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原賠審の中間指針第五次追補で、福島県弁護士会声明

 福島県弁護士会は、原子力損害賠償紛争審査会が昨年12月、約9年ぶりにようやく出した「原賠審中間指針」の「第五次追補」に関する会長声明を公表しました。
 中間指針については、被災者が集団訴訟を起こし、被災自治体はじめ多くの人々、団体が見直しを求めてきました。しかし、審査会は見直しを認めず、ようやく昨年6月に損害賠償請求の集団訴訟事件7件の最高裁判決によって高裁判決が確定したことから、専門委員がこれらの確定判決を調査検討したことを受けて第五次追補が決定されたものです。
 声明では、「中間指針第五次追補が新たに追加した賠償費目や増額した金額を見ると、7件の集団訴訟の確定判決が認容した水準にまでは達していない」「原賠審が、これに比肩するだけの独自の審理・調査を十分に尽くさないまま、各判決の判断にすら達しない結論に至ったことは残念である」とし、「中間指針第五次追補は、主として個人の精神的苦痛に対する慰謝料を対象としているが、本件事故による被害は、それに留まらない。営業損害、廃業補償、間接損害、関連死や関連障害による賠償など、原子力事故から派生する様々な損害があり、既存の中間指針及びその追補がその現状を適切に踏まえ、十分な内容の賠償を示し、かつ、ADR等の場で具体的に機能するような指針を示しているとは到底言えない現状がある。精神的慰謝料のみならず、それらの損害の調査・研究も引き続き行い、指針として取り込めるものについては、指針を策定すべきである」として、事故の被害者の完全救済の実現に一歩でも近づくため、「原賠審に対し、① 司法判断の確定を待つという消極的な態度を改め、自ら被害実態の全体像を詳細に調査すること ② その調査の結果を踏まえて、これまでの指針及び司法判断の水準が被害実態に見合ったものであるかを真剣に検討し、現実の被害実態に即した指針の見直しを実行すること」などを求めています。

●原賠審中間指針第五次追補に関する会長声明

 原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)は、2022(令和4)年12月20日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)の第五次追補(以下「中間指針第五次追補」という。)を決定、公表した。実に約9年ぶりに賠償の指針が見直されたことになる。

中間指針第五次追補は、東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)による損害賠償請求の集団訴訟事件7件の高裁判決が確定したことを受け、専門委員がこれらの確定判決を調査検討したことを踏まえて決定されたものである。そして、「過酷避難状況による精神的損害」「生活基盤の喪失・変容による精神的損害」「相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害」「精神的損害の増額事由」及び「自主的避難等に係る損害」の5つの項目について、追加・増額が示されている。

これまで、当会は従前の指針による賠償が被害実態に見合っていないことを指摘し、中間指針の見直しを強く求めてきた。被災自治体をはじめとする各種団体も同じく見直しを求めている。今回の中間指針第五次追補の公表は、これまでの集団訴訟や要望等の一つの成果であると言うことができる。また、追加・増額を示したことも、前進と評価できる。

しかし、これまでの9年間、原賠審は「集団訴訟の判決が確定しておらず、(指針見直しの)時機が熟していない」などとして、指針の見直しに着手しなかった。原賠審は、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)に基づき、原子力事故の被害者を早期に救済するために、訴訟等の法的手続によらない「当事者の自主的紛争解決の目安」を示すことが目的のひとつとされており、中間指針が本件事故から5か月足らずの時期に策定されたことを考えれば、被害の広がりや深刻さを独自にかつ詳細に調査し、指針の見直し作業を早期に適宜行うことが必要であったし、十分に可能であったはずである。

すなわち、今回の改訂内容を見ると、相当以前から、原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続(以下「ADR」という。)で論点となっていたものばかりであり、総括基準や和解案として具体化もされていたものであった。原賠審に、各種団体からの早期の指針改定を求める意見に耳を傾け、ADRの情報を積極的に収集し、類型化可能なものを指針に取り込む姿勢があれば、本件事故の被害者らが最も必要としていた時期に、追加・増額賠償が実現していた可能性は高い。それにも関わらず、指針改訂を先送りにしてきた原賠審の態度は、原賠法において求められている原賠審の役割にもとるとの批判は免れられない。

9年という長期間の経過により、被害者の死亡や世帯変動などが多数生じており、中間指針第五次追補に基づく賠償が迅速かつ円満に実施されるかについても懸念が生じている。指針の見直しへの着手の遅さが、こうした懸念を生んでいることも重く受け止められるべきである。

さて、中間指針第五次追補が新たに追加した賠償費目や増額した金額を見ると、7件の集団訴訟の確定判決が認容した水準にまでは達していない。各判決の賠償水準にも差異があることに加え、中間指針はあくまで「自主的解決の目安」であって、ある程度類型的な認定とならざるを得ないことからすれば、たしかにやむを得ない側面もある。

しかし、各判決は、尋問などを通じていずれも被害者の声を直接に聞き、また検証などを通じて被害現地を実際に見聞した上で判断をくだしており、居住区域に応じて一律請求を求めた訴訟もあるところ、原賠審が、これに比肩するだけの独自の審理・調査を十分に尽くさないまま、各判決の判断にすら達しない結論に至ったことは残念である。

さらに、中間指針第五次追補は、主として個人の精神的苦痛に対する慰謝料を対象としているが、本件事故による被害は、それに留まらない。営業損害、廃業補償、間接損害、関連死や関連障害による賠償など、原子力事故から派生する様々な損害があり、既存の中間指針及びその追補がその現状を適切に踏まえ、十分な内容の賠償を示し、かつ、ADR等の場で具体的に機能するような指針を示しているとは到底言えない現状がある。精神的慰謝料のみならず、それらの損害の調査・研究も引き続き行い、指針として取り込めるものについては、指針を策定すべきである。

そこで、当会は、本件事故の被害者の完全救済の実現に一歩でも近づくため、
1 原賠審に対し、
① 司法判断の確定を待つという消極的な態度を改め、自ら被害実態の全体像を詳細に調査すること
② その調査の結果を踏まえて、これまでの指針及び司法判断の水準が被害実態に見合ったものであるかを真剣に検討し、現実の被害実態に即した指針の見直しを実行すること
2 東京電力ホールディングス株式会社に対し、
直ちに、被害者に対して請求書の送付などの賠償金支払手続を開始するとともに、中間指針第五次追補に直接示されていない賠償項目等についても、事故との相当因果関係が認められる限り適正に賠償金を支払うことを求める。

2023年(令和5年)年1月16日
福島県弁護士会
会長 紺 野 明 弘











by kazu1206k | 2023-01-21 21:32 | 脱原発 | Comments(0)