5月3日は、日本国憲法が施行されてから76年目の憲法記念日。
日本国憲法は、アジア太平洋15年戦争の敗戦を受け、1947年5月3日に施行されました。
憲法前文は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の三大原理を唱い、平和主義、個人の人権として平和的生存権を強調しています。平和主義の憲法9条と社会権である生存権を国民に保障し国にその向上と増進を求める憲法25条の重要性が示されています。
憲法は、主権者である国民が国家権力を縛るという立憲主義の下で、個人の権利を保障するため国家権力を規制する最高法規です。
今、日本社会では、諸物価高騰が市民の生活を直撃し、格差の拡大、貧困の深刻化と、生存権が脅かされています。
ロシアによるウクライナ侵攻以来、危機に乗じて、台湾有事を煽り、危機便乗型の軍事増強、人々と日本社会を戦争に動員しようとする動きが進んでいます。政府は、昨年12月16日、外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書を改定して閣議決定、敵基地攻撃能力の保持、南西諸島へのミサイル配備、新弾薬庫建設など台湾有事に向けた沖縄の軍事要塞化を進めています。
また、国会でも、9条改憲に向けた前段として、非常事態に備え国会議員の任期を延長することなどの憲法改正必要論が強まり、緊急事態条項を加える憲法改正の方向が改憲勢力によって進められています。
厳しい日本の憲法状況をしっかり認識し、行動しなければならない2023年の憲法記念日です。
5月3日、日本弁護士連合会は、会長談話を公表しました。以下、ご紹介します。
⚫︎憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
本日は、日本国憲法が施行されてから76年目の憲法記念日です。
新型コロナウイルスの感染拡大から3年余りが経過し、間もなく感染症法上の位置付けも2類相当から5類に移行します。しかし、いまだに私たちの日常生活には大きな制約が続き、人間関係、労働、経済活動など社会生活における多くの場面で不安を抱えています。
また、昨年2月にロシアがウクライナへ行った軍事侵攻は、いまだ解決のめども立っておらず、多くの犠牲者を出し続けているとともに、世界中に重大な被害と混乱、不安をもたらし続けています。
このような不安な社会情勢の中で、政府は、抑止力の強化等を掲げ、昨年12月16日、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を閣議決定し、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃するためのいわゆる「敵基地攻撃能力」や、更には、攻撃対象を「敵基地」以外に拡大することになりかねない、いわゆる「反撃能力」の保有を進めようとしています。
しかし、戦力不保持を掲げる憲法9条の下、敵基地攻撃能力や反撃能力を保有すべきではありません。敵基地攻撃能力・反撃能力の保有は、近隣諸国に脅威と不信を呼び起こして日本が戦後築いてきた平和的外交関係を損ねかねないものであり、決して日本の安全性を高めるものとはなりません。政府は、武力に依拠するのではなく、日本国憲法が掲げる恒久平和主義、国際協調主義の原理に基づき、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすべきです(2022年12月16日付け「「敵基地攻撃能力」ないし「反撃能力」の保有に反対する意見書」)。
また、国会では、大災害や国家有事、感染症蔓延などの非常事態に備えて、国会議員の任期を延長することなどを含めた憲法改正が必要であるとの論調がますます強まり、緊急事態条項を加える憲法改正を進める方向で議論が重ねられています。
しかし、緊急事態条項は、極度の権力集中による政府の権力濫用の危険性が極めて高く、国民主権の原理への弊害も大きいものであるため、憲法改正ではなく、大災害が発生した場合にも選挙を実施できる制度に改めること等で対応すべきです(2022年5月2日付け「憲法改正による緊急事態条項の創設及び衆議院議員の任期延長に反対する会長声明」)。
今必要なことは、国会において拙速に憲法の改正を進めることではなく、憲法改正の要否等について、様々な観点を踏まえ、国民の間で十分に議論を尽くしていくことです。そのためにも、憲法改正手続法において検討や見直しが必要な課題を国会で十分に議論を重ねることが必要です。特にインターネット広告については、憲法上の表現の自由の重要性を踏まえつつも、憲法改正手続において国民の意思を適正に反映するために、インターネット広告市場の実態に即した一定の規制をすることが必要であり、その課題を残したまま憲法改正の発議を行うべきではありません(2023年4月13日付け「憲法改正手続法における国民投票に関するインターネット広告の規制に関する意見書」)。
当連合会は、国際情勢がめまぐるしく変化している現状においても、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き人権擁護のための活動を積極的に行ってまいります。
2023年(令和5年)5月3日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治