日本弁護士連合会は、3月29日付けで「マイナンバー(個人番号)利用促進の法改正の再検討を求める会長声明」を公表しました。
政府は、今国会で、①国家資格等に関する事務にマイナンバーを利用できるようにする利用分野の拡大、②行政手続における特定個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)別表第1に限定列挙されていた利用事務を、それらに「準ずる事務」であればマイナンバーを利用できるようにし、また、番号法別表第2に限定列挙されていた情報照会・提供が認められる機関と事務も政省令で定められるようにする、③公金受取口座について、名義人が不同意の回答をしない限り、国がマイナンバーとひも付けて登録する制度を創設するなどの、マイナンバー(個人番号)の利用促進を図る法改正を行おうとしています。
これらについて、「マイナンバーは、悉皆性、唯一無二性を持つ、原則生涯不変の個人識別番号であることから、その利用分野・事務を拡大すれば、より広範な個人情報が番号にひも付けられた上、漏れなく・他人の情報と紛れることなく名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険性が高まる」として、「マイナンバーの利用分野・事務の拡大や法規制の緩和などを行うべきではなく、上記の法改正は再検討されるべきである。また、政府等によるマイナンバーカードの普及・利用促進策も、任意取得の原則に反しないよう見直されるべきである。」としました。
マイナンバー(個人番号)利用促進の法改正の再検討を求める会長声明
政府は、今国会において、マイナンバー(個人番号)の利用促進を図る法改正を行おうとしている。その内容は、①国家資格等に関する事務にもマイナンバーを利用できるようにするなど利用分野を拡大すること、②行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)(以下「番号法」という。)別表第1に限定列挙されていた利用事務を、それらに「準ずる事務」であればマイナンバーを利用できるようにし、また、番号法別表第2に限定列挙されていた情報照会・提供が認められる機関と事務について、政省令で定められるようにすること、③公金受取口座について、名義人が不同意の回答をしない限り、国がマイナンバーとひも付けて登録する制度を創設することなどである。同時に、マイナンバーカードの券面に氏名のローマ字表記を追記できるようにすることなども目指されている。
しかし、マイナンバーは、悉皆性、唯一無二性を持つ、原則生涯不変の個人識別番号であることから、その利用分野・事務を拡大すれば、より広範な個人情報が番号にひも付けられた上、漏れなく・他人の情報と紛れることなく名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険性が高まる(本年3月9日のマイナンバー制度に関する最高裁判所判決においても、具体的な法制度やシステムの内容次第では、このような危険が生じ得ることが指摘されている。)。それゆえに、番号法は、その利用分野を社会保障制度、税制及び災害対策の3分野に限定し(第3条第2項)、かつ、それらの分野内の利用事務についても国会の審議に基づいて法律で定めた事務についてのみ認め(第9条)、マイナンバー付き個人情報の提供を厳格に制限し(第19条)、それらの制限違反について通常の個人情報の場合よりも重い罰則を科す(第9章)など、厳格な規制を行ってきたのである。
それにもかかわらず、上記の法改正に対する事前のプライバシー影響評価(PIA)手続すら行わないまま、利便性や効率性のみを追求して法改正を急げば、2021年5月に成立したいわゆるデジタル改革関連法で「自己情報コントロール権」の保障が実現されていないことともあいまって、プライバシー保障上の危険性が極めて高まるものといわなければならない。マイナンバーの利用分野・事務を拡大すべきではなく、利用事務については、少なくとも国会での十分な審議を行って法定する手続が必要である。
また、公金受取口座とマイナンバーのひも付け登録には、名義人の積極的な同意を求めるべきであり、名義人が知らないうちにひも付けされてしまうような方法をとるべきではない。マイナンバーカードの券面の記載に関しても、記載事項を増やすことではなく、マイナンバーや性別の記載を削り、プライバシーや性同一性障害者の人権保障に資するよう見直すことこそ必要である。
法改正と併せて、政府は、マイナンバーカードの普及・利用促進のため、健康保険証の廃止によって事実上マイナンバーカードの取得を義務化するような施策を進めている。これを受けて、地方自治体においても、例えば岡山県備前市が給食費等の免除を継続するために児童生徒の世帯員全員のマイナンバーカード取得を要件とする条例を制定するなど、事実上マイナンバーカードの取得を強制する施策が相次いでいる。
しかし、当連合会が「個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」(2021年5月7日)等で指摘したとおり、このような施策はプライバシー保障上の問題があるばかりか、番号法が定める任意取得の原則にも反するものであって中止すべきである。
以上のとおり、マイナンバーの利用分野・事務の拡大や法規制の緩和などを行うべきではなく、上記の法改正は再検討されるべきである。また、政府等によるマイナンバーカードの普及・利用促進策も、任意取得の原則に反しないよう見直されるべきである。
2023年(令和5年)3月29日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治