5月3日、日本国憲法が施行されてから77年目の憲法記念日。
いま、世界では、ウクライナとパレスチナ・ガザなどで戦争が続き、多くの子どもたちや市民、兵士のいのちが失われています。日本では、諸物価の高騰が市民の生活を直撃し、格差の拡大、貧困の深刻化と、生存権が脅かされています
また、台湾有事を煽り、危機便乗型の軍事増強、人々と日本社会を戦争に動員しようとする動きが進んでおり、政府は、敵基地攻撃能力の保持、南西諸島へのミサイル配備、新弾薬庫建設など台湾有事に向けた沖縄の軍事要塞化を進めています。
政府は、第三国への次期戦闘機の輸出を可能とする閣議決定しました。国会でも、9条改憲に向けた前段として、非常事態に備え国会議員の任期を延長することなどの憲法改正必要論を強め、緊急事態条項を加える憲法改正の方向が改憲勢力によって進められています。
さらに、大規模災害や感染症等の事態に対応する目的で、国が地方自治体に対し補充的な指示ができるとする制度の創設も審議され、地方自治を蔑ろにする企ても進んでいます。
日本国憲法の前文は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の三大原理を唱い、平和主義、個人の人権として平和的生存権を強調しています。
平和主義の憲法9条と社会権である生存権を国民に保障し、国にその向上と増進を求める憲法25条の重要性が示されています。
日本国憲法は、アジア太平洋15年戦争の敗戦を受け、1947年5月3日に施行され、主権者である国民が国家権力を縛るという立憲主義の下で、個人の権利を保障するため国家権力を規制する最高法規です。
厳しい日本の現状を認識し、行動しなければならない2024年の憲法記念日です。
5月3日に、日本弁護士連合会が公表した会長談話を、ご紹介します。
憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
本日は、日本国憲法が施行されてから77年目の憲法記念日です。
現在、世界では武力による衝突が多発しています。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月から生じているハマス等パレスチナ武装勢力とイスラエルとの間における紛争など、各地で武力紛争が生じており、世界中に重大な被害と混乱、不安をもたらし続けています。
そのような状況の中、政府は、2022年12月に閣議決定した新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に基づき、他国の軍事拠点などを直接攻撃できる長射程ミサイルの導入前倒しを決めるなど、敵基地攻撃能力ないし反撃能力の保有に向けた取組を加速しています。また、政府は、本年3月、イギリス、イタリアと共同で開発する次期戦闘機について、第三国への輸出を可能とする閣議決定をしました。
しかし、過去の紛争を振り返ってみても、武力行使は更なる武力行使を招く結果にしかなりません。日本は戦後、唯一の被爆国として諸外国との間で平和的外交関係を築いてきました。世界中が武力によって混乱、不安が生じている今こそ、日本政府は武力に依拠するのではなく、日本国憲法が掲げる恒久平和主義、国際協調主義の原理に基づき、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすべきです。
また、国会では、憲法改正手続法における国民投票に関する広告規制の議論が十分に行われていないにもかかわらず、自民党からは緊急事態条項の創設を想定して、衆議院憲法審査会に憲法改正条文案の起草機関の設置が提案されるなど、憲法改正に向けた取組が進められています。さらに、大規模災害や、感染症のまん延等の事態への対応を目的に国が地方自治体に対して補充的な指示ができるとする制度の創設も審議されています。当連合会は、極度の権力集中による政府の権力濫用の危険性を避けるためにも、国民主権や地方自治の本旨の観点を踏まえ、いずれの議論についても反対の意見を述べています。
日本国憲法は、あらゆる人が個人として尊重され、多様性を認め合う社会の実現を目指しています。当連合会は、この理念を大切にし、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、基本的人権の擁護と社会正義の実現のための活動を積極的に行ってまいります。
2024年(令和6年)5月3日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子