4年6月17日第二小法廷判決(令和3年(受)342号、同1165号、同1205号、令和4年(受)第460号)も、長期評価の信頼性を前提に判示し、これを否定していません。多数意見は、「経済産業大臣が、本件長期評価を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付けていた場合には、本件長期評価に基づいて想定される最大の津波が本件発電所に到来しても本件敷地への海水の侵入を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高いということができる。」(同判決8頁)と判示しているとおり、長期評価が経済産業大臣の規制権限行使の契機になることを前提とし、東電には長期評価を前提に津波対策の義務があったことを前提にしています。つまり、国の国家賠償責任を否定した最高裁判決でさえ、長期評価に津波対策を基礎づける信頼性が認められることを前提としていると理解できるのです。
 他方で、最高裁判決の三浦守裁判官の反対意見(以下「三浦意見」といいます。)は、理路整然と長期評価の信頼性を肯定しています。三浦意見では、地震調査委員会が地震防災対策の強化を図ること等を目的とする法律に基づき専門機関として政府に設置され、地震に関する調査研究の成果を国民や防災担当機関に十分に伝達され活用されることを目的とした機関であることを確認した上で、長期評価は地震防災対策の強化等を図るために、それまでに得られている科学的、専門技術的知見を用いて適切な手法により行われたものであるとして、信頼性を肯定しています。長期評価の審議において様々な仮説や個人の見解が示されたことについても、長期評価がそれらを含め、最新の知見を用いて、具体的な検討と審議を経て、多くの専門家の賛同により取りまとめられたこと自体、その信用性を高めるものであると判示しています。三浦意見は、長期評価の法的位置づけを正しく捉え、審議経過も正しく評価しており、揺るぎようがありません。多数意見は、法律に基づくと地震調査研究委員会の設置目的等に触れざるを得ず、三浦意見を否定することはできないと考えたからこそ、長期評価の信頼性に直接触れることなく、結論を示すという不可解な判示になったと考えられます。長期評価の信頼性を法律に基づき正しく肯定する三浦意見こそが真の最高裁判決だったと評価できます。
 以上のとおり、本件刑事事件で取り調べ済みの証拠を公正に検討すれば、東電株主代表訴訟判決と最高裁判決の三浦意見のとおり、長期評価の信頼性は肯定されることは明らかで、この点において、一審判決は破棄するしかありません。

2 一審判決破棄を前提に、結果回避可能性についてみると、最高裁判決の三浦意見は、防潮堤等の設置には年単位の相当の期間を要したと推認されるとし、それが完成するまでの間は原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがあり、防潮堤等の設置が完了するまでの間、水密化等の措置が必要かつ適切な措置であったと判示しています。
 水密化について、詳細な認定をしている東電株代判決では、主に東京電力社員である上津原勉氏の調書と大山嘉博氏の調書に基づき、どのような水密化処置が可能であり、事故防止のために有効であったかを認定しており、本件刑事事件でも同様の認定をすることが十分に可能です。
 東京地方裁判所民事8部の裁判官らは、現地進行協期日として、福島第一原発の敷地内で建屋の配置、機器の配置、開口部などを自ら見て回り、大山氏の供述調書や上津原氏の供述調書で述べられている水密化の必要な箇所、水密化工事の内容、その容易さが信用に値することを現地で確認しており、上記認定に確信を持っていたことが判決文からもうかがうことができます。
 また、これら2名の調書に加えて、元東芝所属で福島第一原発の設計技術者であった、渡辺敦雄氏、後藤政志氏の証人尋問調書と調書に引用された関連書証、尋問後に提出された両名作成の回答書(甲961「東電株主代表訴訟 原告弁護団への回答」)等が証拠として取り調べられています。
 これら東電株主代表訴訟で取り調べられた証拠関係と比較すると、貴裁判所におかれては、結果回避可能性について的確に判断をするにはいささか証拠が不足しているとお考えになるかもしれません。福島原発事故についての刑事責任という極めて重大な問題について、十分な証拠調べを実施し、くれぐれも拙速な判決をすることにないよう求めます。そして、そのために、一審に事件を差し戻したうえで、追加で入念な証人尋問や原発現地での検証等による充実した審理をするために差戻判決をされるよう求めます。
 福島第一原発事故は、本件刑事事件の被害者のみならず、多くの人々の生活、人生を壊し、事故から11年を経過しても国土を失わせたままの未曽有の事故です。戦後日本における最大の公害事件と言っても過言ではありません。多くの人々が、塗炭の苦しみを経験し、現在でもその苦しみの真っただ中にいます。これほどの未曽有の事故について、拙速な判断をされることのないよう、入念な証拠の検討を経たうえで、歴史的な破棄自判もしくは、破棄差戻の判決を出すよう強く申し入れます。

                  以上

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by kazu1206k | 2022-11-21 22:48 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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