NPO法人原子力資料情報室が「福島第一原発2号機デブリサンプル採取に意味はあるのか」との声明を公表しました。
以下、ご紹介します。
【原子力資料情報室声明】福島第一原発2号機デブリサンプル採取に意味はあるのか
2024年9月10日
NPO法人原子力資料情報室
2024年9月10日、東京電力は福島第一原発2号機デブリのサンプル採取[1]に着手した。だが、廃炉の本丸にたどり着いたと喜ぶことはできない。このサンプル採取には、デブリを取り出したとアピールすること以外に、意味はほとんどないからだ。
政府や東京電力は、サンプル採取で得られる核燃料デブリの性質や状態などのデータは、本格的な取り出し工法の検討など、今後の廃炉を進める上で欠かせないとしている。だが、採取できるサンプルは合わせて880トンと推定されるデブリのうち数グラムに過ぎず、しかも2号機の限られたエリアにあるデブリのほんの一部だ。これを分析したとして、全体のデブリの性状を代表するものとはとても言えない。これでは本格的な取り出し方法の検討は行えない。もしこれで全体の取り出し方法の検討が行えるのなら、サンプル採取などしなくてもできる話だ。
今回のサンプル採取計画では、作業員の被ばく線量の目標値が12mSvと設定されている。工程を確認すると、人手を介する部分や、ヒューマンエラーの発生する余地も多い。わずか数グラムの取り出しにもかかわらず、これほど高い目標値が設定されていることは、将来のデブリ取り出しで直面する困難性を示唆している。
むしろ、このように過酷で無意味なデブリのサンプル採取を行うのではなく、国や東電は廃止措置そのものについて考えるべきだ。「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」では、廃止措置の完了は事故から30~40年後、つまり2051年までとされている。だが、そもそも廃止措置後のサイト跡地の姿すら描かれないまま、これまで廃止措置は進められてきた。これまでは放射性物質の大量放出の抑制や、使用済み燃料プールの燃料取り出しなど、緊急度が高かったり、手が付けやすかった課題が多く取り組まれてきた。だから廃止措置後の姿が描かれなくとも対応できた。だが、これからはそうではない。デブリを取り出すとして、いったいどこまで取り出すのか、建屋はどうするのか、放射性廃棄物はどうするのか、など、廃止措置後の姿が無ければ検討できない課題だらけだからだ。
また、8兆円と見積もられている廃止措置費用は、デブリ取り出しまでの費用であり、膨大に出てくる放射性廃棄物の処分費用を含めると、これを大きく上回ることは確実だ。東京電力は廃止措置費用8兆円の捻出のために廃炉等積立金として2017年度から年平均3000億円を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に積み立てている。8兆円の積み立てには単純計算で27年かかる。2051年に廃止措置を完了させるのであれば、廃棄物処分費の積み立ても考えなければならない。だが、東京電力にそのような体力は残されているのか。
8月22日、本来のデブリサンプル採取開始の日、「福島への責任貫徹」が経営の一丁目一番地だと説明してきた東京電力の小早川智明社長は新潟県柏崎市で柏崎刈羽原発の再稼働に向けた説明を行っていた。経営がどこを向いているのかよくわかるエピソードだ。福島第一原発の廃止措置がどこまで可能なのか、そしてそれは2051年までに実現可能なものなのか、資金はそれまでに準備できるのか。事故から13年、福島への責任貫徹と言うなら、そろそろ真剣に検討するべき時だ。
以上
[1] 国や東京電力はデブリ取り出しだと説明しているが、これは単に調査のためのサンプル採取であってデブリ取り出しとは言えない。
参考:福島第一原子力発電所 特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について等への適合性について(2号機テレスコピック式試験的取り出し装置による試験的取り出し)