原子力市民委員会は1月18日、岸田政権に対して、法的根拠のないGX実行会議で決定した基本方針を白紙撤回し、改めて国民への説明と熟議の場を設けることを求める声明を発表しました。
声明: 国民の意見を聴かない 岸田政権による原子力政策転換は許されない
〜改めて国民への説明と熟議の場を設けよ〜
2023年1月18日
2023年1月19日(訂正版)
原子力市民委員会
座長: 大島堅一
委員: 後藤政志 清水奈名子
茅野恒秀 松久保 肇
武藤類子 吉田明子
2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故で発せられた原子力緊急事態宣言がいまだに解除されていない中、岸田政権は、原子力回帰へと舵を切ろうとしている。岸田政権は、2022年12月22日のGX実行会議で決定した基本方針(「GX実現に向けた基本方針 〜 今後10年を見据えたロードマップ〜」)に関する意見公募(パブリックコメント)を経て、2月に基本方針を閣議決定し、次期通常国会での関連法改定を目論んでいる。
GX実行会議での決定を受け、例えば『沖縄タイムス』は、12月27日に社説で「原発政策大転換 福島の事故忘れたのか」と題し、「将来に禍根を残す決定だ」「国会での議論や国民への説明を軽視して進められている。到底容認できるものではない」と強く批判している。また、『北海道新聞』も12月23日付社説で「原発頼みを加速させる政府の方針転換は、将来に大きな禍根を残す」としている。岸田政権の原子力回帰策は、福島原発事故被害者を含め、多くの国民から支持されていない。
GX実行会議で決定した基本方針の内容については、私たちが12月に出した声明※1でも多くの問題があることを具体的に指摘した。これらの内容上の問題に加え、今回批判の対象になっているのは国民に丁寧に説明せず、国民参加の場をつくらない岸田政権のやり方である。問題は次の4点に整理できる。
● 第1に、福島原発事故後の原子力政策を根本から変えるものであるにもかかわらず、岸田首相は、国民に対して原子力政策転換の内容や理由を説明していない。GX実行会議は岸田首相の決裁で開かれたものである。岸田首相は、国会でも記者会見でも、自らが始めたGX実行会議について丁寧に説明をしたことがない。
● 第2に、GX実行会議では、原発事故被害者を含め、原子力発電に対する反対や懸念の声が完全に無視されている。GX実行会議の前段階で開催された国の審議会(総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会、同基本政策分科会)でも、原子力産業の利害関係者や原子力開発推進論者が委員の大多数を占めていた。一方、原発事故被害者は参加の機会を与えられず、政策の問題点を述べた少数の委員の意見は完全に無視され、基本方針にも反映されていない。
● 第3に、基本方針決定までの期間が極めて短く、十分な検討がされていない。岸田首相が、GX実行会議で原子力政策の検討を指示したのは8月24日である。その後、原子力小委員会で政策の検討が開始されたのは9月22日、結論がだされたのは12月8日であった。つまり、原子力政策に関する実質的審議期間は2ヶ月半しかなかった。
● 第4に、意見公募(パブリックコメント)期間が短すぎる。今回、意見公募にかけられたのは4つの政策文書※2である。いずれも、原子力政策に関する専門的内容を含んでいる。そのため、国民がこれらの政策文書の内容を知り、内容を理解し、意見を表明できるまでには時間を要する。にもかかわらず、公募期間は年末年始を含めて30日間に限定され、国民には考える時間がほとんど与えられていない。
総じて言えば、岸田政権は、国民参加はおろか国民の声を聴くつもりが全くない。もともとGX実行会議の決定には法的根拠すらない。本来、エネルギー需給にかかわる基本方針は、エネルギー政策基本法によりエネルギー基本計画で定められることになっている。2021年に定められた第6次エネルギー基本計画には、今回定めようとしている運転期間の延長や原発新設は含まれていなかった。GX実行会議の決定には、内容にも決定プロセスにも正当性が無い。岸田政権は、GX実行会議で決められた基本方針を撤回すべきである。
福島原発事故は今も続いており、被害からの回復と事故処理の課題は残されている。福島原発事故後の2012年に、当時の民主党政権は、原子力発電の将来に関する国民的議論※3を実施し、国民の意思を確認した上で、原発ゼロ社会を目指すことを決めた。基本方針を白紙撤回した上で、国民に熟議の機会を設けるよう強く要求する。
以上
※1 原子力市民委員会「岸田政権による原子力政策の転換に関する声明〜原発はなんの解決にもならず、問題を悪化させる〜」(2022年12月21日) www.ccnejapan.com/?p=13317
※2 原子力規制委員会「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要(案)」(2022年12月21日)、資源エネルギー庁「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」(2022年12月23日)、GX実行会議「GX実現に向けた基本方針〜今後10年を見据えたロードマップ〜」(2022年12月22日)、原子力委員会「原子力利用に関する基本的考え方(案)」(2022年12月23日)
※3 2012年のエネルギー政策転換に関する「国民的議論」では、(1)意見聴取会(2)パブリックコメント(3)討論型世論調査という3つの方法によって国民の意思確認が行われた。