10月25日、東京電力福島第1原発事故の東電株主代表訴訟の控訴審で「現地進行協議」が行われ、東京高裁の木納敏和裁判長と伊藤正晴裁判官が、第一原発の1号機から6号機までの敷地内に立ち入りを視察しました。
津波への安全対策を怠り福島第一原発事故を招いたとして、旧経営陣5人に対し会社への22兆円の損害賠償を求めた東電株主代表訴訟は、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は2022年7月13日、4人(勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長)に対し、東京電力福島第一原発事故の責任を認め、連帯して13兆3210億円の支払いを命じる判決を下しました。
東京地裁の朝倉裁判長らも、東電役員らに13兆円の支払いを命ずる判決の前、2021年10月に現地を視察しています。控訴審は11月27日に東京高裁101号法廷で口頭弁論が開かれ、結審する予定です。
⚫️以下は、裁判官とともに第一原発構内を視察した弁護団の海渡雄一弁護士のご報告です。
今日は、東京電力福島第1原発事故を巡る東電株主代表訴訟の控訴審の審理で、東京高裁の木納敏和裁判長と伊藤正晴裁判官が、第1原発の1号機から6号機までの敷地内に立ち入り、構内を視察しました。この手続きは、「現地進行協議」といいます。検証のように調書は作成しませんが、裁判所が争点を的確に把握するために実施されたものです。
東京地裁の商事部の朝倉裁判長らも、2022年7月13日に東電役員らに13兆円の支払いを命ずる判決のまえに、2021年10月に同様に現地を視察していました。
今回の進行協議は、木納裁判長の強い希望で実現したもので、高裁レベルでの裁判で、裁判官が福島原発の事故サイトに現地入りした初めてのケースとなります。ポイントは次の4点です。
1 津波に対して脆弱な立地
福島第一原発が約30メートルの台地をダイナマイトで爆破して、20メートル掘り崩し、大地の上につくられたブルーデッキという場所に立つと、このサイトが津波に弱いことが一目瞭然です。
2 津波の侵入は簡単な工事で防ぐことができた
また、今回の進行協議では、東電の担当社員から、津波の侵入経路の詳しい説明を受けました。大物搬入口を頑丈なものに変えておく、吸気のためのルーバーに覆いを付けておく、ブロックにできていた開口部をふさいでおくといった、事故後に実施された簡単な対策で、津波の侵入が防ぐことができたことが明らかになりました。
3 現実の津波は予測されていた程度
また、東京電力は、発電所を襲った津波が、極めて大きな津波で予測が困難であったと主張していますが、現地に残された津波の痕跡は10メートル盤に五メートル程度、5-6号機は50センチから1メートル程度で、巨大な津波とは言えないことが明らかになりました。
4 電源盤さえ助かれば、事故は未然に食い止められた
また、1-4号機、5-6号機のどちらでも、空冷式の非常用ディーゼル発電機は稼働したにもかかわらず、1-4号機で電力が供給できず、5-6号機で電力が供給できたのは、1-4号機では、電源盤が全滅したのに対して、5-6号機では電源盤が生き残ったことが決定的に重要でした。つまり、電源盤のある場所だけを水密化しておくだけでも、事故の結果を回避できたのです。
この訴訟は11月27日に東京高裁101号法廷で口頭弁論が開かれ、結審する予定です。口頭弁論は10時半から17時まで、一審被告のプレゼン、東京電力によるプレゼンにつづいて、午後は一審原告側のプレゼンが行われる予定です。
弁護団は、手分けして2時間のプレゼンを行う予定です。多数の皆さんの傍聴を期待しています。
提供:武藤類子