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ALPS処理汚染水放出差止訴訟の概要と訴えのポイント

 9月8日に提訴された、ALPS処理汚染水放出差止訴訟の概要と訴えのポイントについて、弁護団共同代表の海渡雄一弁護士が解説しておりますので、ご紹介します。
 ALPS処理汚染水放出差止訴訟では、第2陣の提訴を10月末に行う予定で、原告への参加を呼びかけています。
 参加できる方は、ALPS処理汚染水差止訴訟原告団事務局(Eメールアドレス:ran1953@sea.plala.or.jp)までお知らせください。

ALPS処理汚染水放出差止訴訟の概要と訴えのポイント

                     令和5年(2023年)9月8日         
                     弁護団共同代表  弁護士 海渡 雄一

1 海洋放出は福島をはじめとする原発事故による被害を被った人々に対する二重の加害行為である
 今回の海洋放出は、福島第一原発事故の被害者に対して、故意に二重の加害を加えるものであり、決して許されるものではありません。
 いま、日本政府は、このALPS処理汚染水の放出について、IAEAの安全基準を順守していると宣伝しています。しかし、そのような説明には以下に述べる通り、根拠がありません。海洋放出の必要性について被告東電は「敷地内に汚染水を収容するタンクを新たに建設する土地がない」「海洋放出は、デブリの取り出しのために必要不可欠」と説明していますが、このような説明は明らかに事実に反します。汚染水を収容するタンクを新たに建設する土地は確かにあります。デブリの引き上げなど、いつできるか全く見通しも立っていない話です。
 ALPS処理汚染水が海洋放出されれば、原告らが漁獲し、原告らが生産している漁業生産物の販売が著しく困難となることは明らかです。政府は、これらの損害については、補償するとしていますが、まさに、補償しなければならない事態を招き寄せる「災害」であることを認めているのです。さらに、一般住民である原告との関係では、この海洋放出行為は、これらの漁業生産物を摂取することで、将来健康被害を受ける可能性があるという不安をもたらし、その平穏生活権を侵害する行為であるといえます。
 海洋を汚染する物質を他に選択肢があるにもかかわらず、また緊急の必要性もないのに、汚染者自らが環境汚染を拡大することは、環境法規や環境条約にも反する違法行為です。
 原告らの差し止め請求の根拠は漁民については、漁業行使権と漁業にかかる人格権であり、他の漁業関係者と一般市民は人格権(生業を核とする生存権・汚染されない環境で平穏に生活する権利)であります。

2 太平洋諸島フォーラムが委託した専門家パネルの指摘に答えていない
 この海洋放出について、太平洋諸島フォーラムの委託によって、独立した立場で検討を加えた科学者たちのパネルは、日本政府と東京電力から提供されたデータにもとづいて、詳細な検討に基づいて、 2022年8月10日 (2022年11月23日に改訂)に、タンク内の特定の放射性核種に関する東京電力のソースターム(汚染物質の種類、量、物理的・化学的形態など)の知識は、深刻なほど不十分であること、東京電力の測定方法は統計的に不十分で偏っており、タンク内の物質を正確に反映していない可能性が非常に高いこと、稀にしか測定されず、また日常的な測定方法から除外されている55の放射性核種に関する東京電力の推定は、ALPS設備による処理と最終的な希釈と放出を計画するための適切な科学的根拠にはならないこと、統計的にタンク内の物質を正確に反映する方法で測定を行うよう国際原子力機関(IAEA)が強く要求していないこと、 初期の段階でタンクに堆積した汚泥や廃棄物の不均質な分配は十分に考慮されていないこと、複雑で大規模な作業量を考慮すると、ALPSによる検査の量が不十分であること。生態学的影響と生物濃縮への考察は著しく不十分であり、影響を推定するための信頼に足る根拠を示していないこと、トリチウムの場合、有機結合型トリチウムの推定に使われた飲料水の評価モデルは、海洋生態系及びそれに関連する生物相には適用されないため、誤っていること、ストロンチウム90等の幾つかの放射性核種が海洋生態系によって桁違いにもっと再濃縮される可能性が考慮されていないこと、 「希釈が汚染の解決策である」という仮定は科学的に時代遅れであり、生態学的に不適切であること、日本国内外の漁業に甚大な風評被害をもたらすだろう今回の放出計画の場合には、更に不適切であること、世代間および国境を越えた問題であり、より真剣に検討されるべきであり、生態系への影響や風評被害及び国境を越えた悪影響を可能であれば回避するため、より幅広く、徹底的に選択肢の検索が必要であることなどを指摘しています。

3 海は世界の公共のもの、一企業のために汚染することは許されない
 全世界の海がつながっており、世界の人間、生物の共通の生存のよりどころである。このように公共のもの(common)である海にALPS処理汚染水を放出し、再度環境に影響を与えることなど許されるはずがない。
 政府が「処理水」とする水は、取り除かれるべきもののすべてが取り除かれているわけではなく、そもそも国の汚染基準を満たしていない汚染水であることを認識しなければなりません。この汚染水を薄めるから、定められた基準を下回るとして環境に放出することは、どのような毒物も薄めさえすれば、環境中に放出して良いとする考え、海を廃棄物処理場とする考えに基づくものであり、暴挙そのものです。
 このような安全性の確認できない放出行為によって、消費者が日本近海の福島をはじめとする太平洋沿岸の海域で採れた漁業産物の買い控えを行うことは、「風評被害」などと呼ぶべきではなく、極めて正当な、合理的な根拠を有する自衛行為です。汚染水の放出は、一般市民に対する関係においても、市民が平穏に生活する権利を侵害しているのです。このような消費者による行動の結果として、この地域の漁業、水産物加工業、水産物関連の飲食業は、壊滅的な打撃を受けることになることは間違いありません。漁業者は漁協だけでなく、個人一人ひとりが漁業権を保有しています。漁業者、水産加工業、海産物関連の飲食業に従事する者らをはじめとして、地域全体と地域住民の生業の回復を困難にし、その生存権をも侵害することとなるのです。

4 海洋放出はロンドン条約の1996年議定書に違反する
 ロンドン条約の1996年議定書によれば、放射性廃棄物の海洋投棄は低レベル放射性廃棄物であっても、全面的に禁止されています。この議定書は、日本政府による低レベル放射性廃棄物の海洋投棄計画を断念させる目的もあって締結されたものです。
 ところが、日本政府は同議定書によって制限されているのは、船舶・海洋構築物からの投棄であり、今回はそうではないなどとして、ALPS処理汚染水の海洋放出は同議定書の範囲外であると主張しています。議定書によると、「プラットフォームその他の人工海洋構築物から海洋へ故意に処分すること」も禁止されています。
 日本政府は、被告東電が設置した海洋放出のための海底トンネル設備を用いた海洋放出が、「人工海洋構築物から海洋へ故意に処分すること」には当たらないと締約国会議で主張しています。しかし、ALPS処理汚染水が排出されている海底トンネルは、単なるパイプラインとは程遠い、人工海洋構築物と呼ぶにふさわしい大型クレーンを搭載した作業船によって敷設されたものであり、ALPS処理汚染水は、人工海洋構築物から海洋へ故意に処分されているということができます。
このことは、ロンドン条約の締約国会議の事務局がまとめたペーパー(甲10 翻訳は後日提出する) では、締約国間で見解がまとまらなかったされていますが、締約国の中にはこれに反対したスペインのような見解もあり、また、条約事務局の見解としては、法的観点からは、UNCLOSとLC/LPにおけるダンピングの定義の範囲と、UNCLOS第207条の範囲との間には、直接的な境界線はないと指摘し、ロンドン条約96年議定書における「投棄」の定義の意味において、排水管は「海上のその他の人工構造物」であると決定し、そのような区別を明確にするために条約を改正するか、決議によって、それに従って行動を起こすことができるまで指摘しているのです。
 ロンドン条約96年議定書が適用されるとすれば、今回の海洋放出は明確に条約違反だと言えますが、1996 年の議定書は、締約国の一般的義務として、「予防的取組方法を適用し、海洋環境に持ち込まれた廃棄物その他の物が害をもたらすおそれがある場合には、投入及びその影響との因果関係を証明する決定的な証拠があるか否かを問わず、この考え方にしたがい適当な防止措置をとる。」旨規定し、予防原則を採用することを明確に規定しています。海の国際環境汚染を予防するために、予防原則が国際的な合意となっていることは明らかであり、この原則に従って放射性廃棄物の海洋放出は完全に禁止されているのです。

5 本件海洋放出は国連海洋法条約などで定められている海洋環境に関する予防原則に違反する
(1) 国連海洋法条約
 仮に、海底トンネルからの排出について、ロンドン条約の1996年議定書が適用されないとした場合には、国連海洋法条約の規定する陸に起因する汚染の問題となります。
 国連海洋法条約は、まず、「いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ、自国の能力に応じ、単独で又は適当なときは共同して、この条約に適合するすべての必要な措置をとるものとし、また、この点に関して政策を調和させるよう努力する。」と定めています(第194条第1項)。
 「この部の規定によりとる措置は、海洋環境の汚染のすべての発生源を取り扱う。この措置には、特に、次のことをできる限り最小にするための措置を含める。
(a)毒性の又は有害な物質(特に難分解性のもの)の陸上の発生源からの放出、大気からの、若しくは大気を通ずる放出または投棄による放出」(第194 条第3 項(a))
さらに、「いずれの国も、国際的に合意される規則および基準並びに勧告される方式及び手続を考慮して、陸にある発生源(河川、三角江、パイプライン及び排水口を含む)からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための法令を制定する。」(第207条第1項)
「いずれの国も、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な他の措置をとる。」(同第2項)
このように国連海洋法条約は、加盟国に汚染物質の放出を最小限のものにすることを求めており、海洋放出以外の選択肢があるなら、このような選択肢を開発し、実施することを強く求めているといえます。他に選択肢があるにもかかわらず、環境中に放射性物質をまき散らす措置が、国連海洋法条約によって締約国に課せられている義務にも反することは明らかなのです。

(2) 環境基本法4条違反
 そして、このような予防原則は、国内法でも確認されていることです。環境基本法は、福島原発事故以前には、原子力、放射性物質による汚染については適用が排除されていましたが、事故後、原子力と放射性物質による汚染についても管轄することとなっています。
 この環境基本法においては、直接「予防」に言及した記述はありませんが、第4条において、「環境の保全は、(中略)科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行わなければならない。」と規定されています。この規定について、環境基本法の解説(2002年、ぎょうせい編)において「なお、これは、規制等の施策の策定に際して従来以上に科学的な根拠を要求する等の制約を付するものではなく、深刻な、あるいは、不可逆的な環境の保全上の支障が生じるおそれがある場合には、科学的確実性が不完全であることが、環境の保全上の支障の防止のための措置を延期する理由とされるべきでないことはいうまでもない。」と記述されています。
 つまり、環境基本法は予防原則の考え方を導入しているのであり、同法は今日においては、放射性物質による環境汚染をも規律する基本法であり、今回の海洋放出については、予防原則に反することが明らかであり、同法違反を構成するといえます。
 このように、ALPS処理汚染水がもたらす環境汚染の被害が事前に確実に予測できないとしても、事故により、大量の放射性物質を原発事故によって放出したうえ、これに付け加えて、他に回避手段があるにもかかわらず、海洋放出するようなやり方が、予防原則に反していることは明らかであり、このような措置は、環境基本法4条などに違反しているのです。

6 ALPS処理汚染水の放出は被告東電自らが原告らを含む関係者に行った約束に反する
 2011年4月、被告東電は汚染水1万トンを「緊急時のやむをえない措置」として放出しました。この時、漁業者との協議はなく、全漁連は被告東電に対して強く抗議しました。2013年には、原発構内の高濃度の汚染水が流出し続けていることを、被告東電は流出させた後に発表しました。このため、2015年、福島県漁連が地下水バイパスやサブドレンの水を海洋放出することを了承せざるを得なかったとき、タンクにためられているALPS処理汚染水に関しては、被告東電は福島県漁連に対して、「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と約束したのです。
 この約束は、事故を起こし、繰り返し汚染物質を海に垂れ流してきた、被告東電が、「もうしません」と、謝罪の上で福島県漁連と約束した、大変重い約束です。
 そして、ここに記載されている「関係者」には、福島県漁連だけでなく、少なくとも海の環境、海産物の安全性と深い関係を有する漁業者はもとより、それだけでなく、海産物加工業者や海産物を中心とする小売販売業や料理店なども広く含まれます。
 そして、この約束は、これらの「関係者」との関係では第三者のためにする契約としての法的効力をもち、被告東電がALPS処理汚染水を海洋放出するとなれば、この契約に違反することとなります。
 原告らのうち漁民と漁業関係者は、この約束の「関係者」に該当し、この第三者のためにする契約に基づいて、直接その履行として、ALPS処理汚染水の海洋放出の差し止めを求めるものです。 
 そして、本訴訟の提起は「関係者たる」原告らの「受益の意思表示」を兼ねるものです。
 なお、汚染水の処理について、次項で議論する国際社会での議論はもとより、国内においても、議論が尽くされているとはいえず、とくに福島県内では、漁業関係者だけでなく、県内の7割を超える自治体議会で反対ないし慎重な決定を求める意見書採択がなされています。
 西村康稔経済産業相は2023年7月11日、福島県いわき市の福島県漁業協同組合連合会を訪れ、ALPS処理汚染水の放出への理解を求めましたが、県漁連の野崎哲会長は「反対の立ち位置は変わらない」と従来の姿勢を崩しませんでした。海を汚染する海洋放出措置は福島をはじめとする太平洋沿岸の漁業、水産物加工業、水産物関連の飲食業の従事者に理解されておらず、未だ上記契約の「関係者の理解」という要件は充足されていないのです。よって、政府と被告東電がALPS処理汚染水を海洋放出することは許されません。

7 汚染の責任者にはより環境に負荷をかけない代替策を採用すべき義務がある
(1)より環境に負荷をかけない代替策を採用すべき義務
 より環境に負荷をかけない代替策を採用すべき義務が、汚染源である被告東電と、事故責任を負う被告国には課せられています。
 汚染水については、まず汚染水のこれ以上の発生を食い止める抜本的な措置を取ることが強く求められます。また、すでに発生している汚染水については、長期陸上保管を行い、その間に、除去装置では除去できていない放射性物質を取り除くための技術を開発し、適用することを考えるべきです。またモルタル固化などの措置も検討すべきです。現に、そうした研究は進んでおり、政府はこのような技術開発にこそ力を尽くすべきです。
 市民らが提案していた代替案であるモルタル固化処分案については、2023年8月17日の市民と国会議員による対政府交渉の中で、被告東電は、水和熱が発生すると説明していましたが、市民側から「十分対応可能ではないか」と反問したことに対して、被告東電は、「モルタル固化についてはALPS小委員会第14回(2019年9月27日)で議論した。資料5をご参照ください」と回答した。実際に当該資料をみると、モルタル固化案ではなく地下埋設案について「固化による発熱があるため、水分の蒸発(トリチウムの水蒸気放出)を伴う」と2行書いてあるだけで、議事録にも何の記載もありませんでした。つまり、モルタル固化案について議論をした、というのは事実ではなかったのです。

8 被告らはIAEA報告によって海洋放出を正当化することはできない
(1) IAEA報告の内容は、海洋放出計画を是認したものではない
 福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画について、IAEA=国際原子力機関は「国際的な安全基準に合致している」とする報告書を公表しました。包括報告書は、被告東電の海洋放出計画は「国際的な安全基準に合致」、海洋放出で放射線が人や環境に与える影響は「無視できるほどごくわずか」と評価したとされます。
 まず、最初に確認しなければならないことは、これは、影響評価のみであり、海洋放出の政策にお墨付きを与えたものではありません。
 原子力市民委員会(座長大島堅一)による2023 年7 月18 日(更新版7 月19 日)付の「見解: IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない/海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである」(甲11)は、包括報告書について、次のように厳しく批判しています。
 「日本政府の「海洋放出」決定を前提としており、ALPS 処理汚染水の処分のあり方として、たびたび挙げられてきた大型堅牢タンク保管やモルタル固化のような海洋放出以外の選択肢の評価を行っていない。
ICRP(国際放射線防護委員会)の放射線防護の基本原則 9および、これを前提として策定されているIAEA安全基準 では、放射性物質を環境中に放出せざるを得ない場合、その行為による全体的な利益が放出による損害を上回ることを示し、放出を「正当化(justification)」することが求められている 。この正当化では、放射線防護の範囲を超え、経済的、社会的、環境的要因を考慮する必要がある。
この点に関し、政府や東京電力は、海洋放出によって誰がどのような利益を得るのか、どのような損害が生じるのか、利益が損害を上回っているかについて検討を行わず、「他に選択肢がない」「廃炉・復興に不可欠」と繰り返している。つまり、日本政府と東京電力は正当化プロセスをとっておらず、したがって政府の放出決定はIAEA 安全基準に適合していない。」そして、報告書では「正当化」のセクション(2.4項 18ページ以下)で次のように記述している。
「放射線リスクをもたらす施設や活動は、全体として利益をもたらすものでなければならない。正当化は、放射線防護の国際基準の基本原則である。」
「日本政府からIAEAに対し、ALPS処理水の海洋放出に関連する国際安全基準の適用を審査するよう要請があったのは、日本政府の決定後であった。したがって、今回のIAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない。」
「ALPS処理水の放出の正当化の問題は、本質的に福島第一原子力発電所で行われている廃止措置活動の全体的な正当化の問題と関連しており、したがって、より広範で複雑な検討事項の影響を受けることは明らかである。正当化に関する決定は、利益と不利益に関連しうるすべての考慮事項が考慮されうるよう、十分に高い政府レベルで行われるべきである。」
 そして、この報告書をまとめたIAEAのRafael Mariano Grossi事務局長は、自らの序文の末尾において、「最後に、福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、この報告書は、その方針を推奨するものでも、支持するものでもないことを強調しておきたい。」と述べているのです。

(2) IAEAの中立性には疑問があるが・・・
 IAEAは、日本政府の求めに応じて作成された報告書においてIAEAの報告書は、日本政府の放出計画について「推奨するものでも、支持するものでもない」と一定の距離を置いているのはなぜなのでしょうか。日本政府の海洋放出計画は、原子力を推進してきた他の国々からも支持できない異例なものだからです。
 また、中国政府はIAEAの「データの真実性や正確性が証明されていない」と指摘していますし、韓国の最大野党の「共に民主党」も「中立性を欠いている」と指摘しています。太平洋諸国連合も深刻な懸念を表明し続けました。
 IAEAの分担金は、義務的な分担金については2019年まで日本が2位、それ以降は3位になっており、任意の拠出金については19年以降も日本が2位であり、多くのスタッフをIAEAに送り込んで、自国の政策を後押しするように、影響力を確保しているのです。このような、IAEAですら、この報告において、海洋放出が政策として正当化できるものではないとし、推奨も支持もしないとしていることは、きわめて重大です。

(3) IAEA報告書の根本的な問題
 その前提を踏まえたうえで、この報告書の有する根本的な問題点を指摘しなければなりません。原子力市民委員会は、IAEAの報告書について、2023年7月18日(更新版7月19日)に「見解: IAEA包括報告書はALPS処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである」を公表し、その評価の前提に疑問を呈している。正鵠を得た批判である。
「海洋放出されるのは、事故炉内で核燃料に直接触れて生じた汚染水を処理した水である。この水は、通常炉から排出される(トリチウムを含む)水とは本質的に異なり、両者を単純に比較するのは不適切である。事故炉から生じた汚染水を処理した水を、意図的に海洋に流すことはこれまで行われたことがない。
現在ALPSで処理後にタンク貯蔵されている水の7割近くには、トリチウム以外の放射性核種が全体としての排出濃度基準を上回って残存している。政府・被告東電は二次処理によって基準値以下まで取り除くことを前提としている。しかし、このプロセスが適切に行われるかどうかは疑わしい。なぜなら次の事実があるからである。
第1に、ALPSによる二次処理の実績がごく僅かしかなく、今後長期にわたって性能を維持し、汚染水を処理できるかどうかは不確実である。IAEA包括報告書でも、ALPSの二次処理の性能は評価されていない。したがって、海洋放出の安全性が現実に保証されているわけではない。
第2に、被告東電は、最終的に放出される放射性物質の総量や放出期間について明らかにしていない。現在においても、放射線影響評価に関して64の放射性物質のソースタームとして被告東電が示しているのは3つのタンク群における測定データにすぎない。すなわち、どのような水が放出されようとしているのか、その全貌が明らかにされていない。
第3に、放出される水に関する情報が適正に公開されない可能性がある。実際、ALPSで処理されたはずの水にトリチウム以外の放射性物質が残留していることは、2018年に報道があって初めて明らかになった。報道されるまで、トリチウム以外の放射性物質が基準内におさまっていた期間のデータだけを被告東電は政府審議会に資料として提出していた。また、一般向けの説明や公聴会においても、この不正確な資料が使われていた。
第4に、IAEAの安全レビューでは、不測の事態についての評価が行われず、政府と東京電力の楽観的な「前提」がそのまま容認されている。事故炉からの処理汚染水の海洋放出は世界にも類をみない初の試みである。ALPSの処理性能や放射性核種測定時のトラブルなど、不測の事態を想定して安全性評価が実施されなければならない。」

(4) IAEAによる海洋モニタリングによって本件放出行為の安全性を確認することはできない
 被告国と被告東電は、ALPS処理汚染水の排出後も、海洋を継続的にモニタリングして、汚染レベルが上昇していないかどうかをチェックするとしています。そのためのIAEAの監視メカニズムを創るとも言っています。
 しかし、もともと、福島第一原発事故由来の放射性物質の大半は太平洋に放出され、すでに環境を汚染してしまっているという前提を忘れてはならず、汚染レベルそのものが潮流などによって変動しています。福島原発事故起源の大規模な汚染そのものが、生態系や人間環境に与える影響そのものが未知数なのです。原子力市民委員会は、「第5に、IAEAのレビューでは、福島原発事故発生以降に大量に放出され続けている放射性物質の累積的影響に関して評価が行われていない。まずはこれまでの汚染水放出に伴う影響を明らかにした上で、追加的かつ意図的な放出がもたらす累積的影響を評価する必要がある。現在もなお、福島第一原発からはさまざまな経路で放射性物質の漏えいと敷地内汚染状態が続いており、敷地境界での線量限度1mSv/年という規制基準値を満たさない状態にある。追加的・意図的な放出は違法状態をさらに悪化させると考えられる。」
 今後、IAEAが、ALPS処理汚染水の排出後のデータを計測し、モニターし、既存の汚染値があまり増加していないことが確認されたとしても、そのことは、いかなる意味においても、今回の海洋放出の安全性が確認されたことにはならないのです。

9 結論
 よって、原告らは、被告国が令和4年7月22日付で行った東京電力ホールディングス株式会社に対する福島第一原子力発電特定原子力施設に係る実施計画の変更認可(原規規発第2207222号)が、原子炉等規制法64条の3第3項、並びに、わが国の批准したロンドン条約1996年議定書の3,4条、国連海洋法条約の194条、207条などに反し、重大かつ明白な違法があるものとして無効確認し、他に適当な方法がないことから、当該変更認可の取消しを義務付ける判決を求める。
 また、原告らは、被告国が令和5年5月10日付で行った東京電力ホールディングス株式会社に対する福島第一原子力発電特定原子力施設に係る実施計画の変更認可(原規規発第2305107号)と令和5年7月7日付でした使用前検査終了証(原規規発第2307071号)の交付を、原子炉等規制法64条の3第3項、並びに、わが国の批准したロンドン条約1996年議定書の3,4条、国連海洋法条約の194条、207条などに反し、違法なものとして取り消すとの判決を求める。
 さらに、原告らは、それぞれが有する漁業行使権、漁業者の人格権、一般市民の平穏生活権にもとづいて、妨害排除請求として、被告東電に対して、ALPS処理された汚染水の海洋への放出をしてはならないとの判決を求める。

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by kazu1206k | 2023-09-19 22:57 | 脱原発 | Comments(0)

佐藤かずよし


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