東京電力福島第一原発事故の責任を問い、東京電力元経営陣3名が業務上過失致死傷罪で強制起訴された福島原発刑事裁判で、検察官役の指定弁護士が9月13日、上告の理由を明示した上告趣意書を最高裁に提出しました。
いよいよ、最高裁判所での闘いの始まりです。
今年1月の東京高裁の控訴審判決は、一審判決を是認し被告3人を全員無罪としました。
控訴審判決は、一審で十分立証された、双葉病院からの危機的な避難と被害者遺族の心情を全く無視したもので、福島第一原発事故で命と生活を奪われた被害者・遺族のみなさんの納得を到底得られない誤った判決でした。
また、原子力関連法令の趣旨・目的を踏まえていない誤った判決で、判決要旨に原発事故の記載もなく、原発事故の被害も考慮せず、必要な事故対策をしないことを免罪し、次の原発事故を準備する危険な論理となっています。
指定弁護士は、会見して、高裁判決は、「著しく正義に反する判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認、審理不尽」と「法例違反がある」として、高裁判決の破棄を求めました。上告趣意書の解説のあと、石田省三郎弁護士は「最高裁では、我々の主張が認められると確信していると述べました。
上告趣意書の概要は、以下の通りです。
【上告の趣旨】
原判決には、①著しく正義に反する判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認、審理不尽(刑訴法411条3号)、②法例違反(同条1号)がある。
【上告の理由】
●結果回避可能性について(第4)
O.P.+15.707mの算定結果に基づいた対策が、本件津波に関して、防潮堤の高さが不十分なものであったとしても、水密化などの全ての対策を講じていれば全電源喪失に至ることはなく、本件事故を回避できた。
本件事故前の時点で、水密化等の対策についての知見も技術もあり、他の発電所にも実施例があり、東京電力もそのことを認識していたのであり、「後知恵」などではない。
●被告人らの認識と刑事責任(第1~3)
被告人らの過失責任を否定した原判決の判断は、いったん事故が発生すれば、甚大な被害を惹起する可能性が極めて高い福島第一原子力発電所の安全性を確保する第一義的責任を負うのは、東京電力であり、具体的には、東京電力の最高経営層に属する被告人らにあることを全く忘れた論理である。
被告人らは、各人の認識、立場に応じた義務があったにもかかわらず、何らの対処をすることなく、漫然と、福島第一原子力発電所の運転を継続した過失があり、この過失により本件事故を引き起こしたのである。
●予見可能性の判断において、「現実的な可能性」があると認識することを要求した誤り(第6)
「現実的な可能性」という言葉が、10m盤を超える高さの津波襲来の「切迫性」や「確実性」を意味しているとすれば、これまでの「具体的な可能性」よりも、相当に程度の高い可能性を要求していることになる。そうであれば、原判決は、被告人らの過失犯の成立の判断において、不当に高い予見可能性を要求する誤りを犯している。
●「長期評価」は、10m盤を超える津波が襲来することの具体的可能性を認識させる性質を備えた情報であったこと(第7)
最高裁判決(最高裁第二小法廷令和4年6月17日集民268号37貢等)も、「明治三陸沖地震の断層モデルを福島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上、平成14年津波評価試算が示す設計津波水位の評価方法」に従って算出された計算結果の合理性を明確に認めている。
以上
福島第一原発事故は、多くの人々の生活、人生を壊し、事故から12年を経過しても国土を失わせたままの未曽有の事故であり、日本における最大の公害事件です。被害者・被災者は、現在もその苦しみの只中にいます。今も続く過酷な福島原発事故の被害に真摯に向き合い、原子力行政に忖度した不当な判決を覆すために、最高裁においては、ぜひとも「弁論を開いて、原判決を見直せ!」と、全国から声をあげていきましょう。
10月1日東京、10月7日福島で「東電刑事裁判 最高裁に向けて キックオフ集会」を開きます。上告趣意書を読み解き、被害者の思いをしっかり受け止め、最高裁に向けて決意を新たに、闘いをスタートさせます。汚染水の海洋放出を強行した、東京電力の無責任体制に終止符を打たなくてはなりません。誤った原子力政策にくさびを打ち込みましょう。みなさまのお力をお貸しください。ぜひ、ご参加をお願いいたします。
この闘いに向け、新刊本『東電刑事裁判 問われない責任と原発回帰』(編著:海渡雄一・大河陽子)が刊行されました。
刑事裁判を中心にGX法や甲状腺がん、福島イノベーションコースト構想まで多岐にわたる内容です。現情勢をとらえた必読書です。集会で販売とサイン会を行います。書店や支援団で販売中です。